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【完結済】七度目の転生、お腐れ令嬢は今度こそ幸せになりたい ~何度転生しても呪いのせいで最悪な人生でしたが七度目で溺愛され幸せになりました~  作者: 北城らんまる
第三部 お腐れ令嬢

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Episode63.わずかに見えた希望


 テオドラの山小屋の近くに簡易天幕(テント)を張り、そこで寝泊まりした三日目の朝のこと。

 ロサミリスは天幕(テント)から出て、桶に張った水で顔を洗った。

 眠気が、冷たい水によって吹き飛ばされる。


 清潔な白いタオルで顔を拭いたあと、ロサミリスはきょろきょろと辺りを見渡した。


(ジーク様はどこに行かれたのかしら……?)


 昨晩は通信魔導具でロンディニア公爵(ジークの父)とやり取りをしていた。


 ドラクガナル・ソニバーツの侯爵位剥奪と帝都追放の話、さらに身柄拘束に向けて帝都中に指名手配の御触れが出たという話だ。現在は敬虔なる信徒(ロドル・ゲマイン)の基地を暴くため、ロンディニア公爵家とラティアーノ家の合同の捜索部隊が組まれているというのも、昨晩聞いた。


『ロサが襲われたという話はカルロス殿下に話した』

『ロンディニア公爵のもとへ戻られますか?』

『いや、一緒に行動しろとの事だ。ソニバーツがロサを狙っているのは確定だからな。俺が隣にいたほうがいいとの判断らしい』

『そうなのですね』

『ああ。初めて殿下と気が合うと思ったところだ』


 ロサミリスの傍にジークがいることで、ソニバーツも迂闊に手を出せなくなるという算段だ。ジークの魔導師としての実力は群を抜いており、ロサミリスもジークが隣にいてくれる方が安心である。護衛という意味だけじゃなくて、心情面としても。


「昨日はよく眠れましたか?」


 小屋の中に入ると、テオドラが珈琲を飲みながら手をひらひらとさせていた。


「おはようございます、テオドラ先生」

「おはよう、ロサミリス嬢」

「初日に比べたら、ぐっすりと眠れるようになりましたわ」

「ああ、一日目の夜は大変だったですからねえ」

「あはは…………」


 テオドラの住んでいる山小屋は、とても客人を止まらせるような広さはない。だから馬車に積んであった簡易用天幕(テント)を張った、までは良かったけれども、天幕(テント)の数が二つしかなかった。

 男女で分けるとあまりにも紳士側がパンパンになってかわいそう。ラティアーノはラティアーノで、ロンディニアはロンディニアで分けようとしたのだけれど、ジークが断固として拒否したのだ。


『寝ている間にロサが襲われるかもしれない。同じ天幕(テント)で寝食を共にする』


 そう、宿では別々で寝ていたのに、天幕(テント)では一緒に寝るとジークが言い出したのだ。

 この時ばかりは結婚前だからという理由も聞き入れてくれなかった。

 人生で初めて愛おしい男性の隣で寝なければならなくなり、ロサミリスは恥ずかしくてジークの顔が見られなかった。心臓はうるさいし彼の体温を直で感じるし耳に吐息がかかってくすぐったいし「今日もいい夢が見られそうだ」とか言って抱き枕みたいに扱われるし近くにいたニーナにはニコニコしながら「ごゆっくり」とか言われたし周りの護衛達も仕切り(カーテン)があるはずなのに遠慮して外に出てくれたし、結局のところ初日は寝られなかった。


 ただ、人間とは慣れるものである。

 昨晩はぐっすり寝た。

 

「初日はロサミリス嬢の顔が沈んでおりましたが、今日は憑き物が取れたかのようですね」

「そこまで酷い顔だとは思っていなかったのですが……」

「緊張してたんでしょうね。でも婚約者と一緒にゆっくり過ごせて、少しはリラックス出来たんじゃないですか?」

「……ええ、とても。今日は晴れやかな気分ですわ」

「それは良かった」

「テオドラ先生の睡眠の方が心配ですわね。昨晩もずいぶん夜遅くまで、灯りが点いていたようですから」


 目の下にある隈が濃いことを指摘すると、テオドラは無精ひげを撫でた。


「手袋は順調ですよ。夕方には出来上がります」

「それは良かったですわ」

「あと、写本の解読で分かったことがあるので、お話させてください。

 ────お、ちょうどジークフォルテン卿も来ましたね」


 タイミングよくジークがやって来た。

 

「付近の様子を探っていた」

「ありがとうございます。テオドラ先生が写本の解読で話があるそうですわ」

「本当か?」


 ジークと一緒に話を聞きたい。

 この身に宿る呪いは、どうにか出来るものなのか。

 皇宮書庫室の禁忌棚にあった書物たちに、その答えが載っていたのか。


 ロサミリスは居住まいを正す。ぎゅっと拳を握り締めると、それに気づいたジークが、上から手を重ねてくれた。一緒に聞こう、そう言いたげに。


(おそらく、呪いの情報は皇宮書庫室にあったもので全部。そこに載っていなければ、もうこの世に呪いを何とかする情報は残っていないわ…………)


 もし情報がなければ、また一から考え直す必要がある。

 タイムリミットは8か月。

 果たして間に合うのか。


(お願い…………)


 祈るようにして、ロサミリスは待つ。

 テオドラはゆっくりと口を開いた。

 

「ロサミリス嬢の〈腐敗〉の呪いは、浄化できる可能性があります」

「本当ですか……!?」

「はい。その辺りの記述は古代言語で書かれているため解読に時間がかかっていますが、歴史上に一人だけ、呪いの払拭に成功した人物がいたようです。さらに一度浄化すれば、いわゆる『輪廻転生』後の世界でも呪いを受け継ぐことはないでしょう」


 希望が見えた。

 地獄の連鎖を断ち切ることの出来る、一筋の光が。


「良かったな、ロサ」

「はいっ!」


 嬉しい。

 ただただ嬉しい。

 〈魔女〉として火あぶりの刑に処された人生も、〈ゴルゴン〉の呪いで暗い泉に投げ込まれた人生も、恋愛に苦しみ『お腐れ令嬢』と呼ばれ、親友を死に追い込んだ自責の念に耐えかね、死を選んだ六度目の人生も。

 

 これで、────終わるかもしれない。

 七度目こそ、幸せになれるかもしれない。


「精読にはもう少々時間がかかります。お時間をください」

「引き続き、調査のほどよろしくお願い致しますわ。テオドラ先生」


 ロサミリスは誠心誠意お礼をした。


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