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第29話


 ローズは持って来たテント一式をうっかり川に流してしまった。


「仕方ないな… じゃあローズ、俺のテントで寝ろよ」


「何を言っているんだ? 私のテントで寝るべきだ」


「僕のテントの方がいいでしょ」


 あーん! 誰のテントで一緒に寝よう!

 ①カーマイン

 ②ノワール

 ③ヴェール


〜乙女ゲー『遙かなるアルコンスィエル』ノワール・ヴェール・カーマインルートイベント『どきどき☆キャンプ』より抜粋〜


 どうやったらうっかりテント一式を川に流せるのかとか、嫁入り前の貴族の令嬢が男性と同じテントで寝るのかとか、ツッコミ所は多々あるもののそれは今に始まった事ではないので目を瞑ろう。

 悪役令嬢が出て来ないので、このイベントはとても平和でドキドキもある楽しいイベントなのだ。

 ただシナリオが大きく変わってしまっているので、ローズにとっては恐怖のキャンプになりそうな予感だ。



 ◇◆◇



 アルコンスィエル学園の一年生はとある高原に来ていた。

 サマーキャンプは学園主催のキャンプにしては案外ガチなキャンプだ。

 テント、寝袋、調理器具などキャンプに必要な道具や食材は全て各々必要な分持ち寄り、あとは班毎に固まって移動して好きな場所にテントを張って2泊を過ごす。

 それなのに、だ。 


「え? 何ですって??」


「忘れたのか? 全部??」


「はい…」


 キャンプの道具全て忘れたとしょんぼりしながら言うローズに、ブランシュとノワールは目を丸くして訊ねた。


「じゃあその大きな荷物な何なんだ?」


「これは… その…」


 忘れたと言う割にはローズは大きな荷物を背負って来ていたので、カーマインが当然の疑問を口にするとローズは口籠った。

 まさか『中身が全部武器です』とは言えない。

 武器の荷造りで頭がいっぱいになってキャンプに必要な道具の荷造りをまるっきし忘れていたなんてもっと言えない。


「まあまあカーマイン様、女性には色々と必要な物も多いのですよ」


 ブランシュはローズがはっきり言わないのは荷物の中身はノワールと仲良くなる為に必要な物なので言えないのではないかと思い、フォローを入れた。


「その割にブランシュは荷物俺らとほとんど変わらないじゃん?」


「それは… 私は重い思いはしたくないので」


「ふーん… まぁそうだよな」


 適当にした言い訳だったがカーマインは体の弱いブランシュの事だから体調を考慮してだろうと何となく納得した様子だった。


「それよりこの辺り所々ぬかるみがあって歩き難いので手を引いてもらえませんか?」


「ん、まあ、いいけど…」


 ブランシュがカーマインに右手を差し出すと、カーマインは仕方ないと言う雰囲気を出しながらも何となく嬉しそうにその手を掴んだ。

 ポールが提案したカーマインに協力して貰う作戦だが、やはり理由を説明するのが難しいので協力を頼むのは止めることにした。

 その代わりこうやって事ある毎にカーマインに話し掛けたり頼ったりして、ノワールに仲の良さを見せ付ける作戦で行こうとブランシュは考えていた。


「ブランシュ、手なら私が「ノワール様、私も転けちゃいそうです」」


 ノワールはブランシュとカーマインが手を繋ぐのを阻止しようとしたが、ローズが腕を絡ませて来て体重を預けるので身動きが取れなくなってしまった。

 ノワールは困ったなと思いながらも自分を頼ってくる女性を振り切る事も出来ず、そのままエスコートする事になった。


「じゃあこの辺でテントを張るか」


「ああ、そうだな」


 カーマインの言葉にノワールも同意すると、二人はテキパキと3人分のテントを張り始めた。

 ローズはその様子をぼーっと眺めていると、ブランシュに肩を叩かれた。


「何ぼーっとしてるんですか。ベルメール男爵令嬢は川で水を汲んできて下さい」


「え…」


 ローズはここまで来るだけでももうクタクタだったの更に水汲みだなんてごめんだ。


「ではブランシュ様も一緒にいかがですか?」


「私は気分が優れないのでここで夕飯の準備でもしていますわ」


