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安城友香里の場合


ふと、子供の頃縁側で祖母と話した記憶が時々蘇る。


とても優しくて、頭が良くて、色んな意味で強かった。


夏休み、私たち姉妹がまだ子供だった頃に泊まりに行った思い出。


内気で1人で遊んでいる私を縁側に誘って、たくさんお話をした。


当時、姉について相談をした事がある。


周りと比べて私のお姉ちゃんは、私の事をいじめてくると。


その時の事は、今でも覚えている。


さっきまで笑っていた祖母の顔が一気に曇りだした。


そして、私に向かってこう語りだした。


「友香里、あなたはこの先お姉ちゃんに色んな傷つけ方をされるかもしれない。それでも負けちゃいけないよ、負けないってのは相手を傷つけるのとは違うからね」


少しため息をつき、また言葉を続けた。


「何があっても絶対に、絶対に・・・自分から死を選んではいけないよ」


そう言い終えた祖母の目からは涙がこぼれていた。


この先に待ち受けているであろう私の困難を見透かしていたのか


その言葉は力強く、それでも儚かった。


私の姉が今の様になり始めてから、毎日自問自答の日々だった。


何故私がこんな目。


こんな日々があと何年続くの。


もう嫌だ、普通の人生を送りたい。


母親も助けてくれず「たった1人のお姉ちゃんなんだから大事にしなさい」と言う始末


どこにも味方なんていない、なら味方に会いに行きたい。


そう思い、自らの体を傷つけようとした事もあった。


その度に、あの言葉を思い出し私は・・・。


私は・・・どうしたの?。


あれ、私って誰の事?・・・。


ちょっと待って、違うよ。


本当の私はそんなんじゃなくて、もっと幸せなんだよ。


だって優しいお姉ちゃんがいて、そのお姉ちゃんにこき使われても


その命令に幸せを・・・。



その命令に幸せを?、バカな事を言うんじゃないよ友香里。


あれだけ負けるんじゃないって言ったのに・・・。


私に会いたくてここに来たって言われても、あなたの居場所は無いよ。


もう優しい言葉はかけたくない、これ以上掛ける価値なんて無いからね。


戦う事を忘れた人間に甘い顔なんて出来ないよ。


友香里、戦いなさい。


あの女は、本来ここに生まれてくる人間じゃなかった。


制す事が出来るのはあなただけ。


何度も何度も泣くかもしれないし、傷つく事があるかもしれない。


1つ1つ忘れるんじゃないよ、分かったね。


お婆ちゃん、こうして会えるのも最後だから


ちゃんと自分を持つんだよ。


友香里、お願い。


あなたしかこれは出来ないから。



携帯のアラームが鳴り、私は目覚めた。


さっきの夢は何だったんだろうか。


私の独白から始まった夢は、自分自身を見失いかけ、そこを祖母が救ってくれた。


そして最後に言われた、私にしか出来ない事・・・。


偶然にしてはあまりにも言う事が重すぎる


だとしても理由は・・・。


こうして考えてしまうと深みにハマってしまい周りが見えなくなってしまう。


こうして自己反省した私は、ゆっくりとリビングに向かった。


時間帯的にも、そろそろ姉が登校の準備を始めている頃だ。


少しの挨拶をして早々と準備をしてしまおう。


と思った私は足早にリビングへ向かった。


当の姉は、既に朝食を食べ終えていた様だった。


姉に形式的の挨拶をして


冷蔵庫に向かい、朝食を取ろうとし


そしたら目の前に姉が立ちはだかって


ここで私の記憶は一旦途切れた。


気づいたら私は、塵や埃のついたスクランブルエッグを顔の至るところにつけていた。


ぼんやりと白い天井を見つめる。


母親は相変わらず無関心だ。


たった1人しかいない姉がこうならば、どう愛せと言うのだろう。


私は、母親の言葉に強い矛盾と嫌悪感を抱きながら


洗濯機へと向かった。


早くしないと間に合わない


ろくに朝食も取らぬまま私は、鞄を持ち玄関へ向かう。


足が動かない、暗い淀んだ気分と共にこの体がここから出るのを拒否している。


「何をしているの、早く行きなさい」


母の声でふと我に返る。


今日も私の戦いが始まったばかりだ。

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