102
「ロア、4時間後に起こしてくれ」
「アレン先生、もう少し遅くてもいいですよ? 今日はそんなに魔力も体力も消費していないから」
「ああ。だがロアは十分な睡眠が必要だろう。リディアから厳しく言われている」
「ふふっ。そうなんですね」
「冗談だ」
「……」
珍しくアレン先生が冗談を言ったのでどう返していいか分からなかったわ。
まぁ、そんな冗談はさておき、先生が寝ている間に今日の報告書とアルノルド先輩宛の手紙と素材の入った袋を魔法便で送ったわ。
あと、ファルスに久々に手紙を送ってみた。焚火を前にのんびりお茶を飲んでいるとアルノルド先輩から返信が来た。
素材をありがとう。大切に使う、と。簡潔に書いてあったわ。そして新しい癇癪玉を開発したので使ってくれと少し大き目の封筒に一緒に入っていた。
先輩が送ってくれた癇癪玉類は敵に投げつけるのにちょうど良いサイズになっていた。
護身用の身につけるサイズもあるけれど、通常の癇癪玉より効果も範囲も小さい。けれど、先輩の作った癇癪玉はピンボールほどのサイズになっている。
しかも光で驚かせるだけでなく範囲は小さいけれど、効果の高い眠り粉と痺れ粉が混ぜられているらしい。これは凄い。これなら持ち運びにも便利だし、魔獣の口の中にだってポイと入れる事が出来る。
明日、アレン先生に報告しなきゃね。
ファルスからも手紙が送られてきた。今ファルスは毎日訓練に明け暮れているはずよね。
手紙を読むと、殿下からもファルスに関わるなと注意を受けたらしいけれど、実父は諦めきれず、無理やり令嬢を宛がおうとしたのだとかどうとか。とても困っているらしい。
確か実父って子爵だったわよね。ファルス自身は平民なので貴族に力で迫られると抵抗出来ないのが悔しい所よね。
それにファルス自身気づいているかどうか分からないけれど、とても恰好良くてで学院でも人気だったわ。騎士としての腕もいいし、実父としてはどうしても取り込みたいのだと思う。ずっと放置していたのに今更よね。
どうにか出来ないかしら。
……そうだわ。
こういう時こその貴族よね。
私は父宛てに手紙を書くことにした。魔法便で父に送ってもきっと忙しくて目を通すのは後回しになると思うのでオットーに送ればいいわよね。
少しでもファルスの力になれればいいわ。一応ファルスの後ろ盾として侯爵家は支援しているので協力してくれると思う。
私はサラサラと手紙を書いて魔法便を出した。なんだかんだと時間は過ぎていく。その後は先生と交代して眠りに就いた。
翌朝はスープとパンで食事をした後、次の依頼の魔獣を探しながら歩き出す。倒しては野宿して倒しては野宿を繰り返し四日が経とうとしていた。本格的な野宿生活に身体も慣れてきたわ。
朝の日課で剣に魔法を施していく。学院時は剣に魔法無効の術を施す以外は駄目だったけれど、今はその制約もないので掛ける練習をしている。
この作業をついつい極めたくなってしまうのがなんとも言えないわね。
「さて、ロア。討伐も全て終わったし、村に入る」
「はい、先生」
次の村は採掘場があり、日々男たちが鉱物を掘り出しているのだとか。ここで出る魔獣も特殊らしく、鉱物が背中から生えている魔獣がいると資料に書いてあった。
剣で切れないなら魔法で倒すしかない。どんな魔獣か遭ってみたいわ。それこそ癇癪玉・改が活躍するんじゃないかな。
私たちは四日ぶりに村に入って人を見てほっとする。
サバイバル生活から生きて戻ったと実感する瞬間よね。
私たちはいつものように宿を確保してからギルドに入る。この村ではギルドが盛んなようで様々な依頼書が張り出されていた。
私たちはギルドに依頼完了の手続きをしてギルドを後にする。
今日、明日くらいはゆっくり休みたいわ。
アレン先生と一緒に村の中を一通り回って状況把握する。活気がある村だけれど、一部で荒くれ者と呼ばれる人たちがいるようだ。
今日は村の中を見回るだけにして明日は鉱山周辺に行ってみる事になった。
「ロア、今日はこれで解散だ。報告書を纏めて後で部屋に持ってきてくれ」
「分かりました。でも部屋に入ったらすぐに寝ちゃいそうです。野宿が続いたからもう眠くって」
「そうだな。久々のベッドだからな。猶更早く書くように」
「はーい」
私は部屋に戻り、イェレ先輩方式で加速魔法を使い、カリカリと物凄いスピードで報告書を書き上げていく。毎日報告書を先生と交代で書いているので慣れてきた。
手早く書いたのはいいけれど先生の部屋に持っていくのが面倒になってきた。もう眠いし、隣の部屋だけれど、魔法便を使っちゃおう。
ポイッと送って私はそのままベッドにダイブ。外はまだ明るかったけれど、疲れていたせいもあってそのまま寝てしまったわ。
翌日、起きたのは昼過ぎだった。
あぁ、寝過ごしてしまったわ。魔法鳥で先生に今起きましたと連絡するけれど、反応がない。まだ先生も寝ているのね。
そりゃ連日の野宿で疲れたわよね。私は久々の湯あみを堪能して食堂で遅い朝食兼昼食を取り部屋に戻った。
今日は鉱山に行く予定だったけれど、明日に変更よね。部屋でゴロゴロしていると、先生の魔法鳥が飛んできた。
『ロア、今起きた。少し体調を崩してしまったようだ。熱っぽいのと咳が止まらなくて、薬を買ってきて欲しい』
先生が体調を崩すなんて珍しい。
私は『分かりました』と返事をした後、宿のおかみさんに薬を売っている店を聞いて買い物に出た。中央にある広場から少し行った所にあるらしい。
私は特に気にする事もなく広場を抜けて角に薬屋の看板が掲げられている建物を見つけたので入ってみた。
店内には様々な薬草が干されていて植物の香りが部屋一杯に広がっている。若い女の人が店番をしていた。
「いらっしゃいませ」
「連れが体調を崩してしまったんで薬を買いにきたのです。熱と咳が出ているみたいで」
「それならこの煎じた薬草が良いですね。魔力をお持ちですか?」
女の人が瓶に入った粉状の薬草を棚から取り出して見せる。数種類の薬草がブレンドされているみたい。この店オリジナルの配合なのだと思う。
「魔力? 連れは魔力を持っていますが」
「いえ、この薬はそのまま飲んでも効果があるのですが、治癒魔法を混ぜ合わせると、と~っても良く効くんです。
ただちょっと治癒魔法を丁寧に掛けられる方がいれば良いのですが、出来なければそのままお飲みくださいね」
「ここでは薬に魔法を掛けて貰えないのですか?」
「えぇ、残念ながら。私は魔力を持っていないですし、魔法を掛けてすぐに飲んでもらわないと効果はないのです。物に魔力が殆ど留まらない事をご存じですよね?」
「確かにそうですね。連れは魔力を持っているので自分でなんとか出来ると思います。この薬を下さい」
女の人は瓶から匙で紙に小分けに薬を入れてくれる。
「三日分です。朝昼晩と食前にお飲みください」
私は飲ませ方を聞いた後、代金と気持ち代を払って店を出た。薬って意外に高いのね。知らなかった。
治癒魔法は怪我に特化しているので病気にはあまり効果がない。全く効かないわけではないが、落ちた体力を回復させたり、弱った内臓を元通りにしたりする効果はあるので殆どの病気は日にち薬と言われているわ。
根本的な治療はないのでやはり薬は必要になる。