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第2話


「ごめんねブランシュ、ボクのせいで…」


 現枢機卿の孫であるヴェール・リュ・ルクヴルールは涙ぐみながら申し訳なさそうにそう言った。


「何も泣かなくても。大袈裟ね」


「大袈裟じゃないよ! だって首が有り得ない方向に曲がってたよ!?」


 ブランシュが庇った幼馴染とはこのヴェールの事で、ブランシュが死んだのは自分のせいだと責め続けていた。

 しかし、死んだと思っていたブランシュが生きていたとの知らせを聞いて飛んで見舞いにやってきたのだ。


「まあまあ、気にしないで。未来の枢機卿の身に何も無くて良かったわ」


「そんな事言ったらブランシュは未来の皇后なんだから! もっと自分を大切にしてよ!」


 本来ならばその予定だったが、残念ながらアンデットになってしまったブランシュにはその未来は来ない。

 だがそれを言うと優しいヴェールが更に気に病む事になるので、ブランシュは苦笑を浮かべる事しかできなかった。


「ブランシュは女の子なんだから体に傷でも残ったらどうすの!?」


「その時はヴェールに責任を取ってもらいましょう」


「えっ!?」


 ブランシュが冗談で言った言葉を真に受けて、ヴェールは頬を赤く染めた。

 優しく素直な性格のヴェールは本当にからかい甲斐がある。

 ブランシュは思わずプッと吹き出して笑った。


「冗談よ」


「別に責任取ってもいいんだけど…」


「え?」


「とっ、とにかく女の子が無茶しちゃ駄目だからね!」


「はいはい。これからは無茶はしないようにします」


 ヴェールが小声で何か言いかけた気がするが、ブランシュは気にせずそう答えた。

 だいたいしきりに女の子なんだからと言うが、そう言うヴェールはふわふわの猫っ毛と二重でパッチリとした翠色の瞳が印象的で、輪郭も緩やかな曲線を描き、頬はほんのりピンク色で女の子顔負けに可愛い容姿をしている。

 そんな愛らしいヴェールが傷付かずに済んだのだから、ブランシュは自身の手柄を誇りたい気分だった。


「それはそうと、なんか顔色悪いけどやっぱりどこか悪いの?」


「あーこれはその、ちょっと貧血なのよ、気にしないで」


 ブランシュはアンデットになってからと言うもの元々白かった肌が血の気を失って、もはや青白いと言った方がいい顔色になっていた。

 多少化粧で誤魔化したつもりだが男性のヴェールに指摘されるくらいなので、もっと厚く化粧をしないと変化に敏感な女性陣の目を誤魔化すのは難しいかもしれない。

 半年後のアルコンスィエル学園入学時には化粧方法を変えておこう。

 ブランシュは頭の中の『アルコンスィエル学園入学までにする事リスト』に『化粧方法の変更』を書き加えた。

 突然アンデットになってしまったブランシュにとってこの半年にしなければならない事は少なくない。

 まず第一にこの体の秘密を守らなければならない。

 健康診断などで人体に詳しい者に体を見られればアンデットである事がバレてしまうだろうし、少し強めに腕を回したくらいで肩が抜けるような脆い体では体育の授業は出来ないだろう。

 何とかしてそれらをパスする方法を見つけておかねばならない。

 また粘膜接触で相手をアンデットにしてしまう能力を得てしまったのでこれに対しても対策が必要だ。

 それ程濃厚な接触をするつもりはないが、何かの拍子に躓いて意図せず接吻してしまう、などと言う事が絶対無いとは言えない。

 そうなっだ場合にすぐ対処できるよう、聖水など準備して身に着けておいた方がいいだろう。


 もう一つ、悪役令嬢として主人公を虐めなければいけないらしいが、ブランシュのポリシーとして他人を進んで虐めるのは気が進まないし黙っていても周りが虐めてくれるらしいので自ら手を下す事は避けたい。

 だが断罪イベントは確実にこなさなければならないので、ここは主人公を貶めずに自分が貶まればどうかと考えている。

 つまり、自分がとことん嫌われてしまえばいいのではないか。

 その為にも色々と準備が必要だ。

 

