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【完結済】七度目の転生、お腐れ令嬢は今度こそ幸せになりたい ~何度転生しても呪いのせいで最悪な人生でしたが七度目で溺愛され幸せになりました~  作者: 北城らんまる
第三部 お腐れ令嬢

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Episode61.テオドラ先生のもとへ




 普段から使用している白い手袋をつけて、ロサミリス達はテオドラの住む山小屋に到着した。


「これはまた…………ずいぶんとすごい建物に住んでいるんだな。ロサの先生は」


テオドラが住んでいる山小屋は、風が吹けば吹き飛びそうなほど狭くて古い建物。

 屋根はところどころ穴が空いていて、雨が降ったらさぞ大変だろう。

山小屋に隣接している申し訳程度の倉庫に備蓄品が眠っているらしいが、研究に没頭し過ぎて食糧の買い忘れをよくするらしい。おかげでスープばかりの日が続いたとか。


(栄養失調で倒れていないといいけれど)


 おそるおそる玄関を開けてみると、部屋が異様に暗い。よくよく目を凝らして見れば、白衣を着た30代の男性が床に倒れていた。

 ロサミリスは、慌てて駆けよって呼吸を確認。大丈夫、まだ生きてる。


「あぁ………………お腹空いた」

「「え?」」



 ──30分後。




「ぷはぁ生き返ったぁ!」

「良かったですわ。テオドラ先生が倒れていたのを見た時は、ついにこの時がやって来てしまったと思いましたが」

「いやあありがとう、ロサミリス嬢」

「作ったのはわたくしではなくニーナです。お礼なら彼女に」

「ありがとうございます、ニーナ嬢」


 スープを豪快にかき込んで完食したテオドラが、背筋をしゅっと伸ばしたニーナに笑顔を向けている。ニーナは基本的に何でも出来る子で、今回のスープも、空っぽの倉庫からかき集めた食材で作った物だ。


 テオドラは口もとを強引に拭い、ジークに頭を下げた。


「それで、貴方がロサミリス嬢の婚約者ですね」

「ジークフォルテンです。ロサの先生だとお聞きしました、お会いできて光栄です」

「これはまたご丁寧にどうも」


 テオドラは顎をぽりぽりと掻いた。髪は寝ぐせで跳ねまくり、前回会った時には剃ってあった無精ひげが生え散らかっている。目元の隈がより一層濃くなり、より老けた印象を抱いた。


 ロサミリスの視線に気付き、テオドラは「ああ」と唸る。


「新しい研究をしていたんですよ。魔獣の生態についてのね」

「それで寝食を忘れてぶっ倒れたというわけですね」

「ああ。それで───ちょっと待ってください」


 テオドラの顔が強張った。


「ロサミリス嬢、その手────」

「手袋を何者かに破られてしまいました」

「そんな!?」

「はい。本当に残念な思いです。──ニーナ、彼に手袋を」

「かしこまりました」


 手袋の置かれた銀皿を持って、ニーナが前に進み出る。

 テオドラは切り刻まれた手袋を手に取り、裏や表にひっくり返しながらじっくりと眺めた。


「破れたことで魔法印がぐちゃぐちゃになってる。魔力を込めて引き裂かれたか……これはもう機能しないな……」

「直せますか?」

「直すのはもう無理ですね。一度構築した魔法印の上に魔法印を築くのは難しい。崩れかけの土壌に家を建てるようなものです。直すなら崩れかけの土壌から修復しないといけない……」

「一から作ることはできますか?」


 唸るテオドラに意見したのは、ジークだった。


「壊れかけのものを修復して、魔法印を再構築する手間と一から新しく手袋を作る手間、どちらが短く済みますか? 少しでも早い方の選択をしたい。あなたがこれを作るために何か貴重な資源を取ってこいと言うのならば、俺は喜んで取りに行きましょう。どんな場所にあっても構いません。それがロサの呪いを遅らせることに繋がるのなら」


 テオドラはしばらく考え込んだ。


「たぶん、いや十中八九最初から作り直した方が早い。ただ、特別な資源や素材は必要ありません。ここに揃っていますので」

「分かりました」

「ありがとうございます、テオドラ先生」


 ロサミリスがお礼をしたところで、テオドラは「ただ」と低く唸った。


「それでも最低三日はかかります」

「三日……」

「ロサ、手の具合はどうだ? たった三日の間でも呪いの進行が早まるのか、それを確かめたい」


 ジークに言われて、ロサミリスは自分の手に視線を落とした。

 

(分からないわ……前世だと16歳の誕生日に、確か手が急に熱くなったような気がするけど……)

 

 前世のような兆候はない。

 いや、そもそも前世でも呪いが発現したのは突然の出来事だった。


「正直、分かりません。なにも変化がないように感じますが、この呪いがいわゆる爆弾として、爆発寸前なのか、まだ爆発するまで余裕があるのか。テオドラ先生はどうお考えになられますか」

「手袋がなくなったとはいえ、手の封印術がある。三日でタイムリミットがすごく減るとは思えませんけど……」

「待て。呪いのタイムリミット? それってどういう意味です?」


 まだジークには話していないことに、ロサミリスは気付いた。

 たとえ手袋と封印術がセットであったとしても、呪いを抑え込むのは一年が限界だと。


「このまま防戦一方だと、呪いに負けるということです。9ヵ月を切り、もうすぐ残り8か月になります」

「なるほど。ずっと抑え込み続けるのは不可能という訳か……」 

「だからこその皇宮書庫室ですわ。テオドラ先生、お約束通り書庫室の禁忌棚から、呪いと邪神に関連する書物を丸写ししてやりましたわ。どうぞ受け取ってくださいませ」


 ドンッと、ニーナが持ってきた写本の山が机の上に広がる。

 圧巻の光景である。


「おおっ、こんなに! これは読み甲斐がある。さっそく手袋作りと文献の解読に精を出させていただきます。結構な時間ありますが、お二人はその間どちらにおられますか?」

「帰る時間がもったいないですわ。もちろん、ここに寝泊まりさせていただきますわよ」



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