 やりたくないが自分だけ何としないと体裁が悪い。

 せめてブランシュも道連れにしてやろうとしたのに、気分が優れないなどと見え透いた嘘であっさり断られてしまった。

 ローズは嘘だと思ったが、カーマインやノワールはそう思わなかったようだ。


「大丈夫かブランシュ、本当に顔色悪いぞ」


「無理はしない方がよい。夕飯も我々で何とかしよう」


 実際ブランシュの体調は本調子では無かった。

 可能な限り紫外線対策、暑さ対策はしてきたが、やはりアンデッドの体で山歩きは辛い。

 二人が本気で心配している様子を見て、ローズはブランシュの顔色なんていつも大体そんな感じではないかと憤っていた。


「料理くらいなら大丈夫ですわ。お心遣いありがとうございます」


「そうか… あんまり頑張りすぎるなよ」


「体調が悪化した場合は直ぐに知らせるように」


 ブランシュは結局体調不良なのに頑張る健気なブランシュという印象で二人にちやほやされていて、ローズからすると本当に面白くない感じだった。

 ローズはムカムカしながら川へ水を汲みに行った。


「うまいな!」


「うむ、美味だ!」


 ブランシュが作った料理は粥の様にベチャベチャで味が薄く、ローズの口には合わなかった。

 その割にカーマインとノワールは手放しに褒めるので納得がいかない。


「ありがとうございます。食材が少し少ないのでリゾット風にしてみたのですが…」


 ブランシュがそう答えると、まるで自分が食材を持ってこなかったのが悪いみたいではないかとローズはムッとした。

 実際誰が悪いのかと言われればローズが悪い。

 3人分の食材で4人食べようとしているのだから少し足りないのは当然だ。

 だが少しでもブランシュの足を引っ張ってやろうとローズは思った。


「少し味が薄いかもしれませんね。私はもう少し濃い味が好きです」


「出汁が効いているから薄くは感じないが」


「ベルメール男爵令嬢って結構お子様舌なんだな」


 カーマインに馬鹿にしたように笑われ、ローズは頭にカッと血が登った。


「お子様で悪かったですね!」


「お子様は短気だな〜」


 ローズは本気で怒っていたのだがカーマインが軽く茶化すので悪い雰囲気にはならず、逆に和気あいあいとした様子をブランシュは微笑ましく見ていた。


「さて、そろそろテントに入るとするか」


 食事を食べ終え暫く談笑した後、ノワールがそう切り出した。


「そうですね、じゃあ…」


 ローズはノワールの後に続いてテントに入ろうとすると、ブランシュから肩を掴まれた。


「どこ行くんですか? 私のテントはこちらでしょう」


「え?」


「嫁入り前の娘が男のテントに入るもんじゃないぞ。寝袋は俺の貸してやるから」


 カーマインから寝袋を押し付けられながら、ローズはヤバイ! と、冷や汗をかいていた。

 このままでは殺人悪役令嬢と同じテントに寝る事になってしまう。

 いや、武器なら沢山持って来たのだから、むしろ何かしてきたら返り討ちにしてやれば良い。

 そう思っていたのに、今度はノワールがローズの荷物をひょいと持ち上げて言った。


「狭いテントで二人寝るのなら荷物が邪魔だろう。荷物は私のテントで預かろう」


「!!?」


「助かりますわ殿下」


「いや、これくらい当然だ。しかし重いな…」


 ノワールはローズの荷物を抱えて呟いた。


「カーマイン様、寝袋がないと寒いのでは?」


 いくら夏だとは言っても夜は冷え込む。

 寝袋無しで寝てカーマインが風邪でも引かないか、ブランシュは心配だった。


「その辺の落ち葉でも集めて暖を取れば大丈夫だろ」


「私、タオルケットを持って来てますのでせめてこれを使って下さい」


 ブランシュは野性的な寝方をしようとするカーマインに、膝掛けにでも使おうと思っていたタオルケットを差し出す。

 薄手だが無いよりはマシなはずだ。


「ありがとう、助かるよ」


 カーマインはそれを感謝しつつ受け取った。

 結局武器を没収されたローズは丸腰でブランシュのテントで眠る事になってしまった。

 

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