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社交界デビュー

ダンスとキスとマリオネットの同じ世界です。

新主人公のルナをよろしくお願いします!

挿絵(By みてみん)



ブロンテ伯爵家には四人の娘と一人息子がおりました。


長女のレオノーラは女性騎士で、すでに外国に嫁いだ王女のお気に入りでした。黄金の髪と緑の瞳の麗しき美貌で大変な人気を誇り、有名人でした。


次女の ステファニーは、姉には劣るものの美しい女性で教養に優れたレディだと有名でした。晴れてアンドリュー・エディントンと婚約を発表しました。


三女のルシアンナは、華々しい美貌を誇り社交界では取り巻きを従えていました。しかし、妙齢の夫人たちからは少しはしたないと言われるものの人気者の女性でした。


四女のルナ…16歳。特に評判もなく今年社交界デビューを迎えた目立たない存在でした。


長男のラファエルは寄宿舎での生活をしており、来年には自宅に帰ってくる予定でした。彼もまた美々しい青年で優秀な人物だと話題なのでした。


アルマン・ブロンテ伯爵と妻のリリアナは大層子供たちを自慢に思ってきたけれど、三女のルシアンナの我が儘にはほとほと困り果てていました。


この日は王宮の舞踏会…

「またあのドレスを着なくちゃいけないの?」

ルシアンナは新しいドレスでは無いことに朝からぷりぷりと言い出した。

「まぁ、ルシアンナ。今年は許してちょうだい、ステファニーの結婚もあるし、ルナもデビューなのよ?」

リリアナがきっぱりというが、

「じゃあお母様のエメラルドの首飾りをかしてよ」

ルシアンナは不機嫌に言った。

「ルシアンナには、あれはまだ早いよ」

近衛騎士の制服に身を包んだレオノーラが言うと、

「お姉様がそういうなら」

とルシアンナも素直に聞く。

美しく凛々しいレオノーラには、妹といえどその魅力にクラクラするのだ。

「レオノーラもいい加減騎士をやめて、結婚を考えてちょうだい」

レオノーラはリリアナに微笑みかけた。母でさえ、その笑みにはうっとりとしてしまうものだ。

「大丈夫よお母様。お姉様は」

ステファニーは姉を羨望の眼差しで見た。

「何が大丈夫なものですか、レオノーラはもう25歳よ」

リリアナはため息をついた。


レオノーラは綺麗な脚を組み、カップを口元に運んだ。

「そんな事よりルナのエスコートはどなたにお願いしたのです?」

「フェリクス卿だ、ウィンスレット公爵家の」

「そんな人気者の貴公子でルナは大丈夫なのですか」

レオノーラはカップを置くと、父、アルマンを責める口調で聞いた。彼女は末の妹が目立ちたくない質だとわかっていた。

そこではじめて家族の視線がルナに集中し、ルナは縮こまった。

ルナの瞳は姉たちと違い、ブルーグレーで地味だし、髪もなぜか華やかなうねるような金髪ではなく、まっすぐな金髪だった。

姉たちと似ていない事もないのだが、本人の控えめな性質もあり大人しい雰囲気だった。

「この上なくいいお相手ではないか?レオノーラ」

「お相手に文句はありません。しかしルナが緊張するのではと思いますが」

当代随一の貴公子の名前にルナは本気で病気になりたいと願った。


「ルナ良かったわね!フェリクス卿がエスコートしてくれるなんて滅多にないわよ!」

ルシアンナがにこやかに言った。

フェリクスといえば、未婚女性が今一番、理想の結婚として夢見るお相手だ。ルナにとって拷問に等しかった。

「じゃあ代わってくれる?お姉様」

「あんたもたまには目立ってみなさいよ」

クスクスとルシアンナが笑った

「はしたないわ。そんな口調は」

