進藤立道と言う男
午前の授業も無事に終え、少しばかりの昼食を食べ終えた私は図書室へと向かった。
その最中、女子の人だかりが一気に波のように動いていくのを目の当たりにした私は
進藤先輩の取り巻きか・・・
心の中で嘆いた。
私が知る限りの進藤立道と言う男は
この学校の生徒会長を務めていて
学園ドラマで言う王子様ポジションの人間で
噂では、理想のタイプはかなりの・・・だそうで。
その余白の部分は私どころか、いつも一緒についてまわっているであろう取り巻きの女子さえも知らないらしく
それぞれが憶測を立てて、答えを探りだそうとするもいずれも違う結論に終わっている。
こうして考えている内に図書室へと着き、図書委員の勤めを果たそうとしていた。
いつもの様に海老原君が先にいて
貸し出しの手続きが上手くいかずに1人でテンパっている。
私が仕方なく助け船を出すと、安堵から来るのか
彼の表情筋が少し和らいだかのように見えた。
その顔もまた独特だった。
貸し出しの管理とは言っても借りてくる人間がいない限りはこちらも待つしかない。
つまりは彼の煮え切らない会話がまた再開される訳で、それをかわしきるのに必死だった。
彼はどこまで不器用なんだろうか。
他愛もない返事を繰り返していた時に、私の携帯に1通のメールが届いた。
机の下で隠す様に確認する。
差出人は姉、私は無視した。
嫌な事は立て続けに起こってくるものだ。
その後もなお、怒濤の勢いで私の着信は続いた。
いちいち開くのも面倒くさくなってきた時だった。
「もしかしたら、用事でも出来た?」
彼にしてはナイスな気遣いであるが、今このタイミングでは微妙である。
「えっと、気にしないで」
「大丈夫だよ、僕1人でも」
自分を客観視できないのだろうか。
「海老原君1人に負担かけさせる訳にはいかないし」
「そ、そんな。大丈夫だよ」
やや照れながら言ったのはなぜだ。
それから大丈夫じゃないって。
一応、私は最新のメールを確認した。
文面はこうだった。
「来なければ、女に生まれて来た事を後悔させる」
私は深めの溜め息をつくと、不安ながらも彼に任せた。
私は沈んだ面持ちで、姉の教室へと向かった。
行き先が書かれていないのなら、大概は教室であるパターンだ。
教室のドアを開け、姉と目が合う。
風を切るように私に近づき、乱暴に私の腕を掴みそのままどこかへ向かう。
今更ではあるが、人使いが荒すぎる。
やっとの事で止まった場所は、外の自転車置き場。
何かを説明するわけでもなく、姉は憮然としながら言った。
「進藤立道様の番号を聞いてこい」
「何で私が」
「この私がお願いしてるの、さっさと行きなさい。お願いって言うことすらヘドが出るけど」
「ヘドが出るなら休めば良いじゃない」
「訳分かんない事言ってないで、さっさと行ってきてよ!!」
「どうしてそんな事・・・」
お前ごときに疑問を感じる余地はない、それとも2度と家に帰れなくなりたいの」
「家の権利はお父さんが・・・」
言い終わらない内に、姉の手からナイフが私の喉元に突き立てられていた。
「ここで変死体となるか?」
「分かったよ・・・」
今日は何て日だろうか、そもそも私の様な1年とターゲットの3年じゃ切っ掛けがない。
生徒会なんて入ってないし、ましてやターゲットは図書室なんかに来ない。
どうせ無理だろうと思いながらも、ターゲットに近づいた。
何故自転車置き場で女の取り巻きと一緒にいるのだろうか。
そもそも今はどんな話題で談笑してるのか。
私の疑問を感じる癖が止まらない。
しかし、今はそんな事は関係ない。
このミッションを成功させなければ、私は女としての何かを奪われるらしい。
色々とハードルが高すぎる案件だが、やるしかない。
取り巻きの死角で深呼吸をし、意を決してターゲットに話しかけた。
