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公爵令息の独白②

フェリクスがデビュタントたちの待つ部屋にはいると、うつむきがちのルナが目に入った。

白いドレスを身に付け、金の髪を結い上げて花冠をかざり可憐なルナがいた。

「レディ ルナ・レイア」

呼び掛けると、ルナはフェリクスをおずおずと見上げた。

緊張した顔は青白く、血の気がなかった。

フェリクスは内心苦笑すると、緊張を和らげようとアデリンとアナベルを紹介した。


同じデビュタントで、明るく朗らかなアデリンと大人しいアナベルにルナも少しほっとしたのがわかった。

アデリンがフェリクスやアルバートと話しているのをみて、ルナも少しずつ落ち着いて来たのか、透明感のあるブルーグレーの瞳がキラキラと楽しげに輝きだした。

人の目というのはこんなに心を映すものだったのか?とフェリクスは改めて感心した。


なるほど、素直だと聞いていたがルナは本当に素直で控えめで、それは少しだけ接しただけのフェリクスにもすぐにわかった。


そっとフェリクスの腕にかけられた手は遠慮がちで、体重を感じさせない。腕は細く長い指先が触れていた。

以外に背の高いルナの頭は、フェリクスのちょうど口元にあり立って話すのに目線を少しだけ下げるだけで良かった。


ふうん?とフェリクスはルナを好ましく感じる事に自分でも意外に思った。

それは特にダンスを踊ったときに感じた。

若く瑞々しい肌は、透けるような白さでシミひとつない。楽しげに輝く瞳の下は踊って上気した頬が健康的に薔薇色に染まって、艶々としたさくらんぼのような唇が笑みを浮かべると、子供だと感じさせなかった。

何より近くで踊ってみたルナは、少女に違いないが豊かな胸とくびれた腰をしていて魅力あるレディだったのだ。


フェリクスは、ライアンに乗せられてみるか、と普段なら女性に決して期待させないよう一曲踊ると、別れあとはそれなりに振る舞うのみだが、ルナには気をつかい、甲斐甲斐しく側にダンスの帰りをまち、ルナから目を離さないようにしていた。


そのかいあってか、ルナがフェリクスに好意を向けてくれたとその表情から読み取った。



フェリクスは、翌日に届くように音楽会への誘いの手紙を書くと、これで義務は果たした気分になった。

ブロンテ伯爵家からの返信はまた翌日にきて、フェリクスは朝の乗馬のついでにブロンテ邸へふらりと寄ることにした。


ブロンテ伯爵は、レオノーラを男にしたような容姿でかつてはさぞかしという男振りで、瞳だけはブルーグレーとルナと同じ色であった。

「おはようフェリクス卿、ルナのエスコートを引き受けて頂いて感謝しているよ。ルナはとても楽しかったと言っていた」

にこやかに言うアルマンに

「それは良かったです。こちらこそ美しいレディのデビューをお手伝いでき光栄でした」

微笑みつつ言った

「今日は来週の音楽会に私が迎えに来るとお伝えしにきたのです」

「ほぅ、わざわざ申し訳ないな」

「いえ、乗馬のついでに寄らせて貰いました」


話が一段落した所でルナが入ってきて、輝くような微笑みをフェリクスに向けた。

素直に喜びを表して高めの柔らかな声音で話すルナは愛らしかった。



シャロット家の舞踏会で会ったときには姉への思いやりに感心したし、レンと笑いながら話しているときには、イラついた。

エドワードの家に訪れ、ルナが笑いながらルーファスを抱いて世話をしていた時には、思わずこれが自分たちの子供ならと想像もしてしまっていた。

…つまりフェリクスはルナに急速に惹かれつつあったのだ。


音楽会の日、現れたルナはフェリクスが送ったドレスを着ていた事にひどく、支配欲が満たされる。ルナの為に誂えられたドレスはルナの魅力を引き立て、もはや姉たちに劣るとは思えなかった。

柔らかで、包み込むような雰囲気のルナにはフェリクスは優しい気持ちを抱かせられ、守ってやりたいと、男の庇護欲をそそるのだった。


音楽会でアデリンに促され、流行の歌を弾きながら歌ったルナの声は素晴らしく、恋を歌ったその歌詞に単なる歌だと思ったがどきりとさせられたのだ。

「上手いものだね?」

ルナは恥ずかしそうに微笑むと

「昔から歌は誉めてもらえたのでたくさん練習したんです」

吐息だすかのように話すルナの癖は、心地よくいつまでも聞いていたくなるくらいだった。

「また聞かせてほいしね」

微笑むとルナは、頬を染めてうなずいた。


気心の知れた仲間たちの会だけあって時間と共に砕けすぎになってきていた。ルナも楽しそうに笑っていたが、すでに時は深夜となり、フェリクスは送ることにした。


レンが

「襲うなよ」

と言って、フェリクスはあり得ないと思っていたが…


ルナと目があった瞬間にすべてが吹き飛んでいた。

そっと触れた唇が溶け合うように柔らかく、フェリクスはルナの唇を味わい続けた。


ルナを送り、馬車に戻ると御者に呆然としつつも尋ねた。

「誰かとここまですれ違ったか…?」

掠れた声しか出なかった。

もし、誰かに見られていたならルナの名前に傷がつく…

「いいえ、この時間ですから」

ちらりと周りを見たが、起きている貴族がいるかもしれず所々の邸には明かりがちらちらとしていた。

夜中とはいえ、社交シーズンであちこちから舞踏会や夜会帰りの貴族もいるかもしれず、屋敷で騒いでいる貴族もいるかもしれず、この王都を屋根のない馬車でキスをするなど…!

「…大失態だ…!」

毒づいて、拳で太股を叩いた。酔いはすっかりと覚めていた。


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