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【完結済】七度目の転生、お腐れ令嬢は今度こそ幸せになりたい ~何度転生しても呪いのせいで最悪な人生でしたが七度目で溺愛され幸せになりました~  作者: 北城らんまる
第三部 お腐れ令嬢

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Episode67.「やり方が汚すぎますのよ」-敬虔なる信徒《ロドル・ゲマイン》②-




 そして、作戦通り誘拐されたロサミリスはというと──


(いた)っ……!? ねえ、そんな大事な存在だったら、もっと国賓級に丁重に扱ってくれないかしら!? あっちこっち体をぶつけられてすごく痛いんだけれど!?)


 荷物同然の扱いに、憤っていた。


(大事でしょ? 主のもとへ、命を刈り取らず五体満足でわたくしを連れて行くのが使命なんでしょ? だったらもう少し運び方を工夫しなさいよ。痛いし、こちとら気持ち悪くて吐きそうだったのよ!?)


 目隠しをされて、腕を後ろで回されて。

 縄で縛られ、黒い袋に詰め込まれて。

 マントを被った男に担ぎ上げられ、そのまま馬で走られて。

 馬車酔いに似た気持ち悪さに、おえっとなりそうになりながら我慢し。

 ようやく地面に足が着いて、やっと丸太のように脇で抱えられずに済むと安心したのもつかの間。

 またしても荷物のように荷馬車に投げ捨てられ、硬い木に体をうちつけた。

 視界を覆われているから、受け身というものが取れないのだ。


 荷馬車が小石を轢いて跳ねると同時に、体がうちつけられる。

 痛い。

 とにかく痛い。

 あと腹立たしい。


(ああ、もう! さっきのマントの男、絶対に許さないわよ。お客様に対するおもてなしの心っていうものがまるで足りてないわ!)


 ぷんすかぷん。

 誘拐された身でありながら、ロサミリスは一人怒る。

 そうして過ごしている内に、大きな音を立てて荷馬車が止まった。

 袋ごとロサミリスの体が持ち上げられ、どこかへ運ばれる。


(階段を降りてる? 地下に向かってるのかしら)


 ドスンっ、と、床に降ろされる。

 袋の口が開けられて、風通しがよくなる。

 目隠し代わりの布が取り外されて、ロサミリスの視界が開けた。


「立て」


 かなり暗い。

どこかの部屋みたいな場所だったが、ロサミリスには何の場所か皆目見当もつかなかった。


「こちらへ」

「そんなに怖い顔しなくてもちゃんと従いますわ。それよりもあなたにお願いがあるのですが、よろしくて?」


 ここまでロサミリスを連れて来た五人組は、顔に仮面をつけていて顔が分からない。腰回りにはいくつもの武器がぶら下がっていて、隠密行動に長けた暗殺者のような雰囲気を持っている。

薄暗い光でも、男の表情が少し険しくなったのが分かった。


「なんです」

「この手の縄、外してくださらない? 別に逃げたりしないから」


 黒い手袋の上から、縄で縛られている。

 固く結ばれており、動かしてもビクともしない。

 後ろで縛られているため、ちょっと痛いくらいだ。


「ダメです。我々の命は、あなたをソニバーツ大司教のもとへ連れて行くことのみ。そのような勝手な行動は出来ません」

「そう……」


 分かり切っていたことではあるけれども。


「ねえ。あなたたちも敬虔なる信徒(ロドル・ゲマイン)の一員よね。ミラを信仰しているの?」

「我々が信仰しているのはミラではない。ソニバーツ大司教だ」

「そうなの」

「無駄口が多い。黙って歩け」


 ロサミリスは閉口し、無言で歩みを進める。

 しばらくして、広い場所に到着した。

 見上げるほどに天井が高く、上の方にある小さな窓から太陽の光が差し込み、中央を淡く照らしている。

 まるで教会の大聖堂のようだと、ロサミリスは思った。

 

