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【完結済】七度目の転生、お腐れ令嬢は今度こそ幸せになりたい ~何度転生しても呪いのせいで最悪な人生でしたが七度目で溺愛され幸せになりました~  作者: 北城らんまる
第三部 お腐れ令嬢

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Episode60.絶対に許さないわ



 ロサミリスがお風呂を楽しんだ後に、その事件は起きた。

 ある程度タオルで拭いたあとに、夜着を着用して鏡台の前に座る。髪を乾かすのはニーナの仕事で、座って待っていればすぐにやって来るはず。なのに、ニーナが来る様子がなかった。


「ニーナ?」


 ロサミリスは、風呂に入っている時だけは黒い手袋を外し、ニーナに預けている。

 何故か分からないけれど、胸騒ぎがした。


「ロサミリスお嬢様!」

「っどうしたの!?」


 脱衣所に勢いよく飛び込んできたのは、ニーナだった。

 目は真っ赤に腫れ、腕からは真っ赤な血が流れている。


「申し訳ございません、お嬢様……!」


 幸い腕から流れている傷は浅いから処置は簡単だったけれど、ニーナは過呼吸になりかけていた。

 背中をさすってあげたかったけれど、手袋がないのでロサミリスはためらった。


「落ち着いてちょうだい。ゆっくり息を吐いて……吸って………」


 ひとまず声掛け。

 ニーナが落ち着いたのを見計らって、話を切り出した。


「何かあったの?」

「宿の外で、微かに悲鳴が聞こえたんです。お嬢様は湯あみの最中でしたし、近くに護衛のみなさんがいらっしゃったので、気になって一緒に外に出ました。そしたら、暗闇から突然誰かが襲ってきて……」

「襲われたの!?」

「お嬢様の、大事な手袋を奪われました……」

「なんですって……」

「視界を奪われてしまったので、顔は確認できなかったです。追いかけようにも、その時にはすでに……」

「いいのよ。……ニーナに怪我がなくて本当に良かった」

「ごめんなさいごめんなさい! 私がもっとしっかり手袋を持っていれば、もっと気を付けていれば……っ!」


 ニーナが、ロサミリスの体を抱きしめる。

 ニーナは知っているのだ。

 黒い手袋がロサミリスにとってどれほど大切なものか。手袋がないと呪いを抑え込めない。黒い手袋をロサミリスが使い始めてから、ニーナの顔や身体にあまり触れないようにしていたことも、ニーナは知っている。


「お嬢様は何にも悪いことはしていないんです。お嬢様は、……私のお嬢様は美しく、気品に満ち溢れ、誰よりも優しいお嬢様なんです! なのに、あんまりです。どうしてお嬢様がこんな目に……っ!」


 ニーナにとって、ロサミリスは初めて仕えたお嬢様だ。

先代侍女が年齢の為に現役を退いたあと、ニーナがロサミリスお嬢様の侍女として抜擢された。

 嬉しかった。

 ラティアーノ伯爵には恩義を感じている。雨風をしのげる寝所と食事を貰い、家族を養うのに十分な給金を貰っている。そんな、伯爵の大事な娘。ニーナから見て年齢が二つ下であるロサミリスお嬢様のことは、主人であり、妹みたいに大事に思っている。可愛くて、頑張り屋さんで、芯が強くて、諦めが悪い、大切なお嬢様。


(呪いなんて、信じたくなかった。でも、ロサミリスお嬢様の顔を見て、お嬢様の手に黒く光る模様を見て、ああ、本当にお嬢様には呪いがあるんだって……)


 せめて、ロサミリスお嬢様が不安にならないようにしっかりしよう。

 お嬢様の手と黒い手袋の秘密は誰にも明かしてはいけないから、お嬢様が湯あみをなさっている時は、預かった手袋を両手で握り締め、誰かがお嬢様に近づかないように、ニーナは細心の注意を払った。


 なのに、このザマだ。


 心配してあげるべき存在(ロサミリス)に、逆に心配されてしまい、ニーナは悔しくて泣いていた。

 そんなニーナの想いを、ロサミリスは分かっていた。ニーナの体に触れない程度に腕を回して、抱きしめ返す。「大丈夫よ」と声をかければ、ニーナの涙は収まった。


「今はまだ、手袋がなくても大丈夫よ。明日、テオドラ先生に相談するわ。新しい手袋を作って貰えばいい話だし、わたくしの持ち合わせている情報があれば、呪いを消し去る方法を先生が見つけてくださるはずよ」


