29 没落貴族
それから私はマリア先輩が経営しているパン屋で働くことになった。
日給は銀貨3枚。お給料は相場的に結構高い。それなりにハードワークなんだろうけど、毎日トレーニングを欠かさない私としては楽勝だ。
たまにアイリスも来てくれる。
アイリスの友達のメロちゃんっていう子もよく来てくれる。
私がメロちゃんって呼ぶと、
「ちょっとやめてよ!あんまり馴れ馴れしくしないでくれるかしら。私はアイリスと友達なのであって、あなたは違うんだから。まぁ、でもどうしてもっていうなら呼ぶのを許してあげなくもないわ。」
「メロちゃーん!」
「ちょっとやめなさいよ!離れて~」
というのがいつものお決まりのパターンだ。
結構メロちゃんはツンデレなのかもしれない。
話を聞くとメロちゃんはこの近くに住んでいるそうで、今度アイリスと一緒にお邪魔する約束を取り付けた。
やったね。友達ゲット!
修行の方はというと、この前、トトに質問したら新しい魔法ができちゃった感じである。
「ねぇ、トト。ちょっと気になったんだけど。」
「どーした?」
「この世界って雨が降ったことあったっけ?そーいえば見たことないんだけど。」
「降る地域はあるって感じかな。たぶん知ってるが見たことない、くらいだぞ?この世界の一般人は。水魔法で大体事足りるからな。」
「じゃあ、雷って見たことないの?」
「雷?なんじゃそりゃ?」
「あなた、私の脳を盗み見れるんでしょ?それくらいだったら別に見てもいいわ。他のところ見たらまたあそこに隔離するけど。」
そうなのだ。前から思っていたのだけど、このトトとかいう賢者は子供というか厨二なのだ。何かにつけては私の脳内を盗み見てアハハ、ムフフとやっているものだから、何をしているのかを探ってみれば・・・
そういうことが多々あったので、何か対応策を、と思って試行錯誤してみたところ、私が意識すれば、トトの意識を脳の片隅に追いやって思考を分離できることが分かった。
それをしてみたところ、そこには私の負の感情が渦巻いていたらしく、解除した後、
「もう・・・やめてくれ・・・」
と、トラウマになったらしい。いい罰を見つけちゃった。
「いや、それだけは!もう絶対しねぇって言ってんだろ!やめてくれ!頼む!」
「あなたが別に見なければいいだけのことよ?それともそうする自信がないとか?」
「もちろん自信しかないぜ。雷だな、わかった。」
これも後で分かったことなのだが、私が考えていることはトトも意識を強制的に共有せざるを得ないし、トトが探したり見たりしている私の脳内の情報も私は見ようと意識すれば見ることができる。
不正は許されないのだ。
「こりゃあ、すげえな。こんなもんが地球にはあるのか。」
「そうなの。原理はわかる?」
「ああ、大体は理解できる。」
「これを魔法に応用できたりするかしら?」
「そりゃいいな。ちょっと待ってろ。・・・できるな。水魔法、風魔法、光魔法の応用だな。なんとかなりそうだ。」
それから私たちは体の周りに雷を纏う纏雷という魔法を身につけたのだが、ここであの厨二賢者がサンダーガーメントといういったいどこでそんな英単語覚えたんだよという名前が命名された。
名前をつければイメージが簡単になるので、発動も楽チンだ。
さらに、纏雷から派生させて放電させるといった魔法も思いついた。私は放電でいいんじゃないかなと思ったんだけど、威力を3段階にわけてマックスボルテージ、ハイボルテージ、プチボルテージという名前にされてしまった。まあ、口に出すわけじゃないからいいんだけどね。
それと、光魔法の適性も持っている私は、選ばれた銃と剣の精製を行っている。十聖器レベルの武器を具現化させるとなると相当の集中力が要求されるので、やらないけれど簡単な銃と剣ならいくらでも作れる。
属性操作も最近ではお手の物なってきた。同時発射も難なくできる。それと、もう名前を考えるのがめんどくさくなった私はトトに技名を一任している。
もうどうにでもなれだ。
________________________
最近嫌がらせが激しくなってきた。この前までは石を投げられる(まあ、これだけでも相当なものだけれど。)ことが多く、まあ、それくらいだったら別に痛くもかゆくもなかったのでいいのだけれど、私に愛想をつかしたのか、アイリスやメロちゃんにまで被害が及んでいるという情報を耳にした時は無意識にサンダーガーメントを発動していたらしく、まさにスーパー○○○人2的な感じになっていたらしい。
ということで、私はその悪の組織を壊滅すべく、アイリスと作戦を立てた。アイリスが嫌がらせを受けるのは決まった場所、寮への帰り道らしく、そこで私が待ち伏せしていることになった。
特待生の授業は一般生より早く終わる。私は寮の入り口前の木の後ろに隠れた。
さぁ、来るなら来い!!
少し待っていると誰かが来た!
誰かな?
木の陰から少し身を乗り出して顔を確認する。
その正体はダルタだった。
犯人はこいつか!!
一般生の寮と特棟は入り口が違うのだ。こいつがここに来ることはおかしい。
「ダルタ君だよね?どうしたの?」
あえて私は平然と声をかけた。
するとダルタ君は一瞬驚いた顔をして、憎々しげな顔をした後、笑顔になった。
いや、感情隠しきれてませんからね?
「君はシャルル君だったかな?そちらこそどうしたんだい?こんな薄汚い一般寮に来るなんて。」
私はちょっとイラッとしつつも、あくまで平然と受け答えをする。
「私はアイリスを待っているのよ。この後でかけようって約束してるからね。」
「はっ。没落貴族風情が。やはり没落貴族には一般寮がお似合いなんじゃないか?特棟なんてお前のような奴には一部屋ももったいないしなぁ。せいぜい庶民と遊んでればいいじゃないか。そうそう、シャルル君のところの領地は焼け野原らしいね。領地を守れないなんてとんだ領主だ。しかも、領地の運営は子供ではなくお付きの騎士に丸投げときた。こりゃあ笑えるな。ハハハハハハッ。」
いきなり、化けの皮が剥がれたなと思ったのも束の間、私の怒りは沸点を超えた。
「ふーん。下手に出てれば随分といい気になるもんね。ただの貴族は。私のことならまだいいけど、父様、母様を侮辱するとかあり得ない!私じゃ面白味がないから友達に対象を切り替えて嫌がらせ。それがあなたのやり方なのね。卑劣にも程があるわ。力の差をわからせてあげる!」
「ただの貴族だと!?名家である我が一族を侮辱するか!まぁいい。俺に嫌がらせの犯人だという汚名を着せたのだ。負けたらそれ相応の罰を受けてもらうからな!」
「は?私が負けるですって?あり得ないわ。どこの負け犬の口がそんな戯言をほざこうが一瞬で塵にしてあげる。」
「貴様~言わせておけば!うらぁぁぁーーーー!」
ダルタは腰の剣を抜いて、私に向かってきた。
こんな軽い剣。レオンのほうがもっと重かった!!
私も応戦しようと剣を具現化させ、剣と剣が触れ合うわずか数ミリのところに何者かが割って入り、両者の剣を素手で止めた。
「ここはそんなことをする場所では、ない!!」
ベルク・バーティミアスだった。




