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【完結済】七度目の転生、お腐れ令嬢は今度こそ幸せになりたい ~何度転生しても呪いのせいで最悪な人生でしたが七度目で溺愛され幸せになりました~  作者: 北城らんまる
第三部 お腐れ令嬢

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Episode44.皇女殿下だろうと、売られた喧嘩は買いましてよ?



 即位式も無事終了し、ようやくいつもの日常を取り戻した帝都。

 その中枢に位置する、荘厳かつ煌びやかな建物こそが皇宮。

 住んでいるのは皇族と一握りの侍女侍従のみ。

 仕官や下級の侍女たちは別にあてがわれた寮で暮らしている。皇宮で働いている者はみな誇りと自信に満ち溢れ、一か月限定で皇宮に召し上げられたロサミリスも、その雰囲気をひしひしと感じていた。


 フェルベッド陛下から仰せつかった勅命は二つ。


 一つ目、第四皇女の話し相手として、よき理解者であれ。

 二つ目、後続の女家庭教師にスムーズな受け渡しができるように、淑女の基礎を教えてあげてくれ。


 一つ目は必須。友人がおらず、コミュニケーションがままならない第四皇女の傍につき、共に生活して友人として接すること。皇女殿下はこの先の社交界で様々な人と会話する能力が必要になるので、その事前レッスンというわけだ。

 二つ目は、あくまでおまけ。一つ目のほうがまずは大事であるし、なによりロサミリスが皇宮にいられるのはたった一か月だけ。期限満了となればその時点で伯爵家に戻ることになるため、出来るのならやってほしいとのこと。


(…………というより、フェルベッド陛下はどうしてわたくしを選んだのかしら)


 歳が近く、それなりの身分を持つ令嬢ということならば、ロサミリス以外にもたくさんいるだろうに。

 今の今まで皇族とこれといった繋がりがなかったために、どのような観点で選ばれたのか、興味があった。


(まさかビアンカお姉様を清く正しい淑女に矯正した話が広まってる…………なんてことないわよね。あるいは、エルダ先輩の話が騎士越しに皇宮まで届いてしまったとか。でも、大したことはしてないのよね。人には優しく笑顔で接しましょうがわたくしのモットーであるし。……うーん、陛下の目に留まる様なことってしたかしら……? 全部偶然?)


 まさか本当に、その話がフェルベッド陛下の耳に入っているなんて思っていないロサミリスは、まったく見当違いな方向で思考を巡らせていた。


 しばらくして。


「まぁ、あれが新しく来た皇女殿下の“お友だち候補”なの?」

「お家柄はどの程度の方かしら」

「前回は侯爵家の三女だったわね」

「お家柄なんて皇女殿下を前にしたらどれも一緒よ」

「そうね。第四皇女殿下は豊富な魔力を持ってらっしゃる。魔法で暴れられたら、ただの令嬢じゃ手も足も出ないわ」

「怖い怖い……。近衛騎士様も大変ね」

「今回もどれくらいもつか見物ね……」


 クスクスっと笑う二人。

 おそらく下級侍女だろう。聞こえていないつもりなのだろうけれども、ロサミリスは耳がいい。

 

(哀れね。自分よりも家格が上の存在が、第四皇女殿下という存在に完敗して尻尾巻いて逃げ出している姿を見て、日頃の鬱憤を晴らしているのね)


 そのときちょうど、年配の侍女が二人の勤務態度を叱っているのが聞こえた。

 因果応報だろうと肩をすくめる。


 ここまでロサミリスを案内してくれた皇宮近衛騎士が、扉の前で急に止まった。


「リリアナ皇女殿下」


 扉を小さくノックしたけれど、返事はない。


「リリアナ皇女殿下、ロサミリス・ファルベ・ラティアーノ伯爵令嬢をお連れいたしました」


 またしても返事はない。

 近衛騎士はしびれを切らし「失礼いたします」と扉に手をかける。

 

(っすごい魔力……っ!?)


「待って、開けてはダメよ!!」

「え? ──うわぁああ!!」


 扉が開いた瞬間、部屋の中からすさまじい暴風が吹き荒れ、彼の体は簡単に吹き飛ばされてしまった。ロサミリスはとっさに横に避けることが出来たが、直撃していれば壁に叩きつけられていただろう。彼が受け身を取れていたことが不幸中の幸いだ。


「帰れ! わらわのことをまた嘲笑いにきたのじゃな!!」


(この声……)


