タイムマーシーン
ダムスはタイムマシーンの台の上に乗り、操作パネルを押し始めた。
「さぁ。タケシ君。カリンちゃん。ここへ。」
カリンは小走りにタイムマシーンの台の上に飛び乗り俺に視線を送っていた。俺は嫌々ながらも飛び乗り、カリンの肩を軽く叩いた。
ダムスはなれた手つきでパネルをたたいた。
タイムマーシーンはシャボン玉のような膜に覆われた。火星の地上を取りまく膜のように。
半透明の膜は僕とカリンの顔を写し出し鏡のように光を反射していた。
「この膜には触ってはいけないよ。もろくてね。すぐ割れちゃうから。この膜の中は時間を一定に保つことができるんだ。しかもこの膜は昔地球に生い茂っていた植物でできてるから、酸素をだしてくれる。呼吸もできる。今火星に張り巡らしている膜と同じだ。」
ダムスは言った。
俺はダムスを見ながら首を数回縦にふった。
カリンは口を開きあっきらかんとした表情を浮かべていた。
ダムスは続けた。
「この機械が動き出すと、この膜の外は何百倍のスピードで時間が流れ過去の世界に導かれる。だから決してこの膜に触ってはいけないよ。」
僕は口の中にたまっていた唾を飲み込んだ。
「ダムスさん。僕達はまたここに帰ってこれるんですよね。」
「もちろん。それじゃ行こう。」
ダムスは大きな凹凸のある部分に手をおいた。
歯車のように噛み合いながら機械が動き出し、大きく広がっていた鉄屑が蟹が足を内側にいれるようにコンパクトに閉じ始めた。そして全体が膜に覆われた円形になり、俺の目に写るものが揺れ始め、それが縦長に延び始め彗星のような直線に変わった。
時間が流れが変わった。
なん本も直線上の群れが周りを囲い、それはレールのように人の決められた運命のような決して曲げられない時間のようなものに感じた。
僕とカリンは言葉がでなく、ただ周りを眺めているだけだった。
そして周りの景色が線から点に変わりつつ、ゆっくりと止まった。
それは大きな川の中にいた。周りは裸の人々が何かの儀式のように浅い川辺で潜ったり立ち上がったりという動作を繰り返していた。
「ここは西暦よりさらにさかのぼる時代。地球にあった国の一つ。インドという国だ。ここはそのインドのガンジスという川。」
淀んだ色の川は太古を思わせる時代に感じ、僕は水に入ってる人々に差別的感情を抱いていた。
僕はダムスに訊ねた。
「あれはいったい何してるのですか?」
水浴びしている人々を指差し言った。
「あれは沐浴といって、聖なる川に洗い清めてもらうという儀式だ。」
僕は物珍しさにじっとみていた。
「ダムスさん。なんでここにきたんですか?目的は。」
ダムスは即答した。
「ここにね。君達が住んでいるブロックの長老がいるんだ。火星の長老達は各々自家用のタイムマーシーンを持っていて、君達のブロックの長老がここに長く住み込んでる。ときどき火星に帰ってるみたいだけどね。」
「それは本当ですか?」
「本当だ。彼に会えばわかる。」
タイムマーシーンR1は、水中用と陸上用に対応し、ダムスのなれた操作で動き始めた。
「私のブロックの長老と会ったことないんですが。」
さっきまで無口だったカリンが口を開いた。
俺もそうだった。
長老の顔すら見たことはなかった。
「彼はね。私の古くからの友人で、君達をここにつれてきた意味を教えてくれる。」
ダムスはいい放ち、一息ついたあとに、また口を開けた。
「名はシッダルータ。人々には仏陀と言われている。」