プロローグ
文明とはエネルギー利用の歴史でもある。
焚き火で暖を取ることに始まり、石炭、石油、天然ガスと時代と共にその姿を変え、最終的に原子力と呼ばれる人の手に余るレベルのエネルギー利用にまで発展した。
西暦二〇四四年、産業革命以降、急激に発展を続けてきた人類の文明は二一世紀半ばを迎えてもなお留まることを知らずに発展を続けていた。
発展を続ける高度な文明、それを支える為のエネルギー消費量もまた留まることを知らずに増大。その需要に答えるようにエネルギー産業も先を争って拡大し、更なる文明の発展に貢献していた。
その太古の時代から連綿と続くエネルギー利用の歴史の末、現在、エネルギー業界の最先端を走る一つの企業が存在した。
【カツラギエネルギーコーポレーション】
二四年前、【庵燃料電池】という名で突如エネルギー業界に参画したこの弱小中小企業は、凄まじい勢いで業界を席巻、今や全世界で七〇%のシェアを誇る一大企業グループとしてその名を馳せていた。
僅か二〇年程度、たったそれだけの期間で一中小企業がここまでの成長を果たすことが出来たのには理由があった。
庵燃料電池が開発した特殊素材がその答えである。
「E」と呼ばれたそれは、地球大気と反応することにより爆発的に熱を放出する性質を持っていた。
この熱を利用する「E」を組み込んだ発電システム、「空気反応発電システム」は低予算、低コスト、低リスクでありながら原子力にも匹敵するエネルギーを得られるという謳い文句と共に、主要先進国の間で爆発的に普及することになった。
その利用は今や発電のみならず、車や飛行機などかつて燃料を消費して動いていた乗り物や機械にまで応用され、各国の軍すらもがこの「E」の恩恵に預かることになった。
「E」の普及、それは同時に既存のエネルギー技術を急速に陳腐化させることを意味していた。
かつて燃料が石炭から石油に移り変わっていったように、石油ランプが電灯に需要を奪われていったように、世界はもはや「E」なしでは立ち行かないほどに、その依存を強めてしまっていた。
それがどんなものかも知らないまま一人の男の思惑通りに――。