55 ファルス視点
「ファルス君、ファルス君」
「イェレ先輩、なんでしょうか?」
イェレ先輩の研究の手伝いで魔力を魔法円に流している最中に声を掛けられて返事をする。
「マーロアのどこがいいんだい? ファルス君よ」
イェレ先輩の直球過ぎて言葉が詰まる。
「……幼い頃からずっと一緒に育ったからというのもあります。だけど、可愛いし、魔力なしって笑われていてもそれを跳ね返す力。人の機微には聡い。いつもは明るく振舞っているけれど、笑うために人の何倍も努力して陰で泣いているのが放っておけないんですよね」
「君、マーロア君と結婚を考えているの?」
「と、突然、な、なんですか」
「ほら、魔力が止まっている。ちゃんと流して」
「イェレ先輩が突然そんな変なことを言うからですよ」
「俺は至って真面目にだが。で、マーロアと結婚したいの?」
「……望んではいますが、爵位もないですから」
「爵位? ファルスの魔力は母親譲りだけど、「外見は父親似なんだよね? 父親に会いにいかないの?」
恐ろしいな。イェレ先輩にはどこまで魔力を視ているのだろうか。
イェレ先輩はふざけている様子もなく平然と聞いてきて俺は反対に返答に困った。
母は昔貴族だったが、俺を身ごもり父に捨てられたと言っていた。母の渋い顔を見て父のことを聞いてもいいのか迷い、それ以上聞くことは止めた。父に手痛く捨てられたのだと思う。
「父が誰なのかは全く知りません。母は父に捨てられてエフセエ侯爵を頼ったのを聞いたくらいです」
「……そうか。親の方からというのは難しいか。ならやっぱり闘技大会で優勝するしかないな」
「そうですよね」
「ファルスなら楽勝だろう」
「楽勝ではないですが、頑張るしかないですね」
「ガウス侯爵夫妻は嫁に来てほしいと言っているようだし、急いだほうがいいだろうな」
「……」
「ふうん。少しの間なら止めてあげてもいいよ」
「本当ですか!? でもイェレ先輩にお返しできるものがないんですが」
「見返りは……」
俺はイェレ先輩という強力な後ろ盾を味方に付けた、と思う。