「ソニバーツ大司教、連れてまいりました」


 大司教、と言われた通りに、ソニバーツは上等な厚いローブを着ていた。

 四十を過ぎてなお美しさを保ち、整った口もとには僅かな笑みが湛えられている。

 ソニバーツが恭しく(こうべ)を垂れた。


「ここまでのご無礼をどうかお許しください、ロサミリス様」

「縄で縛られたときはすごく痛かったですわ。布で目隠しされたときは非常に不愉快だったし、袋に入れられた時は天地逆転した感じがして吐き気がした」

「もっと丁重にお迎えするようにと言いつけておいたのですが……申し訳ありません。不躾だったようです。今後はこのようなことがないように、再度子どもたちを教育しておきますので、どうかご容赦を」

「人をなじるような悪趣味は持ち合わせていませんわ。それよりもソニバーツ卿、わたくしはどうして連れてこられたのでしょう」

「ええ、ちゃんとご説明いたします、我らの姫君よ」


 我らの、という言葉にロサミリスは眉をひそめる。

 縛られていた不快感がなくなったのに気付いたのは、その時だった。いつの間に移動したのだろう。ソニバーツが流れるような仕草で、手首を縛っていた縄を切っていた。


「このような物をロサミリス様に施すなど…………あぁ、手首が赤くなっていますね」


 手が自由になった。

 つまりソニバーツは、ロサミリスが逃げたり抵抗したりしないことを分かっている。


「我々は敬虔なる信徒(ロドル・ゲマイン)という宗教組織です」

「知ってますわ。帝国中から邪神と呼ばれ、嫌われている神ミラを信仰している組織でしょう」

「ご名答。補足するならば、ミラがどのような思いを抱き、どれだけ人々を愛していたか広めるための組織です」

「立派ですね。考えだけなら、だけれど」

「……。もしかしてやり方に不満を抱いていますか?」

「ええ、もちろんですわ。もっと堂々とやればいい。信者集めの為に皇宮の金を横領したり、密売人(バイヤー)の手を借りたり、やり方が汚すぎますのよ」

「私も、最初は真面目に活動していました。でもそれだけではダメだと分かったのです」

「ダメ?」

「帝国にはびこるミラへの差別はすさまじいものです。真面目に布教するだけでは、誰も耳を貸さない。ある者には水を、ある者には生ごみを投げ捨てられました。

 ──貴女(あなた)だって、ミラのことはお嫌いでしょう?」


 硝子玉のような目を、ロサミリスは真正面から見据える。

 地を足で踏ん張り、顎を引き、口を開いた。


呪い(コレ)を宿らせた元凶の神よ。好きになんてなりっこないわ」

「ええ。そうですね…………私にとってはミラと通じ合える唯一の〈祝福〉でも、貴女にとっては破滅に導く〈呪い〉なのでしょう。おっと、無駄話がすぎましたね」


 手を伸ばし、聖堂から右に抜ける通路をソニバーツが示した。


「では、向こうで待っている二人の女官の指示に従い、湯あみをなさってください」

「こんな状況で従うと本気で思っているつもりですか? 女官二人を倒して逃げるかもしれませんよ?」

「従いますよ。それに 貴女は逃げません。経典(コレ)が欲しくて、わざとここに連れてこられたのでしょう?」


 ソニバーツが持ち上げたのは、一冊の古びた本だった。


「『経典:アルヴォ・ミラ』。神を宿した少女ミラの傍仕えだった男、ヨハネスが記述した三千年前の書物です。確かにこの本には、貴女の欲する〈呪い〉を浄化する方法が記載されています」


 だから貴女は逃げない、とソニバーツは小さく言う。

 その通りだ。

 ロサミリスはここから逃げるつもりはない。


(囮であることがバレてる? ……ううん、ソニバーツ卿は貴女が欲するって言った。つまり、ここに来た目的が経典だけであると思ってるはず。わたくしがここに来たもう一つの目的はまだ知られていない……!)


 このままいこう。

 彼に従ったフリをするのだ。


「湯あみをなさってください。そのあと、昔話をしましょう」




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