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難破船のレジオネ  作者: 柴門秀文
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序章 2-1 傀儡座

 夜に雪が降っている。黒木竹市は浄瑠璃人形の衣を合わせながら、耳を(そばだ)てた。生まれ育った会津に戻って、初めての冬だった。

 しんしんと細かな雪が降り積もる音がした。秋口から同志たちと協力して修復した社務所を、浄瑠璃芝居の稽古場に使っていた。

 身体の芯から震えが襲って来た。立て襟の洋シャツに袷を羽織っていたが、さすがに寒かった。針を使いながら、黒木は屈託のない同志たちの姿を横眼で眺めた。

 背が高く、目鼻立ちの整った黒木だったが、顔の左半分を覆う大きな赤痣があった。目立たなくするために髪を長めにしていた。常に俯き加減にしていたが、隠しきれる大きさではなかった。

 黒木が主宰する傀儡座(くぐつざ)は、農民に娯楽を与える芸能運動を展開させていた。会津の寒村に残された神社の荒れ果てた能舞台を再興させて、人形浄瑠璃を演じている。

『会津の沈滞した空気を変えるために』が合言葉だった。

 傀儡座の母体は茨城の海沿いに本拠地を置く国家主義団体〝潮流会〟にあった。

 そもそもは、芸域の追求よりも、仏法を基盤に置いた『混迷する国家の内面からの改革』が目的だった。変革すべきは、不公平なまでの格差社会の撤廃だった。

 東京の大学で理論物理学を学んでいた。会津出身の黒木は、友人に連れられて〝潮流会〟を思想的に導く井植和尚と出会った。

 信仰の話には、諸手を上げての賛成は、できなかった。だが、和尚を含む〝潮流会〟幹部の熱を帯びた日本改革の思想は、黒木にも共感する部分が多かった。


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