100
「……ア、ロア」
寝ている私を誰かが起こす。眠い目をこすりながら起き上がると、そこにはアレン先生が今から出掛けるような服装で立っていた。
「アレン先生? どうしたんですか? まだ夜中ですよ?」
「ロア、襲撃だ。すぐ準備を」
!!
私は手早く支度する。といっても寝間着で寝ている訳ではないので起きて帯剣したり武器の用意をするだけなのだが。
「先生、襲撃って? 魔獣? 夜盗?」
「隣国からの兵士のようだ。敵数は20名ほどだ。認識阻害を掛けろ」
【緊急事態発生、こちらアレン。国境の村ザルトンで夜盗に扮した隣国からの襲撃。敵は二十名程度】
先生は私が準備している間にイヤーカフで零師団に連絡を取っている。私は先生に言われるまま認識阻害を掛けて戦闘準備に取り掛かる。
隣国と戦争はしていないはずなのになぜだろう?
私は疑問を持ったまま外に出た。
静まり返ってはいるが、確かに人の気配があちこちからしている。
【アレン、ロア、至急対処せよ】
団長の声が返ってきた。
先生は小声で『相手に悟らせないように倒していけ』と言ってから先生は気配を消した。私も指示に従い、気配を消し去り、敵を探していく。
相手は夜盗のような恰好をしているが、仕草は確かに騎士のような振舞いだ。国境警備の兵士は一体何をしているのか。
そう思いながら各々村人を捕まえようとしている敵を一人、また一人と後ろから気絶させていく。殺すのは簡単なのだが何せ情報がない。縄で縛り上げてから宿の食堂スペースに放り込んだ後、魔獣用の強力睡眠薬を嗅がせ更に起きてこられないようにしておく。
敵もまさかこんな辺鄙な場所に零師団が居ると思っていないのかあまり警戒をしていない。そう難しくない状態で半数ほど捕縛出来た。
残りはどうやら村長や村人たちを捕まえて一ヶ所に集めているようだった。
私はアレン先生と落ち合い、先生の指示に従う。先生はリーダー格の人物とその周辺にいる五人を、私は残りの五人を倒す事になった。
魔法を使うだろうから私の受け持つ五人は一気に仕留めなくてはならない。
リーダー格の一人と食堂で寝ている敵を生かしておけば後は殺しても問題ないのだとか。
いつもは魔獣しか倒したことのない私にとって対人戦は苦手だ。幼いころから魔獣と戦って怪我や死者を見てきても、ね。でもこればかりは仕方がない。
自分がやらなければ村人や兵士が殺されるし、隣国が攻めてくる。そうなればもっと死者は出てしまう。
私はそっと兵士たちの後ろに忍び寄り、先生の合図で魔法を使い一気に頭を撃ちぬいていく。
敵は最初の二人が倒れた時に意味が分からなかったようで混乱しかかっていたけれど、リーダー格の騎士が『敵は認識阻害や気配を絶っている、気をつけろ』と叫んでいる。
その声を聞いた部下たちが我に返ったみたい。冷静になられると認識阻害は効かないだろう。三人目を倒した所で私は癇癪玉を投げつけた。村人を巻き込んでしまうけれど、怪我するよりかはマシよね。目くらましが効くか怪しかったけれど、怯ませる事は出来たようだ。
村人たちが驚いて騒いだ事も相手の注意を躱せたのも大きい。身体強化で残り二人を素早く斬りつけた。死ぬことは無いけれど、大怪我には間違いない。
攻撃能力を奪って動けなくしていく。私の持ち分は終わった。アレン先生を見ると、アレン先生もリーダー格の捕縛を終えていたわ。
「村長さんたち、大丈夫ですか?」
私が声を掛けると、村長は青い顔をしながら頷いた。村長の話ではいきなり盗賊姿の男たちが村へ押し入り、村人を中央のこの広場に集めていたようだ。抵抗する者は殺されたと言っていた。
どれくらいの被害があったのかはまだ分からない。
