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難破船のレジオネ  作者: 柴門秀文
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序章 2-3 傀儡座

 練習の間にも、目に見えて雪の嵩は増えた。

〈これ以上に雪が深くなったら、帰宅が困難になるだろうな〉

 練習を終えて談笑する座員たちを眺めながら、黒木は心配した。

「えろう、たいそうな雪ですな。こないな、小屋では、朝まで()たへんのと(ちゃ)いまっか」

 三味線の横田が、慣れない雪に驚いた。

 屋根の梁が、音を立てて(きし)んだ。車座になった座員が、不安な表情で視線を上げる。

「さすけねぇよ。ほだごど言わねでも、この社務所だっで、百年も潰んにで残っでんだ」

〝足遣い〟の早川が、口を尖らせた。着物の上半身をはだけ、汗を拭いていた。

 早川の真似をして、着物をはだけながら、大夫のかんけが話を合わせた。

「しっがし、五枚羽子板の練習に相応(ふさわ)しぃ夜だない。こっだな降り方なら、雪女が現実に出て来だって、おがしぐねぇ」

「襲わんにように気を付けねっがな」

 応答した早川の冗談に一同が大笑いした。

 ひとしきり笑ったあとで、早川が顔を寄せ、興味深げな表情で声を潜めた。

「おめぇら、聞いでっが? ライオンの浜口は、命っこ助がっだみでぇだな」

「ああ、ラジオで聴いだ。急所は外っちゃみでぇだな」

 菅家が、あまり関心のない振りを装った。

 身を乗り出した横田が、眉を顰めると重々しい口調で話に加わった。

「佐郷屋留雄は、さぞかし無念だったやろな。覚悟を決め、至近距離からの発砲やったはずや。まさか、命を取り留めはるとは、なあ。悪運が強いわな、さすが首相になるだけあんのやな」

「ほでねぇ、無念だっだのは佐渡屋一人じゃ()ぐっで、俺ら全員だ。時代が動いでいんだ。先ぃ越さっちまっだ。遅れさ取んねように、俺らも行動しねっがなんね」

 強い口調で早川が主張する。全員が苦々しい表情になって押し黙った。

「誰が()っがではねぇ。自分がいつ殺っがだ」

 座員の中から声が挙がった。無関心に見せていた菅家が、無言で深く頷いた。

 やがて誰ともなく言い出して、唱題が始まった。討議が盛り上がると、座員たちは題目を唱えて叶え切れない思いを昇華させた。

「見らんしょ。窓が、すっがり雪で埋っちまっだぞい」

 唱題が終わった。早川の言葉で、座員が窓に集まった。

 煮え切らない思いに、誰もが心を焦らせた。


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