何度生まれ変わっても②
この世界の魔法は、呪文の詠唱によって発動する。
「光を灯せ、ヒカライト!」
青い火花が走り、松明に火が灯る。
夜の日課である、ウエンディとの魔法特訓だった。
言葉を話せるようになると、魔法を教わるというのがエルフの習わしだそうだ。
この世界の魔法は、才能に左右されないらしい。ただ、知っているか知らないかの、知識の違いだという。
詠唱する際のイメージと呪文さえ知っていれば、誰でも使えるものらしい。
「じゃあ、つぎはブライがやってみて」
「わかった」
松明を握る手に力が入る。
松明といっても、非常に燃えやすい性質を持つ木の枝のことを、勝手にそう呼んでいるだけだ。
少しの火花でも着火する優れものである。
「よし」
雷系の魔法を使うには、体内のエネルギーと物質を細い線でつなげるイメージらしい。
呼吸を落ち着かせ、目の前の松明に集中する。
「……光を灯せ、ヒカライト!」
力強い詠唱が、辺りに響きわたる。
そして……。
響き渡っただけだった。
「やっぱりだめだ」
魔法を習ってから、もう随分たつのに、俺は一度も成功できたことがなかった。
おかしいぞ。誰でも使えるんじゃないのか。
転生したらチート級の能力を使える約束じゃなかったのか。
「だいじょぶだいじょぶ! もう一回やってみよ」
毎晩、付き合ってくれるウエンディに申し訳ない。
「よし、もう一回だ!」
気合を入れなおす。
俺には、どうしても魔法を習得したい理由があった。
エルフの社会は、いくつかのファミリーの共同体で構成される。
ファミリーといっても血縁があるわけではない。
転生して生まれた子を、誰かが引き取り育てる形だ。
俺とウエンディのように、同時期に生まれた場合ば一緒に育てられることが多い。
生活は農耕民族に近い。自然を育み、その恩恵を受けて生きる。
肝心なのは自然との共存に、魔法が不可欠ということだ。
食料となる植物の成長のため、水や土の魔法を駆使する。
料理や洗濯など生活の中の些細な場面でも、魔法は不可欠だ。
人間にとっての科学の代わりに、魔法が発達している。
そんな世界で、魔法を使えない子どもがどんな扱いを受けるのか。
正解は、腫物扱いだ。
極力かからわないように、関りを持たないように無視される。
まあ、前世から近所付き合いなんてしたことなかったから、気にならないっちゃならないんだが。
一番気になるのは、育ての親であるマザーとの関係だった。
幼少期から食事の世話など、最低限のことはやってくれた。
だが、その間も俺に対して一度も言葉をかけたことはないのだ。
はじめは、言葉を発することができないのかと思っていた。
しかし、ウエンディとふたりきりのときには、問題なく言葉を発するらしいのだ。
問題が出てきたのは、授業が始まってからだった。
この世界にはどういうわけか文字の文化がない。
そのため、授業はすべて口伝で行われる。
はじめのうちは他のエルフに教わっていたが、俺が魔法が使えないことがわかると、その機会も減ってしまった。
そうなると、マザーは俺に授業する手段がないのだ。
結果、マザーからウエンディに、ウエンディから俺への伝言授業形式ができあがったのだ。
ウエンディは俺とマザーの関係を、ただ喧嘩している程度に思っているらしい。
実際のところ、何を考えているのかわからないだけなのだ。
どうして、口をきいてくれないのか。わからない。
ただ、魔法さえ使えるようになれば、何かが変わると思うのだ。
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