ステファニーがルシアンナをたしなめた。ステファニーとルシアンナは真逆で、どちらもお互いが気にくわない。

「ふん、お高くとまってるわねステファニー。ばっかみたい」

ステファニーは鼻を鳴らした。

そんなぞんざいな話し方をしていても、美貌は損なわれていない。むしろ親しみ易く感じさせるのだ。

ルシアンナに振り回されたい、と男たちはますます寄ってくるのだった。


ステファニーはといえばどこまでもレディらしく振る舞うべきだと常々思っているので、

「ルナ、社交界デビューしたら外ではルシアンナに話しかけてはいけないわ。貴女にも悪い評判がたってしまうもの」

ルナはルシアンナとくっついて目立つつもりは更々なく、無言でルシアンナとステファニーを見つめた。


いつだってブロンテ伯爵令嬢を名乗るのは、苦行だ。どの姉と比べられる事もルナは本当にうんざりしていて、デビュー前から社交界の憧れなど波の前の砂の城のように崩れて跡形もない。


「ラファエルお兄様に頼めなかったの?」

つい父を責める口調になってしまう。

「何を言うんだルナ。フェリクス卿だぞ?立派でこの上ない青年じゃないか。何が不満だ。それにラファエルは若すぎてデビュタントのエスコートには不向きだ」

「お父様はちっとも分かってらっしゃらないのね。私は目立ちたくないの、フェリクス様にエスコートされたらとんでもなく目立つじゃないの」

「目だって何がいけないと言うのよ」

リリアナが驚いてルナを見た。


家族の注目を浴びてルナは声を掠れさせて

「只でさえブロンテ姉妹の妹なのに、って言われるのに…」

ルナはかたんと椅子から立ち上がる。

「もううんざりよ!お姉様たちと比べられるの、なのにこれからはもっとずっと言われるんだわ」

「まあルナ。貴女だって社交界に出れば逆にお姉様たちがルナのお姉様といわれるわ」

「そんなことあり得ない!」

「私は目立ちたくないの!壁の花になりたいの」

途端にケラケラとルシアンナが笑った

「あんたバカねぇ。壁の花なんて恥ずかしい余計に目立つわよ」

「今日はデビューなのだから、ダンスカードはいっぱいよ」

ステファニーが優しくルナのに話しかけ、ルシアンナをきっと睨み付けた。

「ルシアンナ、いい加減にして貴女がそんな風だからルナが目立ちたくないなんて言うのよ。ルシアンナの行動が恥ずかしいの、わたくしだっていつも恥ずかしい思いをしてるわ」

「黙って、ステファニー!」

ルシアンナもむっとしてステファニーを睨み付けた


「もう止めなさい、二人とも。ルナがますます縮こまってるよ」

レオノーラがルナを優しく抱き締め、

「さぁ私が部屋に連れていってあげるから」

レオノーラが笑みを向けて、ルナはやっと微笑んだ。

近衛騎士姿のレオノーラにエスコートされると、本当にうっかり恋をしそうなくらい凛々しく素敵なのだった。

「私も楽しみにしているからね、王宮で会おう」

ルナの頬にキスをすると、レオノーラは颯爽と勤務に向かった。


「ルナ様、さあ今日は大切な日ですからね」

とメイド長のビアンカが気合いがみなぎって、メイドたちを引き連れてルナの部屋に入ってきた。

メイドたちのなすがまま、ルナは念入りに磨かれた。

「まあまあ、憂鬱そうな顔をされて」

ビアンカは呆れたように言った

「行きたくないわ」

そんなルナの意思は無視され、昼過ぎには軽食をとるとコルセットを締められ、デビュタントを示す白いドレスと白の花冠を身に付けた。髪は巻いて結われる。

「まぁ、とっても可愛らしいですわ。ほらほら鏡をご覧になって」

鏡には憂鬱そうなルナの顔。結われた金髪に花冠、そして白のドレス。艶々にされた白い肌と唇、ブルーグレーの瞳は謎めいて煌めいていた。きらびやかな姉の容姿に比べると優しげな顔だちであった。


