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 お茶会の当日。


 侯爵家の馬車を降りると、各家の夫人や令嬢たちが騎士たちにエスコートされて開催場所の中庭へと向かっていく。女性ばかりで華やかなお茶会になりそうね。


「マーロアお嬢様、お迎えに参りました」


 私の前に現れたのは騎士服を着たファルスだった。久しぶりにファルスの顔を見てホッとする自分がいる。ファルスはしばらく会わないうちに精悍な顔つきになっていた。


「久しぶりね。ファルス、元気にしていた?」

「今回のエスコート役を任されました。宜しくお願いします、お嬢様。俺はこのために頑張ってきたんですよ? マーロアお嬢様のエスコート役は取り合いでしたからね」


 ファルスはレコみたいな話し方で戯けたように話す。


「本当? むしろ押し付け合いではなかったの?」

「お手を」


 私は差し出された手に手を重ねてゆっくりと歩き出す。


「まさか。今一番の注目株ですよ。美人で令嬢らしくないけれど、侯爵令嬢で殿下たちと繋がりもある」

「中身勝負ではないのね。婚約者のいないのは私くらいのものだわ。令嬢としては絶賛行き遅れ中ね」


「中身を知っているのは俺だけで十分でしょう? 俺が迎えに行きますからしばらく待っていて下さい」

「ふふっ。楽しみに待っているわ」


 私はファルスの言葉を軽く流しながら中庭に到着する。


 会場中の令嬢方の視線が一気に私とファルスに注がれた気がしたわ。元従者なだけあってファルスとの息はぴったりだと思う。


 なんなら生まれた時から一緒だしね。


 私はエレノア様に挨拶してから席に座る。どうやら私の席はエレノア様のお隣らしい。


 出来れば一番遠い席でひっそりと座っていたかったのだけれど、それは駄目なようだ。

 残念だわ。


「では、お嬢様。また後ほどお迎えに参ります」


 ファルスはそう言って礼をした後、他の騎士と一緒にお茶会の会場を後にする。ここからが女の戦いなのね。


 エレノア様は第三王子妃なので公務は王妃様や王太子妃様に比べるとかなり少ないが、国を纏めるために水面下でこうして努力しているらしい。流石よね。


 エレノア様の挨拶でお茶会が始まった。


 今回の参加者は十名程度。元々公爵家の数は少ないし、侯爵もそこまで多くはないの。その中でエレノア様と歳が近い令嬢や夫人となれば更に人数が絞られる。


 余談だけれど、先ほどエスコート役をしてくれた騎士たちはみんな見目麗しい方が選ばれていたみたい。


 もちろん騎士としての実力も十分にある。見目麗しい騎士にエスコートされるのは何だか気恥ずかしくなるのは私だけなのかな? 周りの令嬢たちは当たり前のようにエスコートされていたわ。


 このお茶会はエレノア様の心遣いが随所に現れている。従者が私にお茶を淹れてくれる。


 ここから訓練の成果を発表する時ね。


 私がお茶に口を付けた時、向かいの夫人から声をかけられた。


「エフセエ侯爵令嬢様は学院を卒業してからどう過ごしていらっしゃるのかしら?」


 みんなが聞きたい事をズバッと聞いてきた。そして一斉に私に視線が集まる。


「私は普段、王都にはおりませんの。国中の村々を回って旅を楽しんでおりますわ」

「まぁっ、そうですの? 侯爵様に止められません? ああ、魔力を持っていないと聞きましたわ。エフセエ侯爵令嬢様の事を侯爵様は気にも留めていないのかしら?」


 予想以上に鋭く聞いてくるのね。


「ふふっ。ご心配頂きありがとうございます。魔力の無いおかげで婚姻に囚われず自由に過ごしておりますの。父も弟も心配して頻繁に連絡をくれますわ」

「それはとても羨ましいですわ」


 微笑みながら言葉の攻撃を躱していく。


「マーロア様は貴族令嬢でありながら騎士科でとても優秀だったのですよ。あの闘技大会で優勝しておりますし、学力も常に十位以内の才女。

 魔力が無くても陛下やアイロン王太子殿下の側近に推薦される程の実力者なのですから。それに私やシェルマンの事をいつも心配してこうしてお茶会にも駆けつけてくれるので私たちは心強いのですわ」


 エレノア様が横からフォローしてくれる。


 そこからは雰囲気が一変したようで穏やかにお茶会が進んでいった。令嬢たちの興味は絵画や刺繍、今流行りのドレスなどに移り、多種多様な話が行われている。


 貴族令嬢たちはこうして情報を得ているのね。


 私は感心しながら話を聞いていく。ほぼ聞き役よね。会話の流れを作っていくエレノア様はやはり凄いわ。情報を得ながら上手く場を盛り上げている。対立している派閥もあるのだけれど、上手く仲を取り持っている。


 場が荒れる事無く、無事にお茶会はお開きとなった。退席する時は見目麗しい騎士たちがご令嬢たちをエスコートしていく。


「お嬢様、お迎えに参りました」


 ファルスが礼をすると、横に居た令嬢が話しかけてきた。


「私のエスコートはファルス君がいいわ。なんなら私の専属護衛になりなさいよ。可愛がってあげるわ」


 なんとも凄い発言だ。ファルスはというと、


「申し訳ありません。私のエスコートは既に決まっております。護衛についても騎士団から離れる事は考えておりません」


 笑顔でピシャリと答えている。令嬢は怒ると思いきや。


「もうっ。ファルス君ったらっ。いつもながらに冷たいのね。でも、そこがまたいいのよね。いつでも私の所に来なさい。じゃぁ、またね」


 と手を振ってその場を去っていった。私はその様子を見て唖然としてしまった。


「さぁ、お嬢様。我々も行きましょう」

「ファルス、い、いいの?」

「何がでしょうか? さあ、お嬢様行きますよ」


 私はエレノア様に挨拶をした後、ファルスのエスコートで歩き始めた。


「ファルスはモテるのね。どっきりしちゃったわ」

「そうか? 全然興味ないからな。次のエスコートも絶対俺がするからな」

「言葉遣いが戻っているわ。ふふっ。お願いするね」


 私はファルスに邸まで送られて帰ってきた。ファルスはオットーと何かを話した後、そのまま城へと戻っていった。


「アンナ。疲れてしまったわ」

「お嬢様、お疲れさまでした。すぐに湯浴みを用意しますね」


 アンナは上機嫌で準備してくれている。


 どうしたのかしら?


 どことなく、だけれど、邸の人たちが嬉しそうな感じ? なのよね。

 そんなに私が帰ってきた事が嬉しいのかな。


 私は疑問に思いながらも湯浴みをして部屋でゆっくり過ごしている。


 久々に帰ってきたせいなのかな? 何だか邸が慌ただしく感じるわ。


「アンナ、何だか邸が慌ただしい気がするのだけれど?」

「気のせいではありませんか? ああ、でもお嬢様のお茶会の参加や舞踏会参加でみんながヤル気に満ち溢れているのは確かですね。お嬢様を着飾らせたい人たちばかりですから」

「そうなの?」

「もちろんですよ!」


 そんな会話をしながら毎日零師団で訓練に励み一週間が瞬く間に過ぎていった。

 休みの日はアンナと一緒にドレスを選び、本当に忙しかったわ。


 ついに私のドレスが届く日となった。相手は誰だろう? 父やテラに聞いても笑って答えてくれず、ずっと気になっていたの。


「お嬢様、ドレスが届きました。サロンへどうぞ」


 アンナは飛び切りの笑顔でサロンへと一緒に向かう。


 するとサロンに居たのは……。

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