表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/7

渇望2 アイヴィス

 戦いが終わって数日後、関の居る病室を私は訪ねていた。

 腕一本を完全に再生するのは体力を使う。休養を必要とするのだ。

「元気? 関?」

「まあ……腕も生えたし、元気、かな」

 こんな、良い関の笑顔、初めて見た……これが本来の関、なんだよね。

 復讐とはいえ殺人を達成して笑う関もそうだけど、それ以上に、私は、あなたの笑顔を見れたことを嬉しく思ってる。

 その笑顔が血まみれのものだって、全てを犠牲にしたものだって、分かってるのに。

「……アイヴィスのせいじゃない、私が壊れたのは自分の意志だから。ノヴァクを殺すだけなら、君やラオコーンに頼んだり、交渉して倒してもらう方法も有った」

「でも、それも全部……その」

「……ラオコーンが妻を見殺しにしたことかな? 大丈夫だよ、聞こえてた。

 それでも私はこの道を選んだ。自らの能力でノヴァクを倒すために……“人間を食料として見れるようになった”」

「関っ……!」

 私は関を押し倒し、頭を抱きしめるようにして言葉を遮る。

 こんなことしちゃダメなのに、涙が、止まらない、私が泣くべきことじゃないのに……泣いて許されることじゃないのに!

「なんで、なんで笑えるのッ! ラオコーン様や……私のせいで……もう人が食べものに見えるようになったのに……!」

 関のジンキは、植物の皮を剥く能力ではなく、実際は“食料と認識した物の皮を剥ぐ能力”だった。

 ラオコーン様から指摘を受け、最初は鶏肉や豚肉の皮を取れることを実験し、徐々に段階を進めていった。

 切り分けていない鶏肉、血抜きをしていない鶏肉、死んで間もない鶏肉、そして“生きている鶏肉”、これらに順番に能力が利くようにしていき、今度は哺乳類へと向かっていった。

 その過程で殺人こそしなかったけど、“ノヴァクと同じ種族の生物”の肉も口にした。吐き戻しそうになりながら、関は同族を食料としての認識しだし、私は請われるまま協力した。

 請われたからというのは言い訳だ。あなたが壊れる間、近くに居たかった。

 関は泣き続ける私を猫のように引きはがし、ベッドの上にちょこんと座らせた。

「良いんだって。今となっては……これで良い。蒼子を失って……実はノヴァクを殺したら自殺するつもりだったんだ」

「……え?」

「でもさ、今は……蒼子を失って全部無くなったと思ったけど……生きる理由が見付かったんだ」

 私は関と見詰め合う。

 人間ではない私は実年齢では関より年上だが、恋愛経験に関しては外見相応にすぎないと思い知った。

 関の目を逸らせなくなっていた。

「大丈夫。キミは対象外だから」

「え、だ、ええ?」

「もっとね……食べたいんだ。自分で獲ったのをさ。ノヴァクの体を食べ損ねて気が付いたんだ。私は……食べたいんだ。

 そうだ! 私は蒼子を失った時……蒼子の遺体が焼ける匂いを覚えている! あのとき、私は蒼子の体を夕食にしたかったんだ!」

 涙ながらに私の拳が関の顔面を打ち抜いた。

 最初に出会ったとき、ラオコーン様から庇うために殴り飛ばしたときとは違う。関そのものに対する激情から、それ以上言葉を聞きたくなくて殴った。

 言葉を失った関の顔は紅潮し、目は充血し、殴られたときに唇を浅く切っていた。

「この色なんだよ……あの日、ノヴァクが私の家を燃やしたときの炎も、蒼子の中の色も……この色なんだよ……」

 ラオコーン様が云っていた命よりも捨てるべき物とはこのことだった。関は全てを捨て去った。

 多くの過去は炎の中に置いてきた。

 人間としての矜持は血で洗い流した。

 蒼子さんへの愛は―――食欲に替えてしまった。

 引き換えに得た物は、生への執着と殺人鬼としての自分、触れた者を一撃で殺傷するジンキ。

「……恨んでるよね、私やラオコーン様を」

「アイヴィスには感謝しかないよ。だが……どうだろうな」

 復讐できたのは間違いなくラオコーン様の気付きのためであり、感謝すべきなのかもしれない。

 ノヴァクを放置して自分自身を殺人鬼として覚醒させたのもラオコーン様であり、憎悪すべきなのかもしれない。憎悪すべきなのよ。

「……今はまだラオコーンが人間には見えなくて能力の対象にできない。もしこのまま強くなって……ラオコーンに食欲が湧いたら考えるよ」

 ……ああ、もう、ダメだ。

「イワンが云っていたんだ。人を殺すのがなぜ罪か知っていますか、って。

 ……罪としなければ、人は……人を殺す生き物だったんだよ。簡単で……その通りだったよ」

 私は、もう逃れられない。私を愛することがなく死だけを見つめるこの狂気に酔ってしまった。

 同情だったものが、懺悔だったものが、後悔だったものが、師弟であったものが、腐って甘い匂いに変わった今、もう、離れられない。


別に読み飛ばしても問題ない設定資料



キャラクター設定

名前:関輝石(せききせき)

年齢:26歳→29歳

身長:173センチ→175センチ 体重:62キロ→87キロ

:恋人をイワンに殺された憎悪からジンキホルダーとなる。

 復讐のために戦いを開始するが、食品以外に効果が発揮しない能力の特性から困難であることを知る。

 しかし、人間を食料として認識することで、人間の皮を剥くという攻撃を習得。“最弱の能力”から“一撃必殺の能力”へと昇華させた。

 欠点は昆虫系のインセイヴァーに対しても効果が一定ではなく(イナゴやハチといった姿のインセヴァーには効きやすいが、カブトムシや蝶のような姿には効かない。)

 岩石生命のマシンハートには完全に無力なこと。

 そして、人間たる自我と尊厳を代償とし、自らの能力と性癖を邪悪と認識しているため、彼自身がこのジンキで栄光を得ることも、幸せになることもない。

:ジンキ名・『皮剥(カーニバル・ソロ)』(血液型AO)

 植物を始め、関が食料と認識する物体の皮を剥ぐ。

 本来は戦闘においてなんの役にも立たないが、関が自らの人間たる部分を捨て去ることで対人能力としては極めて殺傷能力の高いジンキとなった。

 A型のアナグラムは、B型やAB型のように他の物体として実体化していないため、本人の認識や人格によって能力の解釈が変わることがあるが、その典型例である。

 ちなみにカーニバル・ソロという呼称はKOBメンバーたちにコードネームを、と呼ばれ自ら命名。

 関は【能力特性の露呈を防ぐ処置】という認識だが、他メンバーは【カッコイイから】程度で勧めた。


:キャラクターモチーフは、忍者戦士飛影OP。歌詞ではなくリズム。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