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「マーロア、明日の午前中にいつもの部屋へ向かうように」

「はい。先生。荷物は冒険で使う物だけでいいですか?」

「そうだな。長期の旅に必要な物の用意は必要だが、無ければ村や街で買い足せばいい」


 レヴァイン先生が明日の事を確認するように話をした時、ファルスは目を丸くする。


「マーロア、明日にはここを発つのか?」

「えぇ」


 私は明日が楽しみだと微笑みながら返事をするとファルスは少し寂しそうな表情になっている。


「そうか。俺も一緒に行きたいけど、こればっかりはな。俺、偉くなったら迎えに行くよ。それまで旅を楽しんでこいよな」

「ふふっ。期待しないで楽しみに待っているわ。まぁ、あそこで待っているお嬢様方がファルスを離さなそうよね」


 いつの間にか諦めていたと思っていたファルスと知り合いたい女の子たちがバルコニーの入り口付近で数人待機していたわ。私もレヴァイン先生もその様子を見てフッと笑った。


「あまり彼女たちを待たせてはいけないな。ではこれくらいにしてホールに戻るとしよう。ファルス、手紙を待っている」

「はい! 先生」


 私たちはホールに戻ると、ファルスは令嬢たちに早速取り囲まれてしまったわ。


 その様子を見ながら先生は護衛に戻って私は壁の花になるように移動し、そっと壁際で立って周りの様子を見守ったわ。父は挨拶回りが済んだというので私の所に戻ってきた。


 ファルスもそれを遠くから確認したようで女の子たちに挨拶をしてこちらへと戻ってきた。


 ファルスは従者としてのスキルが活きているのか女の子に対して紳士に対応していて凄いと思う。


「お待たせしました。帰宅しますか?」

「あぁ、ファルス君はいいのかね? 将来の妻を探さなくて」

「旦那様、ご冗談を。彼女たちに興味はございません」


 あっさりと言ってのけるファルスに少し驚いた。モテるせいで興味が薄れてしまっているのかしら。疑問に思いながらもファルスにエスコートされて卒業パーティの会場を後にした。


 邸についてからファルスはいつもの癖なのかサロンで従者モードになり、お茶を淹れてくれる。


「ファルス、明日は仕事なの?」

「休みを取っているんだ。心配しなくても明日、王宮まで送るから。旅の準備はもう終わった?」

「一応いつも通り、野宿の準備と少しの着替えと……」


 私が説明しているとファルスの顔色が変わってくる。


「……お嬢様、一度私と確認致しましょう」


 そう言うと、サロンを出たと思ったら、ファルスはアンナを連れて三人で部屋に入って荷物を確認する。


 アンナはドレスを入れたがっていたけれど、平民の旅の準備と少し感覚がずれているらしい。


「おいおい、これで明日出発する予定だったのか。いつもの野宿の準備はいいとして旅に必要な物が足りないな」


 ファルスはアンナに指示を出して足りないものをリュックに入れていく。アルノルド先輩の作ってくれたリュック大活躍だ。他の人なら野宿セットでも十分だと思うの。背負っていくのが大変だものね。


 肌や髪の手入れ道具や食糧も入れていた。女を今から捨ててどうするんだと叱られてしまったわ。


 お手入れの道具を置いていこうとしていた私にアンナも呆れてしまっている。


 だって、仕方がないのよ? 

 私は冒険者だもの。


 と言い訳をしつつファルスに詰めなおしてもらった荷物はクローゼットの前に置かれた。


「マーロア、明日は鍛錬してから行くんだろう? 俺も付き合うから今日は早く寝た方がいい」

「そうね。そうするわ。ファルス、ありがとう」


 私は早々にベッドへ入る準備をして眠りについた。


 翌日はいつもと変わらず鍛錬場に行くと、ファルスとレコが居た。朝早くにレコがいるのは珍しい気がする。私たちは三人で走り込みをして腕立て伏せなど軽いメニューをこなしてから打ち合いをする。


 ファルスは騎士団での生活でかなり剣術が成長したみたい。私はドゥーロさんとの練習で魔法と剣術を組み合わせた方法で戦うスタイル。


 ファルスもレコもこの方法に不意を突かれたようで驚いていたけれど、面白いと喜んでいたわ。とても刺激になったらしい。


 危なく鍛錬で時間を忘れる所だった。急いで着替えて食堂へと向かう。食堂には父とテラが待っていたわ。昨日の話をしながら食事を終えて部屋に戻り旅装着替える。


「お父様、では行ってまいります。何かあれば魔法便をお願いしますね。各地でお土産を送りますわ」

「……ああ。気を付けて行くように」

「姉様、気を付けて下さいね。姉様に敵うやつはいないと思いますが、用心してくださいね」

「ふふっ。テラありがとう。手紙を出すわ。では行ってまいります」


 私は家族にハグをした後、手を振って馬車に乗り込む。後ろでファルスは荷物を持ってくれていた。


 私たちは馬車で王宮まで向かう。

 不思議とファルスとしていた会話も途切れがちだった。



 王宮の馬車乗り場の前で私たちは降りる。


「……ファルス、じゃあ、行ってくるね」

「……あぁ。頑張れよ。何かあったら俺をすぐ呼べばいい。迎えにいくから」

「うん。そうする」


 私はファルスから荷物を受け取り、ファルスは寮へ、私は零師団の部屋へと歩き出した。


「おはようございます」


 私は扉を開けて挨拶すると、そこにはジェニース団長とマルコ副団長、ヘンドリックさんとリディアさんがいつものように席に着いていた。


 そしてレヴァイン先生はソファに座って一人お茶を飲んでいた。


「レヴァイン先生! おはようございます」

「ロア、おはよう。昨日はちゃんと眠れたか?」

「えぇ、もちろん。朝からレコとファルスの三人で打ち合いしてきましたわ」

「ははっ、朝から鍛錬か。相変わらずだな。そうそう、ここからはレヴァインではなくアレンだ、ロア」

「わかりました。アレン先生」

「さて、そろそろ話をしてもいいだろうか」


 ジェニース団長がコホンと一つ咳払いをしてこちらに視線を向ける。私は敬礼して待機する。


「そんなに畏まらなくていいんだが。ロアは今からアレンと共に動く事になる。アレンが行っている任務はというと、将来零師団員になれるような逸材を見つける事と国内外で出没する強力な魔獣の捕獲や討伐だ。


 討伐が難しい場合は弱らせて騎士団へと引き継ぎをしている。詳しくはアレンから聞くといいだろう。あと、必要な魔道具などは追って知らせてくれればいい。何か聞きたい事はあるか?」


「団長、期限はあるのでしょうか?」

「期限はないが、年に一度、王家が主催する舞踏会に貴族は出席しなければいけないだろう? アレンもロアも年に一度は王都へと報告がてら戻ってくる事になるな」

「承知いたしました」


「荷物は準備したのかしら?」

「はい。イェレ先輩から頂いたリュックに詰めています」

「あらやだ。あの子ったらいつの間にか作れるようになったのね。アレンのリュックは私が作ったのよ? きっと私が作れてイェレが作れないのは相当悔しかったのでしょうね」


 リディアさんがふふと笑っているわ。


「さぁ、行こうか」

「はい! 団長、行ってきます!」


 そうして私はアレン先生と一緒に旅に出発した。


 ここまで来るのに色々な事があったけれど、夢が叶った。

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