6 転生
アウセクリスは神の力を狙っていた。
そして神の力を使い、ミィス全土を掌握するつもりだったんだ。
神の力を手に入れたやつは碌なことにはならない。それはおとぎ話でも語られている。
そして神の力を手に入れるために必要な霊力って力を、人の魂で代用しようとした。霊力ってのは魔力ってのが数段濃縮されたものだと思ってくれ。
アウセクリスは争いを生み出したかったんだ。
そして、争いに紛れ、人を殺し、大量の死んだ人間の魂を手に入れやがった。
俺は賢者としてあいつらを止めなきゃならなかった。
だが、やられちまった。さすがに三対一は無理があった。
オシリスってやつの力が本当に同じ幹部のやつらの中でも段違いだった。
そしてやつの『死の宣告』っていう技を受けちまった。
やられて逃げてから、体の中の魔素の動きで分かったことなんだが、俺の中の魔素の量がどんどん減ってってる。
お前ら地球の人間は違うが、この世界の人間には魔法を使う為に必要なエネルギーを体の中に循環させる「魔臓」という臓器がある。魔臓はお前らの地球の人間の心臓と同じ働きをしている。魔素と血液を同時に全身に巡らせているポンプの役割だ。しかもこの魔臓は魔素の力を使って、動かしている。
つまり、魔素が無くなるとこの世界の人間は死ぬってわけだ。
もちろん、俺も例外じゃない。
そして佑真のことだ。佑真は魔素を大量にセトが体の中に入れたことにより体が暴走を初めている。たぶん、体の免疫機能が誤作動を起こし、全身に回っている魔素が侵食した細胞や臓器を破壊している。
今は俺が出来るだけ魔素を抜いて俺の体に入れていることによって、どちらも生きながらえている状況だ。
お前もこの魔素の多い地域にいるとそのうち佑真と同じ状態になる。
それで、だ。瀬奈、お前の体をくれないか。
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は?この人はいきなり何を言って・・・
待って待って。状況整理をしっかりしよう。
まず、ここは異世界。地球じゃない。
そして、ここにいると私もいずれ死ぬ。
このトトって人も死ぬ。佑真も死んじゃう。
それで、私の体が欲しい・・・・・
「いやいやいや、おかしいでしょ!なんでその流れで私の体が必要になるわけ?もっとちゃんと説明してよ!」
いや、ホントに。意味が全く分からない。
「だから、お前の体があれば、全部うまくいくんだ!」
「いや、いきなり助けに来たとか言って何言い出すのかと思えば、私の体が欲しい?何言ってんの!冗談にもほどがあるよ!そんなの信じられるわけないじゃん!」
瀬奈はより一層声を荒げて、トトに突っかかる。
「私の頭の中を見た?ここは異世界だ?魔法が使える?そんなことが信じれるはずないじゃん!私は日本に生まれて、日本で育ってきたの!こんな変なことなんか絶対起きないんだよ!有り得ないんだよ!
夢だと思ったよ!でも走ってると本当に息は上がるし、草の匂いも血の匂いもする、傷は痛い、汗だって掻く、お腹もすく・・・。全部本当のことなの!?これが!?この状況が!?夢なら早く終わってよ!目が覚めてよ!日本に帰りたいよ!大河にも優紀にもお父さんにもお母さんも佑真ももう会えないの!?私の大切な時間も、今まで頑張ってきた努力も、何気ないけど普通で幸せな日常も、もうなくなっちゃたの!?無駄になったの!?戻れないの!?やり残したこといっぱいあるんだよ!こんな世界で死ぬなんて嫌だ!早く夢なら覚めてよ!お願い・・・、お願い・・・だから・・・・もう・・・やだよ・・・死にたく・・・ないよ・・・。」
瀬奈はトトの胸ぐらをつかみながら泣いていた。
トトは何も言わず聞いていた。
トトは静かにしゃべりだした。
「瀬奈、残念だがたぶん、もう地球には戻れない。なにしろ、この世界に来た異世界人というのはお前たちが初めてだ。このミィスの人間は異世界から来たなんて話は受け入れない。手掛かりもない。すまんな・・・お前たちの力になれなくて・・・・
だが、今ここにこうして生きられる条件が整っている。元の世界には戻れないが、死なないようにはできる。それが、いまここでお前にしてやれる俺の精一杯だ。」
トトはそう言って瀬奈に手を差し出した。
「本当に私も佑真も助けてくれるの?」
「あぁ、助けてやる。俺も命は長くない。ここで人のためになって死ねるのなら、こんな嬉しいことは無い。手伝わさせてくれ。」
「私と佑真は死なずに済むの?」
「あぁ、済む。だから安心してくれ。何とかしてやる。だから俺に賭けてはくれないか?」
「ほんとに、ほんと?」
「あぁ。」
「ほんとにほんとにほんと?」
「あぁ。何度でも言ってやる。本当だ。」
「わかった。あなたを信じてみる。」
瀬奈はそう言ってトトの手を取った。
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そのあとトトから説明を受けた。
「ことは一刻を争う。俺もそろっと限界に近い。端的に説明する。これから行うのは、二人にこの世界の赤ん坊になってもらう。つまり、転生してもらうという計画の実行だ。」
「えぇ!ちょっと待って!転生ってどういうこと?」
「転生ってのは脳にある知識はそのままにしつつ、この世界の赤ん坊として生まれるってことだ。」
「その赤ちゃんはどうなるの?」
「そのことについては問題ない。俺が操作して、転生の魔法をかけた瞬間に生まれてくる死産や訳あって死んでしまう子を死なないようにして、お前たちの意識を埋め込む。」
「そう・・・・。わかったわ。続けて。」
「それでだ、俺の残り少ない魔力と俺と佑真、瀬奈の三体の体の臓器や細胞、全てを触媒として魔法をかける。それとこの一帯の魔素もつぎ込んでだ。
ただ、この魔法には制限があってな、命を取り扱う魔法についてはこの世界で禁忌となっている。たぶん神というか、この世界そのものが俺という存在や名前をこの世界の人々から消す。賢者には禁呪を取り扱い、誰にも使用させないように知識や方法を、賢者になったときに神がお与えになるのだが、それを賢者自身が使うことになっちまう。だから俺の一存で関係のあった奴らに迷惑がかかっちまうかもしれない。それでお前に頼みがある。転生したらできるだけで構わない。ルグス大陸の俺の家がある村を頼む。あの村の連中には恩がある。返しきれないほどのな。だから頼んだ。」
「わかったわ。」
あぁ、それで私の体が欲しいとか言ったのか、この人。普通なら到底理解できる話ではないが、この世界ではそうなのだろう。
それからトトは木を切り倒し、更地を作ってから、魔法陣を書き出した。
その中に私と、佑真が入る。
トトは詠唱を始めた。
魔法陣が光り始める。
トトは笑顔で私たちを見送ってくれた。
「達者でな。」
そして意識が暗転する。