兵士たちが居る建物はどうやら被害が無かったが、国境の夜間の見張りを担当していた兵士たちは皆こと切れていた。
【対処完了。事後処理をお願いします】
【了解。すぐに向かわせる】
私たちは村人たちを解放しながら被害状況を確認していると、先ほどまで村長たちが集められていた村の中央にぼんやりと魔法円が浮かび上がり、筆頭魔術師と第一騎士団長が姿を現わした。
余談だけれど、第一騎士団長は私が学院入学試験で実技の相手をしてくれたヴィーノさん。
アレン先生が推薦してヴィーノさんが実力を見極めに試験会場にいたのだとか。まさかあの場で試験官が問題を起こすとは思わず、だったらしい。
まぁ、私はヴィーノさんのおかげで入学出来たのだけれど。
夜の遅い時間にもかかわらず、二人ともしっかりと仕事をこなしている。流石だわ。私たちは襲撃と被害状況の報告を行い、二人に引き継ぐ。
あくまでも私たちは影的な存在だからね。表立っては動かない。
もちろん認識阻害も掛けっぱなしだ。
とりあえず、引継ぎも終わったので私たちは宿に戻ることになった。
筆頭魔術師と騎士団長はこれから状況を把握して必要な人材や犯人たちの処遇を決めるのだとか。多分王都に帰る時に一緒に連れて帰る事になるのだと思う。
翌朝、というより既に昼になっていたけれど、私は起きた。アレン先生は既に起きて零師団と連絡のやり取りをしていたけれどね。私はまだ寝ていても良いらしい。
アレン先生は忙しくしているので私はそっと起きて食堂に行き、食事を用意してもらう。
きっと先生もご飯をまだ食べていないから宿屋の主人にお願いをして軽い軽食を作ってもらい部屋に戻った。
「先生、食事を持ってきました」
「ロア、ありがとう。昨日はバタバタしたな。久々に緊張した」
「先生が気づかなければ私はどうなっていた事か」
「まぁ、仕方がない。その時はその場で制圧していただろうし問題ない」
「それだといいのですが」
ちょっと反省よね。野宿する時は常に魔獣が向かってくる可能性があるから寝ていてもすぐに起きるのだけれど、宿では油断していたわ。そういう事もあるのね。先生も報告に一段落ついたみたい。一緒に食事を食べ始めた。
「先生、この後どうするのですか?」
「あぁ、この村を明日くらいにでようと思っていたが、騎士団の処理が終わるまでは一応滞在した方がいいだろう。今、魔獣が騒ぎ出したら面倒だ。周辺で騒がないように狩っておく方がいいと思っている」
「隣国とは諍いがないものだと思っていました」
私は思った事を口にする。
「隣国との仲は良いほうだが、あちらの国も一枚岩ではないんだ。隣国との諍いをネタに王家を揺さぶりたい奴等もいるのだろう」
確かに、この国も昔のやらかしを引きずり未だ王族を狙う者もいる。隣国も様々な理由があるのか。
私たちはさっと食事を終えた後、周辺の魔獣を狩るためにギルドへと向かった。
今日は特段することもなかったため、私たちは魔鳥やボア類を狩ることにしたの。
今では随分と楽になった魔鳥の討伐。しっかりと血抜きも行う。これで当分村の食糧は大丈夫だと思うわ。
村の周辺も安全になったみたいで良かった。村の方はどうかしらと心配しながら村にもどってみると、どうやら魔術師長は先にリーダー格を連れて王都に戻るようだ。
今、王宮の方で必要な人材を選んでいるらしく明日には魔術師と騎士団数名が転移してくるそうだ。
私たちは基本的に他の団との接触はしない事になっているので冒険者として滞在している。他の兵士や団員には私たちが滞在していることを知らせないらしい。
王都に連れていかれる敵はこれから魔術師によって尋問される。早めに吐いた方がいいと思うわ。尋問官はエゲツナイと聞いている。