17 胸の声
胸から声が聞こえた。
その瞬間、自分でも訳の分からないことが起こった。
オーブ男が振りかぶっている大鎌のスピードがすごく遅くなったように感じた。さらに、さっきまでとてつもなくだるかったが、急に力が沸いてきた。
これなら・・・いける!!
まずは迫ってくる大鎌をよける。
持っている剣でまだ大鎌を振り切っていないオーブ男の体を刺す。
鎌を振り切ったオーブ男は剣が自分の体に刺さっているのを見た。
「見事・・・・」
霧が唐突に晴れた。
アイリスは何が起きたのかわからなかった。
満身創痍だったルルが自分を守るために前に出ていくのを止めようとしたのに、ルルが一瞬のうちにオーブ男を倒して見せたのだ。
「ルル!大丈夫?」
「うん・・・もう大丈夫・・・なんだろう?声が聞こえたと思ったら急に力が・・・、いやそれよりも、レオンが!」
シャルル、アイリスはレオンに駆け寄る。
「レオンしっかり!レオン!」
「レオン!」
シャルルは胸に耳をあてる。
心臓がまだ弱く鼓動を打っているのが聞こえた。
「大丈夫!まだレオンは生きてる!」
「でも、出血がすごい。このままじゃ・・・」
シャルルは考える。
このまま出血させていたら間違いなく死んでしまう。
だからといって、これだけ入り口を探しても見つからなかったのだ。霧が晴れたとはいえ、この森から出られるわけではない。
どうすれば・・・
『瀬奈、そいつに手をかざしてみな。』
また胸の中から声が聞こえた。
不思議とその声を疑おうとは思わなかった。
手をレオンにかざす。
すると体の魔素が手のひらに勝手に集まっていく。
なにか、光のようなものがレオンに降り注いだ。
すると、みるみる足が治って元通りになった。
自分でやっていて驚く。
「えっ!?えっ!?」
「えっ!?ルル・・・それって治癒魔法じゃ・・・」
治癒魔法。それは魔術師の中で極端に扱う者が少ない魔法である。治癒魔法使いというだけで優遇され、ギルドから報奨金が出たりするらしい。もっとも自分の体内の魔素量に治癒量は比例するのだが。
ともあれ、治癒魔法を使えるようになったシャルルは驚いていた。
足が元通りになったレオンはまだ意識を失っているようだ。
「ねぇ、アイリス。さっき私が治癒魔法をかける前声が聞こえなかった?」
「声?ルルは何言ってるの?ここには私たち三人しかいないじゃない。」
どうやら声は私にしか聞こえてないらしい。
『ここだ、ここ。』
その声は胸から聞こえている。
その声の方向にはアイリスのくれた大きな宝石があった。
シャルルはある可能性を思いつく。
『あなたは、トトなの?』
疑問を投げかけた。
私の本名を知っていて、あの言葉遣い。
トトしかいない!
『んん~正確に言えばちげぇかな。俺はトトが残した残留思念ってとこだろう。』
違った・・・
『トトは神との誓いを裏切り、転生という禁忌の魔法を使った。あの時点ですでに処罰されている。だがトトは転生する直前、瀬奈、お前に力と知識をすべて与えた。』
そっか。トトはもう・・・
「ルル?どうしたの?」
「ごめんね、アイリス。ちょっと私を一人にしてもらえる?レオンの様子を見ていて。危険があったらすぐ呼んで。そんな遠くには行かないから。」
「えっ!?う・・うん。わかった。」
シャルルは少し離れ、会話を続ける。
『じゃああなたはトトじゃないのね?』
『あぁ。正確には違うな。俺は精神体だ。トトの考え方を持っている別のものだな。でも俺のことはトトで構わないぞ。』
『そっか。あと私のことはシャルルって呼んで。この世界の呼び名なの。』
『わかった。』
『それと、あなたはどうしてあのタイミングで私に話しかかられたの?』
シャルルはそれが一番疑問に思っていた。
なぜ、あんな図ったようなタイミングで現れることが出来たのか。
『あぁ、そりゃもう、やっぱヒーローってのは一番のピンチに出てくるもんだろ!まぁとっくのとうに書き込みは終わってたんだけどな。』
は?ヒーロー?
何を言ってるんだ?この男は。
いやでも考えてみるとあの森の時も私が大声を上げる切羽詰まった状態だから来たのか・・・やっぱりこの思考回路はトト特有の・・・
『ちょっと待って。書き込みって何?』
『書き込みってのは俺が出てこれるように魔石を書き換えるってことさ。ほらシャルル、お前の胸の中に大きな魔石があるじゃねぇか。』
この宝石は魔石?
『よく、この俺が入れる純度の高い魔石を見つけたもんだ。俺はそれなりに高位の妖精族だったから魔石も純度が高くないといけないんだぜ。このくらい純度の高い魔石じゃなきゃ、俺は住めなかった。粗い魔石だったら出てくることはなかったかもしれないな。』
『えっ!?トトって妖精族だったの!?』
『あれ、言ってなかったか?あ~あの時はハーフとしか言ってなかったような・・・』
『そうだよ!そーいえばさっき、トトの力が私に与えられたとかなんとか言ってなかった?』
『あぁ、言ったぞ。トトの力はすべてシャルルの魔素量にプラスしてある。あと熟練度やユニークスキルも引き継いでいる。あと、魔石でトトの精神体である、この妖精族の俺、まぁほぼトトそのものなんだが・・・を従えているんだ。俺の全盛期より力は上だな。』
『何それ!?私みたいなのがそんなすごい力持ってて大丈夫なの?』
『あぁ、そのことなんだが制限がある。まず第一にこの魔石が体から離れると、トトから引き継いだ力は使えない。二つ目に、妖精族を従えたことによって大気から魔素を収集できるようになる。だが、すでにシャルル自身の魔素量に俺の魔素量が追加されてるんだ。あまり大気から魔素を取り込むことは無いだろうが、あまりに大気から取り込みすぎるとこの世界のバランスを崩しかねない。大規模な地殻変動や異常気象に見舞われる可能性がある。できるだけ大気から魔素は取り込まないように。三つ目に速くこの膨大な力を制限することを習得しろ。この膨大な力を脇目もふらさずにバンバンぶっ放してれば、そのうち魔素は尽きる。効率よく魔素を使える方法を習得するんだ。以上!』
なんかすごいものをもらってしまったらしい。
別に力はあって悪いものじゃないし、いざという時必要だから、いらない訳ではないけど・・・なんかものすごい力をいいタイミングで引き継いでしまったものだ。
『わかったわ。その3つについては守る。それでトトから引き継いだ力っていうのは具体的にはどのようなものなの?』
それは私の想像をはるかに超えたものだった。




