クリスマスの告白
登場人物
田口 隼人
医師として働く30歳男性。
青山 凛音
田口と同じ病院で働く看護師。
入社3年目。
今日、12月25日はクリスマス。
それにちなんで俺が勤めている病院には今月はじめからクリスマスツリーが置かれており、入院している子供達がはしゃいでいるところを見かけるようになった。
俺、田口 隼人はある決意をしている。
それは同じ病院で勤めている青山 凛音さんに「結婚を前提とした愛の告白」をしようと考えているのだ。
いつも見慣れているナースステーションでは看護師の申し送りを行っている。
「みなさん、おはようございます。申し送りを始めます」
「「おはようございます。お願いします!」」
「管理日誌から送ります。平成28年12月24日土曜日。入院3、退院4……」
一応、医師である俺もできる限りそれに参加しているが、患者の夜間の状態などを知ることは大切なこと。
「では、患者の方を送らせていただきます――」
しかし、今日はいつもよりなぜかは分からないが、変な感じがする。
その理由は俺の脳内では青山さんとプロポーズのことでいっぱいになっているからだ。
俺は申し送り中に危うく重要なことを完全に聞き逃すところで俺はふと我に返る。
今はそんなことを考えている場合じゃないと――。
♡
申し送りが終わり、通常業務に入ろうとした時に「田口先生!」と女性の呼ぶ声が聞こえてきた。
「青山さん、どうした?」
「その台詞、そのまま返しますよ。田口先生こそどうしたんですか?」
「い、いや。なんでもない」
「なんかいつもとは違って、ボーッとしているみたいでしたので……」
「き、気のせいだよー」
案の定、青山さんに声をかけられた。
確か、彼女も日勤者だということを忘れていた。
「ボーっとして医療ミスとか起こさないでくださいね」
「気をつけるよ。心配してくれてありがとう」
「いいえ。今日も1日頑張っていきましょう!」
青山さんはこの病院に勤め始めてまだ3年目なのに対し、いつも落ち着いて周りの人に気遣いができる女性。
おそらく、こういう女性はすべての男性が好むかもしれない! と少なくとも俺は思っている。
「あっ……1つ、言い忘れたことが……」
「はい?」
「ちょっと耳を貸して」
「い、いいですけど……」
「き、今日は仕事が終わったあとは時間ある?」
「え、えぇ。私は仕事が終わったあと、家で1人寂しくコンビニとかで買ったケーキを食べながら過ごそうかなぁと思っていたので」
「そうなんだ。19時に駅前のレストランの前で待っています」
俺は彼女の耳元で用件を伝えると、青山さんは「はい、分かりました」と頬を赤くして苦笑しながら答えた。
俺は上の空で仕事をしないよう、頭を仕事モードに切り替えて業務に入っていった。
♡
今日はいつもより時間が流れるのが早かったような気がする。
俺は一旦家に帰り、着ていく服選びに迷い始めた。
確か、事前に予約した駅前のレストランはフレンチだから――。
「スーツはないかな……」
どこぞの企業の営業でもあるまいし、スーツはないか……。
おそらく、彼女も同じように着ていく服に悩んでいるのではないかと思ったり――。
「仕方ない。今回はコレで行こう」
俺は無難にYシャツにループタイ、スラックスに着替える。
外は寒いと思い、厚手のジャケットに袖を通した。
「おっと、携帯と財布を忘れるところだった……」
いろいろ急いでいると貴重品を忘れかけてしまう。
ジャケットのポケットにそれらを入れ、待ち合わせ場所の駅前のレストランに向かった。
♡
なんとかギリギリで俺は待ち合わせ場所である駅前のレストランに到着。
しかし、青山さんの姿はまだ見当たらない。
もしかして仕事が立て込んでいるのかと思い、彼女に電話をかけてみた。
「青山さん、まだ病院かな?」
『田口先生、すみません! あと少しで着きます!』
「焦らなくていいよ。怪我したら俺が手当してあげるから」
『ありがとうございます。その時はよろしくお願いします!』
青山さんはバタバタと走っていたようだったので、慌てていたに違いない。
その時、「田口先生!」と聞き慣れた声が耳に入ってきた。
「青山さん!」
「すみません! 着ていく服に悩んでいたら遅くなりました。もしかして、ずっと待っていましたか?」
「いや、俺も同じ理由で少し前に着いたから」
「よかったぁ……」
「レストランに行く前にイルミネーションを見に行かない?」
「いいですね! 行きましょう!」
俺は彼女の手をそっと繋ごうとすると、おそるおそる指を絡めてきた。
♡
イルミネーションを楽しんだあと俺は彼女にこう告げた。
「あの……青山さんが入社してきた時からずっと気になっていました」
「実は私もです」
「もしよかったら、俺と素敵な家庭を築いてくれませんか?」
俺は青山さんに婚約指輪が入った小さな箱を手渡す。
彼女はそれを見て、黙り込んでしまったが……。
「こ、こんな私でよければよろしくお願いします」
これが青山さんの答えだ。
そのあと、俺達はフレンチレストランで食事をして過ごした。
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