ステファニーはアンドリューと王宮に向かった為、ブロンテ伯爵夫妻とルシアンナ、とルナを馬車に乗せて王宮に向かった。


控え室にはデビュタントたち、そこにエスコート役の青年たちが入ってきて、相手をつとめる少女たちにお辞儀をした。


ルナのエスコート役のフェリクスは評判通り素晴らしい美男だった。

輝くような金の髪に青の瞳。貴族的に整った顔は少し尊大な雰囲気を醸し出し明らかな身分の高さを感じさせた。

それでも礼儀をわきまえている彼は、緊張しているルナに微笑みを絶やさなかった。

「レディ ルナ、レディ アデリンを紹介しよう」

同じくデビュタントのアデリンは、楽しそうな笑みを浮かべた少女で、なかなか可愛らしい顔をしていた。

「友人の妹でレディ アデリン・レイノルズ、アデリン、こちらはレディ ルナ・ブロンテだ」

二人はお辞儀をした。

アデリンはつまり、王太子妃クリスタの従妹で、有名人のアボット伯爵の義理の妹で、なおかつレディの鏡として名高いシャーロットの実の妹。という事である。

ルナなど比較にならないほどの注目のレディだ。

「こちらがレディ アナベル・メイスフィールド」

地味な顔だちなアナベルも、王子妃エセルの従妹である。

つまり、二人ともルナよりも大変な立場であった。


ルナは二人に親しみを覚えて、にっこりと微笑んだ。身内が有名人なのは自分だけじゃないのだ、とはじめて気がついたのだ。

二人がどう感じているのかは分からないが、身内を嵩にきるような鼻持ちならないレディでないことは屈託のない笑顔でわかった。

アデリンのエスコートはアルバート・ブルーメンタール 黒い髪に青い瞳の素敵な貴公子で、アナベルにはジョルダン・アシュフォード 銀髪に青い瞳の若い貴公子だった。


フェリクスとアルバートは親しい友人で、ジョルダンは友人の弟ということで、ルナは彼らの親しげな雰囲気にほっとさせられ、緊張もほどけてきた。


会場に拍手で迎えられると、フェリクスはルナを目立つ集団につれていった。

そこには女王然と微笑むフェリクスに似た女性、妹のジョージアナ・ウィンスレットを取り巻く一団だった。

ジョージアナをエスコートするフレデリックは、ジョルダンの兄だという。

フェリクスに紹介されたいずれの貴公子も立派で素敵だった。

「わたくしはお兄様のエスコート卒業するわ。これからはルナをエスコートしてね」

ジョージアナはいたずらっぽくフェリクスに微笑みかけた。

ルナはフェリクスとジョージアナを見た。

「そうだね、私もそろそろ妹のエスコート役は卒業させてもらうとするか」

つまりフェリクスはずっとジョージアナのエスコートをつとめていたのだろう。

ジョージアナはルナの隣に目をやり

「アデリン、アナベルデビューおめでとう」

アデリンとアナベルはお辞儀をすると、いかに感動しているかをジョージアナに語りだした。

ルナもほほえましく聞いていると

「あら、エドワードとそれにシャーロットだわ」

ジョージアナが歩み寄ってくる注目の二人を見ていて、ルナははっと息を飲んだ。

男性は銀髪に青い瞳の美しい貴公子で女性は金の髪に金の瞳の美しい女性だった。月光編み上げたよう男性と星の精のような女性。完璧な一対だ

「義兄のエドワードと姉のシャーロットよ」

アデリンが自慢げにルナに紹介した。ルナは見とれながらお辞儀をした。


「社交界はひさしぶりだから、すっかり田舎者の気持ちよアナ」

笑みをジョージアナに向けてシャーロットは言った。

「お姉様は出産が重なってしばらく社交界から遠ざかっていたのよ」

隣のアデリンが解説をしてくる。

ジョージアナといい、シャーロットといい姉たちと同じくらい、それよりも美しい女性たちははじめてだ。

会場のどこかに姉たちと父たちもいるはずだが、まったく分からない。