 女の子だ。胸が締め付けられそうなほど、声に悲痛の色が乗っている。


「いててて……」


 ロサミリスは吹き飛ばされた近衛騎士を助け起こし、感謝の意を述べた。


「ここまでご案内していただきありがとうございます。このあとのことは、わたくしに任せていただけませんでしょうか?」

「もちろんそれは構いませんが、大丈夫ですか? リリアナ皇女殿下は、かなり不機嫌なご様子です。日を改めても誰も文句は言いませんよ」


 近衛騎士にとって、リリアナ皇女がいきなり魔法を放ってくる事態は、日常茶飯事なのだろう。

 なるほど、確かにあんな強力な風の魔法を使用されれば、普通の令嬢なら悲鳴をあげて逃げてしまうかもしれない。


「御心配には及びません。魔法の荒手には慣れておりますから」

「ま、魔法の荒手……?」

「魔法武術には多少の心得がございますの。大丈夫、さきほどのように不意を突かれない限り、わたくしが怪我をすることはございませんので」

「わ、分かりました。念のため、部屋の外には私がいますので、何かありましたらお声がけください」

「ご配慮感謝致しますわ」


 近衛騎士の方に軽く礼をしてから、扉を再び開く。

 中に入ると、顔を撫でるような風が吹いた。


(さっきより威力は抑えてあるわね)


 人を傷つける意思はないけれど、己の領域には入ってきてほしくない。

 きっと優しい子なのだろう。


「失礼いたします」


 あえて大きな声で。

 リリアナ皇女からの返事はない。

 部屋にある天涯つきの寝台には、ちょうど子ども一人分が隠れていそうな、こんもりとした布団の山が作られていた。


「ラティアーノ伯爵家から参りました、ロサミリスでございます」

「口を開く許可をした覚えはないぞ!」


 布団の中から、威勢の良い女の子の声が飛んでくる。


「いいえ、リリアナ様。フェルベッド陛下より自由に話す許可をいただいております。わたくしは侍女ではございませんので」

「ぬっ……じゃあ、わらわはここから出ないからな。どれだけ嘆願しても無駄じゃからな!」

「もちろん。わたくしはただここに立って待っておりますので」

「ふんっ! 勝手にするがよい!」


 左右の手を前で組み、そのまま立ち続ける。

 

「…………」

「…………」


 ──10分後。


「…………」

「…………」


 ──30分後。


「…………」

「…………っ」


 ──1時間半後。


「…………」

「…………うぅう」


(リリアナ様のお顔が隙間から見えているわ。ふふっ、そろそろ布団のなかに引きこもるのも飽きた頃かしらね)


 ロサミリスは、持参したトランクケースの中から、ある物を取り出す。

 小さな、手作りの人形だ。裁縫のセンスがないので顔がかなり……いやちょっと……ほんのすこーしだけ変だけれど、外見の良し悪しは重要ではない。この人形をロサミリスの魔法で宙に動かし、リリアナ皇女が包まっている布団のすぐ近くにまで浮遊させる。


(魔法、あれからかなり上達したのよ)


 相変わらず魔力量は少ないけれども、人形を浮遊させて10歳の女の子の興味を引かせることくらい、造作もない。


(ふふっ、見てる見てる。でもこれくらいは序の口だわ)


 人形はリリアナ皇女に向かって丁寧にお辞儀をしたあと、その手を差し出す。

 ぽんっと小気味の良い音とともに、その手が綺麗な白い花束へと変化した。


「わぁ……!」


 リリアナ皇女が布団に隠れるのも忘れ、キラキラと目を輝かせている。

 そこでようやく、ロサミリスはリリアナ皇女の素顔を見ることが出来た。

 摩擦で静電気を帯びてしまった、美しくも可憐な、長い薄桃色(ピーチ・ブロンド)の髪。

 愛らしく整った顔立ちに、好奇心旺盛な白金の瞳が輝いている。

 

(目は皇族の証……でも髪は白金プラチナ・ブロンドではないのね。聞いていた通りだわ)


 白金の髪と白金の瞳は、皇族の証。

 皇族の血は特別なものであり、皇族はすべからく白金の髪と瞳を持つという。なぜならば、この性質が優性遺伝だからだ。

 一年前に崩御されたゲオルグ先代皇帝は白金の髪と瞳を持っており、この性質はすべて息子娘に遺伝するはずだった。事実、フェルベッド陛下や他の皇子皇女は白金の髪と瞳を持っている。


 リリアナ皇女の髪が白金髪(プラチナ・ブロンド)ではなく、薄桃色(ピーチ・ブロンド)なのは、一説として、母親が元平民だからではないかと言われている。


 ゆえに、皇族の証が一つ欠落しているリリアナ皇女は、癇癪を起しやすい性格も災いして、一部から皇族として見られておらず、裏では差別され、結果として粗暴な振る舞いを繰り返し孤立化した。


「ようやくお顔を見ることが出来て、嬉しいですわ。リリアナ様」


 ロサミリスが微笑むと、リリアナ皇女は再び布団に隠れてしまった。 



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