1 ある日、森の中
起きたら森の中だった。
いくら気を失ったとはいえ、こんなことがあるのだろうか・・・
体に力が入らない。立とうと足に力を籠めようとしても、何も反応しない。まるで自分の足ではないみたいだ。
重い瞼を開けると、そこは森だった。太陽の光が差し込まないほどの、深く木々が茂った森。あたりは暗く、朝なのか夜なのかさえもわからない。ふと瀬奈は自分の手が何かを握っていることに気付く。
「な・・・に・・・・」
声を出すだけでも苦労する。のどが枯れている。
途端に空腹感さえも襲ってくる。
そして重い首を動かすと、手にはコンビニの袋があり、中にはさっき買ったばかりの大河と優紀にあげるはずだった惣菜と、よく飲む2Lのオレンジジュースがあった。
体をやっとの思いで起こし、もう片方の手を伸ばし、空腹とのどの渇きに終止符を打つため、オレンジジュースを手に取る。キャップを開けるのも一苦労だ。その半分ほどを一気に飲み干し、意識が戻ってきて目に入ってくる情報を理解する。
「ここ・・・どこだろう・・」
改めて見回してもさっきまでいたはずの佑真と武田先輩が見当たらない。私と同じようなことになっているのではないだろうかと、心配になり、辺りを探索してみることにした。
とはいっても、うっそうとした森の中である。迂闊に行動できない。
近くにある茂みにに近寄ってみる。
茂みに隠れる形で佑真が仰向けになっていた。
「佑真! 起きて佑真! ねえ、起きてよっ!」
「んん・・・瀬奈・・か・・・」
「ちょっと待って!はい!オレンジジュース!」
佑真も私と同じ状態になっているだろうと、気を効かせてオレンジジュースを渡す。
キャップを開けて渡しておいて、今更、自分が既に半分ほど飲んでいることに気付き、顔が熱くなる。佑真はオレンジジュースを全部飲み干してしまった。
「ぷはーーーーーー!助かった!ありがとう、瀬奈! ん?お前なんだか顔赤いよ?」
「なんでもない!」
「それくらい元気なら大丈夫か。。 とはいえ、ここはどこだ・・・」
「そう、それ! ほんと、ここどこなの?」
「俺もわからない。んんーー・・・富士の樹海かどこかか?」
確かに樹海といえばこれくらい木々が茂っていてもおかしくはない。瀬奈は佑真が結構まともな考えをしているに少し驚きつつ、ここは判断を任せた。
「ここが樹海だとしたら、携帯は使えない。助けは呼べない、来れないと思ったほうがいいな。とりあえずここを抜けるにしても、食料と水だ。何日かかるかわからないしな。」
瀬奈は力強く頷くと、歩き出した佑真の後についていく。
何時間歩いただろうか、一向に川も登山道も見つからない。
山の天候は変わりやすいと聞いたことがある。
11月なのに樹海の中は寒くない。
とにかく疲れた。疲労が溜まっている感覚。
その場にへたり込むようにして座った。
「大丈夫か?瀬奈。 こんなに樹海が厄介な場所だとは思わなかったな。どんなラノベとかゲームの森でも都合よく川とか洞窟とか見つかったりするのに、こんだけ歩いて景色が変わらないとなると、考えを改めないとな・・・」
任せた私がバカだった・・・。なんでラノベとかゲームとかにたとえるかなぁ。
ここはゲームの中でも、本の中でもないのに、そんなご都合主義の展開が誰の前にでもあるのだとしたら、どれだけ人生が楽なことか。
佑真に一言苦言を呈しようと思ったその時、近くの茂みが動いた。
一瞬のうちに二人は臨戦態勢(武器も何も持っていないのだが)になった。緊張が走る。茂みからだんだん姿があらわになっていく。
モンスターが現れた。
「えっ・・・何・・・・・」
ユニコーンのような一角獣の馬みたいな動物?だった。目と耳がない。嗅覚で獲物を探しているのだろうか。
それらを一瞬で理解したのだろう。佑真は下手に動くなと指示してきた。だんだんモンスターとの距離が無くなってきた。
その時、佑真が動いた。瀬奈の手を引き全速力で逃げる。
野生の動物を見かけたとき、大声を出したり下手に動いたりすることは、動物を刺激するため、やってはいけないこととして知られているものの、いざ遭ったとき、人間はやってはいけないことをしてしまうものである。
その時の逃げる行動はまさにそれだった。
気配を悟った動物?が凄い速度で追いかけてくる。
森の中ということもあり、地面はぼこぼこで、獣道でもない草の生い茂る森をを全力で走る。だが、やはりというべきか、距離があるものの動物?のほうが速い。
「ねえ!このままだと追いつかれるよ!」
「わかってる!わかってるけど!もうこうなった以上、何が何でも走るしかないだろ!」
二人とも中学までは運動部に所属していたものの、決して足が速いわけでもなく、中の中という感じだった。そんな自分と佑真を知っていたからこそ、追いつかれるのも時間の問題か・・・・そう瀬奈は思えた。
そんな走馬灯のように思い出が浮かんでくる瀬奈に横槍が入った。佑真が急ブレーキし、瀬奈を抱えて横に飛んだ。そこは崖だった。
崖の直前でブレーキをした後、すぐに動物みたいな獣に追いつかれた。
いや、追い抜かれた。
獣は急には止まれなかった。
佑真でさえ、ギリギリのところで止まれたのに、それ以上のスピードを出しているモンスターは止まれるはずもなかった。
獣は崖の下に落ちていった。
気づくと佑真の顔が目の前にあった。
「大丈夫か?」
本当によく全力疾走している中で考えられたものだ。
というか近い。顔が近い。
こんな近距離で佑真の顔を見たことは今までなかった。
全力疾走したせいもあるだろうが、心臓の鼓動が速い。
「うん、大丈夫・・・」
「そっか、よかったよかった。」
佑真はなんとも思っていないのだろうか。私だけなんだろうか。いやいや、何を考えているのだろうか、私は!
こんな切羽詰まっている状況でこんなことを考えている余裕はないのに!そう思うと落ち着いてきた。
瀬奈は立ち上がる。
「佑真はすごいね!よくあんな状況で一瞬の判断ができたね!」
「いやー中学サッカー部だったのがここで生きたな!マジで死ぬかと思ったわ。」
「ほんとほんと!よくやった!あんたは偉い!」
瀬奈は佑真の背中をバシバシはたきながら言った。
「で、これからどうする?」
状況は何も変わらないのだった。




