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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

恋と憧れの違いってなんですか?

作者: 一ノ瀬 葵

あの日の私は世界一輝いていたと思う。

それは、私が自意識過剰なのではなく、「卒業生」という名があるからだ。


私が高校を卒業する時に、あの藤の袴を見つけて、卒業する時には絶対に履いてやるぞ、と意気込んだことを覚えている。


そして、私はその憧れの藤の袴を着て卒業した。

友人からも「やっと着れたね」なんて言われたりもしたけれど、やっと、なのか、もう、なのかは分からなかった。


その服装のまま私はある人の元へ向かったのだ。


「櫻井さん、ついに卒業しました」

「おめでとう」


私は、この人物に言わなければならないことがあった。


「ずっと憧れてました。これが恋なのか、ただの憧れなのか模索した4年間でした。結果分かりました。やっぱり憧れだったんだと思います」

「そっか。わざわざ言いに来てくれてありがとね」

「いえ、お元気で」


彼女の袴姿を見た時に一目惚れした。これは恋なのだと確信した。

櫻井さんは卒業後、学生課で働いていたので毎日のように見てはいたけれど、会話をするようになったのは三年生の就職相談からで、会いに行きたくて、話したくて学生課に通うようになった。


そして、その気持ちを明かそうかどうか迷ったまま卒業の日を迎えていた。


思いは明かすことが出来なかったけれど、憧れていたことくらい伝えたかった。


本当はあの卒業の日で、その想いも思い出も心の光に包んだまま墓場まで持ってくつもりだった。


今日までは。



「七草さん、お待たせ」

「わざわざお呼びしてしまってすみません」


社会人になってもう4年が経つ。

そして、またあの頃のように悩み相談という程で呼んでしまったのだ。


「もう学生課では働いてないんですね」

「そうだね、で、相談って何?」

「せ、せっかく再会したのでとりあえずお茶しましょう」

「それもそうね」


私たちはカフェに入り、近況報告をし合っていた。時間の問題だとは思っていたが、ついに相談の話へと入ってしまったのだ。


「で、相談ってなんなのよ。さっきからその話題避けてるでしょ」

完全に見透かされていた。


「あはは。そうですよね」

私は今世紀最大の勇気を振り絞って、伝えることにした。


「櫻井さん、相談があります。私には憧れて憧れて仕方がない人がいます。それを恋だと気付きながら、見て見ぬふりをしてもう7年も経ちました。やはり、それは恋だと私は認めたいです」

「それはやっぱり恋じゃなくて憧れなんだと思うよ」


間髪入れずに真剣な顔で櫻井さんが言ってきたから、私はこれ以上言ってはいけないのだと笑って誤魔化した。


「そ、そう思います?やっぱりそうですよね」

「話はそれだけ?」

「あ、はい」

「じゃあそろそろ行こうか」


もう少し話したい気持ちも、まだ帰りたくない気持ちを必死に抑えて、一緒に駅へと向かった。


「今日はありがとうございました」

「もう今日が会うの最後になるんだ」

「え?」

「私、海外に旦那と行くことになったの」


指輪をしない人がいると聞いたことはあったけれど、本当にいるなんて思いもしなかった。


「結婚してたんですね」

「そうよ」


彼女は混む改札の中抜けて行こうとした。


全部がお見通しだった櫻井さんに結局伝えられなかったが、それが恋だと伝えられただけ良かったと、思っている、というのは嘘でやっぱりあの時にきちんと伝えられていれば叶ったのかな。


なんてしばらくは失恋に浸るんだと思う。


今更ながら、櫻井さんへの想いと思い出全てが光だったんだと気付いた。

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