 それにしても男爵家に養女が迎えられたと言う話は聞いたことがないが、それは自分が世事に疎いせいなのだろうか。


「ねえヴェール、男爵家で養女取ったと言う話を聞いた事がある?」


「え? うーん、何年か前にボルジア男爵の所にあったよね?」


「ああ、あったわね」


 だがそれはたしかボルジア男爵の妹の子を養女に迎えたと言う話で、しかももうそろそろ成人しているはずだ。

 これから高校に通うとは思えないのでその子の話ではないだろう。


「その養女がどうかしたの?」


「ううん、何でもないの。気にしないで」


「今日のブランシュは『気にしないで』ばっかりだね」


「そうかしら?」


「そうだよ。何か気掛かりな事があるなら相談してよ」


「ありがとう」


 ヴェールはブランシュが何かを抱えていてそれを自分に相談してくれない事に憤りながらも、事情がある事を察して深くは追求しないでいてくれた。

 世事に敏いヴェールも知らないのだからこれから半年の間に養女に迎えられてアルコンスィエル学園に入学すると言う事なのだろうが、少々急すぎる気がするがそんな事が可能なのだろうか。

 そう考えていると、入学まであと三ヶ月と言う所でベルメール男爵家が養女を迎えたと言う噂が入ってきた。



  ◇◆◇



 やったわ!

 ローズは心の中でガッツポーズをした。

 ローズは自らが持つ才能に気が付いていた。

 それは優れた容姿だ。

 桃色の柔らかな髪にピンク色のふっくらとした愛らしい唇、瞳は少し垂れ気味で長い睫毛がどこか憂いを含んでいるようにも見える。

 ローズはこれからこの容姿と貴族としては常識外れな行動で何人もの男達を虜にする事を知っている。

 そう、実はローズは転生者なのだ。

 『あきな』として生きていた時もそれなりにモテてはいたがつまらない男と結婚した為につまらない人生になってしまい、そしてつまらない理由で死んでしまった。

 だが『あきな』は気が付くと生前遊んでいた乙女ゲー、『遙かなるアルコンスィエル』の主人公に転生していたのだ。

 自分の顔を見て驚いたが、これから起こるめくるめくイベントの事を考えて胸を踊らせた。


 ただ一つ残念だったのは、ゲームでは貴族の養女としてアルコンスィエル学園に入学する所から始まるのに、まだ入学もしていないし貴族の養女にもなっていないただの平民のローズとして目覚めた事だ。

 暮らしは貧しいし、本当に迎えが来るのか、貴族になれるのか、アルコンスィエル学園に入学できるのか気が気じゃなかった。

 もしかしたら『あきな』だった事も、この世界が乙女ゲーの世界だと言う事も自分の妄想なのではないかとすら考えたりした。

 しかしその陰鬱とした日々も今日でおさらばだ。

 ローズは貴族の娘だった事が判明して本日正式に貴族の養女となった。

 今日からはローズ・フォン・ベルメールとして輝かしい日々の始まりだ。

 ゲームに出てきた攻略対象は皇太子のノワール・ド・ラ・ヴァンドーム、枢機卿の孫のヴェール・リュ・ルクヴルール、騎士団長の息子のカーマイン・レス・オジエ、宰相の息子のアルジョンテ・ド・ロレーヌ、財相の息子のジョーヌ・ルネ・サルバトーレという国の将来を担う錚々たる5人だ。

 その中でもローズ、いや、『あきな』の推しはやっぱり皇太子のノワールだ。

 黒髪と涼しげな瞳、クールな立ち振舞がたまらない。

 ノワールはブランシュ・ド・ロレーヌと言う公爵令嬢と婚約しているが、この女はアルジョンテの妹で所謂悪役令嬢だ。

 主人公がどの攻略対象と結ばれても断罪されて修道院送りになる事が決まっているので要するに敵ではないのだ。

 ノワールと結ばれるトゥルーエンドもいいが、どうせなら難易度は上がるが全員に愛され囲まれて終わるハーレムエンドを目指したい。

 ローズは5人に囲まれる自分を想像して頬を緩めた。

 

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