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第18話


「殿下、私はベルメール男爵令嬢と一緒でも構いませんわ」


 ローズが断られて苦虫を噛み潰す様な顔をしているのを見かねてブランシュが助け舟を出すと、ノワールもローズも意外そうに驚いてブランシュを見た。


「え… ブランシュ様はそれでいいんですか?」


 ローズはブランシュが同伴を許したのが心底意外で思わず聞き返してしまった。

 転生者のブランシュがローズのポジションを取って代わろうとしているのであれば、ここでローズに助け舟を出す必要はないはずだ。

 いや、もしかしたらローズに手を差し伸べる事で心の広い所をノワールにアピールしているのかもしれない。

 それか何かもっと別の思惑があるのだろうか。


「ええ、スイーツを作って頂く日取りも決めないといけませんよね? この際ですので三人の予定が合う日で決めましょう」


「ブランシュがそう言うのであれば…」


 ノワールはブランシュと二人で食事がしたかったが、ブランシュがそう言うのであれば反対する理由も見つからず、渋々ローズの同伴を許した。


「三人って、まさかブランシュ様も召し上がるんですか?」


「? いけませんか?」


「いけないわけではないですが…」


 やっぱりそうか、とローズは思った。

 おそらくブランシュはローズとノワールがスイーツを口実に二人っきりになるのを妨げる為に、あえてこの場で同伴させて自分を含めて日程を決めさせるつもりなのだ。

 親切に見せかけて結局自分の思う通りにするなんて、本当に恐ろしい女だ。

 やはり侮れないとローズは考えているが、実際のブランシュはローズが作った物珍しいスイーツを自分も食したいだけの食いしんぼうだった。

 今更同伴を断る事も出来なくなったローズは、ブランシュとノワールと共にカフェテリア『モノ』にて昼食を取りながら、丁度一週間後にスイーツを振舞う事に決めた。


 午後の授業の後の休憩時間にはアルジョンテが顔を出し、それを毎度ジョーヌが引きずって帰って行った。

 そしてその度にブランシュはジョーヌに頭を下げ続けた。


 ローズは結局今日もあまり攻略は進まなかったとしょんぼりしながら帰宅しようと学園の正門を潜った時、正門の直ぐ脇に立っていた燕尾服の色っぽいイケメンと目があった。


「ローズ!」


 攻略対象以外にもこんなイケメンがいるのかと見惚れたローズだったが、イケメンは何とローズの名前を口にした。


「えっと、どちら様でしょうか?」


 ローズは自分の美しさがこんなイケメンを引き寄せたのかと嬉さを噛み締めながら、でも猫を被って可愛らしく小首を傾げと問うと、イケメンは思いもよらない事を言い出した。


「僕だよ! 僕!」


 何? オレオレ詐欺?

 ローズは『僕』と言われても誰なのか分からず更に首を傾げた。


「ポールだよ」


 は? ポール?

 ローズの知り合いの中でポールは一人しかいない。

 継ぎ接ぎだらけのボロを着てボサボサのくるくる頭で貧民街の長屋で暮らすあのポールだが、目の前のイケメンとは似ても似つかない。

 共通点は性別と、身長が同じくらいな事と、髪がカールしてる事位だ。


「どちらのポールさんでしょうか?」


 ローズは失礼のないようににっこり微笑みながら訊ねた。

 イケメン相手にはとりあえず丁寧に接しておいて損はない。


「貧民街の長屋でお隣でジャックと住んでたポールだよ」


「え!!?」


 思わず大声が出てしまった。

 だがここまで詳細に言われるとなると、あのポールとこのポールは同一人物らしい。


「ポール? 本当に? その格好どうしたのよ?」


「実はロレーヌ公爵邸で雇われる事になって」


 ポールは息を潜めてそう言った。


「はぁ!?」


「ローズの事は話してないから安心して。ここでは詳しくは話せないから、またどうにかして話そう」


「ポール、お待たせ」


 ブランシュが正門から出て来てポールに声をかけると、ポールは急いで声のした方向へ振り返った。


「お嬢様! お待ちしてました!」


「遅くなってごめんね。あら、ベルメール男爵令嬢とどうかしたの?」


「いえ、お嬢様をお見かけしていないかお訊ねしただけです」


「そう。ベルメール男爵令嬢、お帰りのところ足止めしてしまって申し訳ありません」


「いえ、お気になさらずに。それでは私、失礼しますね〜」


 ローズは帰るフリをして少し進んでから振り返ると、ブランシュがポールを従えて帰路についていた。

 ポールがあんな隠れたイケメンであった事も初めて知ったし、おまけにロレーヌ公爵家に雇われるとはいったいどんな経緯でそうなるのか。

 ポールが雇われていると言う事はジャックも一緒なのだろうか。

 まさか二人とも向こう側に寝返ったのかと一瞬考えたが、それにしてはブランシュの態度に変化は見られない。

 いや、あの悪役令嬢がする事なのでそれもまた思惑があっての事かもしれないが。

 どちらにせよ、今ローズにできる事は何もない。

 ポールは話していないと言っていたのでそれを信じるしかないのだ。



 ◇◆◇



 ロレーヌ公爵邸に帰ったブランシュは今日は無事に帰宅した事を両親に報告しつつ夕食を取った。

 普段ならばアルジョンテも共に食卓に着くのだが、今日は引き継ぎ業務が滞ってるらしく帰りが遅くなるとこ事なので先に済ませた。

 昼間あれだけ抜け出していれば滞るのも無理もない話だ。

 その原因を作ったのは他でもない自分自身なので、ジョーヌ達には本当に申し訳なくて頭が上がらない。

 夕食後自室で寛いでいるとドアをノックする音が聞こえた。


「ブランシュ、私だ」


「お兄様?」


 ブランシュが扉を開けると、そこには思い詰めた表情のアルジョンテが佇んでいた。


「お帰りなさいませ。今帰ったのですか?」


「ああ」


「あの、何かあったのですか?」


「………」


 アルジョンテのただならぬ雰囲気に、ブランシュは訊ねた。

 アルジョンテは何も言わず、ブランシュの部屋に入ると扉を閉めた。


「お兄様?」


 本当に何があったのだろうか。

 アルジョンテのいつもと違う様子に不安を覚えたブランシュはアルジョンテの顔を下から覗き込む。

 するとアルジョンテの腕が伸びて来て体を引き寄せられ、そのまますっぽりと腕の中に収まってしまった。


「愛している」


「私もお兄様の事を愛してますよ?」


 何を今更、家族なのだから愛してるに決まっているじゃないですか、とでも言いたげなブランシュの返事に、アルジョンテは首を横に振り、ブランシュを抱きしめる腕に力を込めた。


「そうじゃない、そうじゃないんだ」


「お兄様、いったいどうしたんですか? あの、一度離して頂けませんか?」


 ブランシュは思い詰めた様子のアルジョンテが心配だった。

 それと抱き締められた事で腰骨の辺りが悲鳴を上げている。

 早くこの腕から抜け出さなければ本気で折れそうで、そちらも心配だった。

 だがアルジョンテは腕を緩める事はなく、ブランシュをギュッと抱き締めたまま言った。


「聞いてくれブランシュ、私はもう自分の気持ちを押し殺す事は出来ない! 私はお前を妹としてではなく、一人の女性として愛しているのだ!」


 アルジョンテの爆弾発言に、ブランシュは目を見開いた。


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