 ロサミリスは唇を噛んだ。

 生まれて初めて、こんなに腹立たしいと思ったことはない。


(わたくしの大事な侍女を泣かせた奴を、絶対に許さないわ)




 羽織るものを着て、ロサミリスが脱衣所を出た瞬間──


「ロサ、待て」

「ジーク様!?」


 腕を掴まれていた。

 起きていたのかと、ロサミリスは目を見開く。


「焦るな」

「でも、早く行かなければ──」

「ここでロサが外に行くのは相手の思うつぼだ。それにそんな薄着で、髪が濡れたままの女性を、こんな夜遅く外に出せると思うか?」


 言われて、ロサミリスは気付いた。

 確かに今の恰好は、とても外に出られるような恰好ではない。


(あ…………手の甲……………見られた……)


 ロサミリスの手にある、呪いを抑え込むための黒い魔法印。見た目が綺麗とは言い難い代物で、ジークには見られたくなかった。腕をがっちりと捕まえられているため、隠そうと思っても隠せない。彼にじっと見つめられることが耐えられなくて、ロサミリスは視線を外す。高ぶっていた感情も静まっていった。


「一瞬だけだが、ニーナ(彼女)が襲われる前に怪しい奴を見た。手袋を奪った奴はたぶんそいつだ」

「…………夜盗の類、でしょうか」

「違うな。金品を狙った盗賊の仕業なら、一人で乗り込んでこないだろう。手袋だけを盗んで逃げる物盗りなんていない。ロサを狙った犯行としか思えない」

「狙いはわたくし…………?」

「ああ。ロサはニーナの傍にいてやれ、俺が追いかける」


 そう言うとジークは、ロサミリスの体を引き寄せた。

 続いて、指と指を絡ませる。


 恋人同士がするような、手の繋ぎ方で。


 呪いを怖がってなどいない、とでも言うかのような動きに、ロサミリスの鼓動が跳ねた。


「すぐに戻る」


 耳もとで囁かれたとロサミリスが気付く頃には、ジークは二階の窓から外へと飛び出していた。









 ジークが帰ってきたのは、それから30分後のことだった。

 怪我した様子がなくてほっとするロサミリスだったけれど、ジークが握っていたものを見て、ハッとする。彼の手の中には、鋭利な刃物で切り裂かれたような、無惨な姿になった手袋があった。


「戦いになったのですか?」

「少しな。だが俺が魔法で応戦すると、相手がこの手袋を捨てて逃げ去っていった。元から、手袋を切り裂くだけの手はずだったのかもしれない。あるいは、宿から出てきたのがロサではなく俺だったから、作戦を切り替えたのか。いずれにしても、とても計画性のある動きだった」

「本当に夜盗の類ではなかったのですね…………」

「ああ。あと、男が妙なうわ言を話しているのが聞こえた」

「うわ言……?」

「『敬虔なる信徒(ロドル・ゲマイン)に栄光あれ』──と」

「!」


 敬虔なる信徒(ロドル・ゲマイン)

 邪神ミラを崇拝する宗教組織として、何百年も昔に存在した。だが、国教であるシズール教を食いつぶすほどの勢力を伸ばしたこと、依存性のある薬の密売人、殺人鬼などの重犯罪者を抱え込んでいた事から、帝国から危険視され滅ぼされた組織の名前だ。


「ということは、コレもソニバーツ(あの男)の差し金という可能性が高くなってきたな」

「そんな……!」

敬虔なる信徒(ロドル・ゲマイン)といえば邪神。邪神と言えばこの間の帝都での宗教集会だ。それを指示したと思われる男がソニバーツ侯爵なら、必然的に今回の一件もヤツの指示ということになる」


 口ぶりは冷静だけれど、ジークは相当に怒っている。

 目に魔力が込められて薄っすらと輝いていた。


「あの男、なぜロサを狙うんだ…………」

「もしかしたら、コレかもしれません」


 ロサミリスが示したのは、己の手だった。

〈腐敗〉の呪いは、神ミラが根源(ルーツ)なのだ。


 ジークは「認めたくない」と言いたげに、小さなため息を吐いていた。


「とにかく、ロサの手袋を作ってくれたというテオドラ先生のもとへ急ごう」



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