「あの、進藤先輩でしょうか」
「そうだけど、君も僕のファンなの?」
うわ、うぜえ。
ストレス感たまんねえ。
姉の趣味の悪さが際立つ。
それと同時に取り巻きの女共が不穏な表情をしている。
大丈夫、あんたらの王子様には興味ない。
「ねえ、何の用?」
「あの、もしよろしければ番号を教えてもらえませんか?」
「15番」
「いや、何のですかそれ」
「番号だよ、出席の」
それと同時に取り巻きは嘲笑したが、品がないので特にどうとも思わない。
「そうじゃなくて、携帯のですよ」
携帯のと言った瞬間、さっきまで笑っていた取り巻き共は一瞬にして私に敵意の眼差しを向けてきた。
いや、話せば分かるって。
「てかさ、何で見ず知らずの人なんかに携帯の番号なんか教えなきゃいけない訳?」
「頼まれたんですよ」
「また、そんな嘘ついて」
「安城愛子って人、知りませんか?」
「ああ、そいつがどうしたの」
「その人、私の姉なんです」
「何、そのストーカー女から聞いてこいって頼まれたんだ」
「ストーカー?」
「てかさ、妹のお前なんかに言ったところでしょうがないけど。お前の姉貴しつけえんだよ、出会った時に優しくしてやったら勘違いしやがって。この前なんて、番号を教えるまで帰らないなんて言いやがったから渡してやったよ。偽のな」
どうだ身内をバカにされて悔しいだろと
勝ち誇ったような顔で彼は見てくる。
生憎、全く悔しくないし早くこの空気から逃げ出したい。
「偽の番号なんか渡すから私が駆り出されたんですよ」
「知らねえよ、あのストーカー女なんか興味ねえしそもそもタイプじゃねえし」
「ああ、分かりました。もう良いです」
「何、帰んの?。負けちゃったねー、根気のない奴はこれから先の人生ずっと負けっぱなしだぞー」
「負け犬で良いです」
「またそうやって開き・・・」
「誰にも愛されないでここまで来た女のどこを誰が愛してくれるんですか、もう会う事はありませんがお元気で」
「いや、ちょっと・・・おい!」
私は一時の感情に身を任せて自転車置き場から逃げ出した。
「別に聞き出そうとしたら、相手の事情で聞けなかっただけだし大丈夫」
心の中で呟いていたその時だった。
突如目の前に立ちはだかる、何か。
見上げれば、姉。
「何あの体たらく」
「体たらくって?」
「ずっと見ていたけどね、素振りすらなかったじゃないの」
「正直、性格は最悪だからかかわらない方が」
「性格なんてどうでも良いの!、私は顔が1番なの!!」
「どこで誰が聞いてるか分からないよ」
「またそうやって話の腰を折ろうとする!、というかあんた番号すらも聞き出せないの!?。どれだけ社会不適合者なのよ!!」
「はあ」
「おまけに私がストーカー扱いされるし!」
流石にそれは自分の責任だろ
「何かあんた今、余計な事考えた?」
「何も」
「まあいいわ、とにかく今日中に番号を聞き出してきて」
「もう悪い印象を植え付けてしまったから無理」
「聞き出さない限りは家に入れないから」
「家主は母親のはず」
「その母親は今日夜勤よ」
不幸って本当に重なるものだ
かくして私は、臨時の鍵を手に入れるために進藤立道という男から番号をもう1度聞き出すはめになった。
先ほどマイナスのイメージをあの男に植え付けてしまった以上は近づくのもはばかれる。
かといって手にいれない限りは野宿な訳で。
全く新しい形の試練に、手こずるしかなかったが
もっと手こずっている男がいた。
海老原だ。
昼休みが終わるまでに充分時間があったので
労いがてら図書室を覗いたら
どういう訳だか
女子が彼の方を向き、怒り狂い
不良ぽい男子は彼の肩を組みながら、この場をいさめ
当の彼は漫画を片手に号泣している始末。
無論、私は他の所へ退散した。