人垣が割れて、王族が入場して舞踏会が始まる。遠くにきらびやかな王族が見え、国王の挨拶がされたようだ。


王族が踊り終えると、いよいよフェリクスに伴われルナもダンスを踊りだした。

「緊張しないで」

フェリクスが微笑みかけると、ルナはつられて踊りだした。

「とても上手だよルナ」

誉め上手なフェリクスはお世辞もうまく囁いてくれる。


おそれていたのが嘘のように、社交界は楽しいものだった。何よりフェリクスはとても素敵な貴公子であるし父に感謝の気持ちがふつふつと湧きあがった。

ダンスも楽しいし、貴公子たちとの会話も楽しく姉たちの名前とルナを比較されることもなかった。それはきっとフェリクスをはじめとする貴公子たちが、思いやり溢れる男性だからだろうとルナは感じた。


ステファニーが言った通り、ルナのダンスカードは埋まっていたしフェリクスのエスコートは完璧でルナから目を離さずにマナーを一つずつ教えてくれた。

他にも素敵な貴公子たちはいたけれど、ルナはすっかりフェリクスの虜だった。


こんなに素敵な人はいない!


だけど、高望みだということもルナは勿論冷静な頭の片隅で理解はしていた。

フェリクスが渡してくれたジュースを飲んでいると、次のダンスの相手としてレオノーラがやって来た。

「えっ!お姉様も書いてくれていたの?」

「なぁに?不満なの?ルナ」

くすくすと近衛騎士姿のレオノーラが笑った。

隣にはラファエルもいて、

「お兄様もこれたのね?」

1つ歳上のラファエルは肩をすくめた。

「かわいい妹のデビューじゃないか。一曲踊らずにいられるわけないだろ」

みると、レオノーラの次にはラファエルの名前もあった。


レディたちのレオノーラの人気はすさまじく、レオノーラとルナにはバシバシと視線がぶつかる。

男性たちにひけをとらずレオノーラのエスコートは素晴らしかった。

「ねぇ、お姉様はドレスをきないの?」

「ルナがこうしてデビューしたから私も今度ドレスを着てみようか?」

くすくすとレオノーラは笑った。

「ほんとう?楽しみにしてるわ!きっとおそろしく綺麗なレディでしょうね」

騎士の姿でもこの上なく美しいレオノーラだ。着飾ればものすごい美貌と相まって注目の的だろう。


ラファエルはしばらく見ないうちに背が伸びて青年になりつつあった。まだ少年の線の残った彼は今とてもレオノーラに似ていた。レディたちはそっくりな彼に色めき立った。

きっと来年あたりからはさぞかし女性たちがまとわりつきそうだ。

「お兄様は今日は家に帰るの?」

「うん、今日はね」

ラファエルは今友人たちと過ごす方が好きなのだとルナはよくわかっていた。何せレオノーラはともかくステファニーとルシアンナのやり取りはルナだってうんざりだ。


躍り終えると、年頃の娘をもつ親だろうか、ラファエルにどんどん近寄り話しかける。ルナはそれに苦笑するとフェリクスの元へ戻った。

「ラファエルは囲まれてしまったね」

くすっとフェリクスが笑った。

「そうみたいです」

ルナも笑った。


ダンスカードの次の名前には再びフェリクスの名前が書かれていて、ルナは驚いてフェリクスを見た。

「イアンに代わってもらった」

くすっとフェリクスは笑う。ルナは嬉しくなってぽっと赤くなった。

2度もフェリクスと踊れるなんて!期待してしまうじゃない

ルナは頬を上気させて、フェリクスを見上げた。

しかも、ワルツだ。


グレーのテールコートと、白のドレスが回るたびにフワリと動きに合わせて舞い、ルナはすっかり夢心地だった。

こんなに素敵なデビューをすることが出来るなんて自分はなんて幸せなんだろうとルナはこの瞬間をしっかりと刻み込もうと心に誓った。

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