11 レオンの思い
レオンは朝早くに起き、薪を拾いに近くの森に一人で出かける。
家族は昨年流行った疫病に悩まされ、自分を残して死んでいった。
妹も父も母も、食べ物もなく、薬を買うこともできず、苦しみながら死んでいった。
市場に薬を買いに出かけても誰も譲ってくれる者はいない。
お金のある貴族はそんな自分の前で薬屋からすべて買い取っていった。
それからレオンは貴族を憎むようになっていった。
前に、家に貴族が来た時があったが追い払ってやった。
その後、一人になった。
世話焼きのばあさんがたまに様子を見に来るぐらいで来客はほとんどない。
ばあさんは自分が始めた孤児院に誘ってきたが、断った。
見に来る度に連れて来た、アイリスとかいう俺と同い年の女がやたらと気にかけてきたが、すぐ追っ払った。
昨日は食料が底をついたので、果物屋の目を盗んでかっぱらおうとしたのだが、つい欲が出て、もう一個と思って手を伸ばしたら、見られてしまった。
そして後々、貴族の娘を助けることになっちまった。
そのお礼に果物をいっぱいもらったものの、貴族からもらったものだし、食いたくなかったが、背に腹は代えられず、昨日一個食べた。
くそっ、考えるだけで胸糞悪い。
今来ている森は子供は絶対に入ってはいけないといわれる、別名「帰らずの森」とか言われている場所だが、俺は実際に何度も薪を拾いに行ってるし、帰ってこれてる。何が帰らずの森だ。全然帰ってこれるし。
今日も俺は薪を拾って家に帰ってきた。
そしたら、家の前に女が立っていた。
昨日助けた貴族の娘だった。
いや、もう一人いた。でっかい大柄な男だ。
何だ?家に昨日の果物の代金でも取り立てに来たのか?絶対に金はやらないけどな。
後ろから忍び寄って驚かせてやる。
気配を消して、後ろから忍び寄る。
すると大柄な男が後ろを振り向いた。
「おぉ、いたぞ。シャルル。」
「レオン、やっと見つけたわ。家にいなかったから村のおばあさんに聞いて探したのよ。」
いやいや、この大柄の男何者だ。昨日の騎士ではないし、つ、強そうだし。
ていうかまだ結構な距離があるぞ。なんで、気づかれたんだ?
俺は完全に気配を消していたはずなのに・・・
考えていると貴族の娘はこっちにツカツカ歩いてきた。
「レオンは何をしてたの?」
「なんでもいいだろっ!こっち来るな!」
「ねぇレオン、あなたの事情は、村の孤児院をやっているおばあさんから聞いたわ。どう?家に来ない?」
「へッ、絶対に行かねぇよ。貴族の家なんかごめんだね。俺は一人で生きていくんだ。もう誰の力も借りねぇ。俺は俺の道を歩く!」
「そう・・・じゃあ勝負しましょう?」
「あぁ?何言ってやがんだ。お前が俺に勝てるわけねぇだろ。」
「あら、そうかしら。私、これでも強いのよ。」
「女の力なんて高が知れてらぁ。やめとけ。」
「私が勝ったらあなたは私の家に来てもらって養子として迎え入れるわ。人は一人では生きていけないわ。助け合わなきゃダメなの。」
「家族がいる恵まれてる奴が何言ってやがる!俺は、家族を助けたくても助けられずに・・・とにかくお前の考えが気に入らねぇ。その勝負受けてやるよ。お前を叩き潰してやる。」
「乗ったわね。では父様。審判をお願いします。」
「うむ。分かった。危険を感じたらすぐ止めるからな。全く、ナノアは何を考えているんだ・・・」
さっきの発言には本当にイラッと来た。
何が人は助け合わなきゃ生きていけないだ。幸せな野郎が振りかざす暴論だ。
不幸な人の気も知らないで平気でそういうこと言う奴はただの偽善者だ。
ぶっ飛ばしてやる。
その女は木剣を渡してきた。それを手に取り、間合いを取る。
俺は森で鍛えてきた。あの森はたまに魔獣が現れる。初めての時は驚いて逃げたが、今では楽勝だ。
一発で弱点を突き、ぶっ倒す。
こんな女に負けるわけがねぇ。
「準備はいいか?いくぞ・・・・はじめ!」
その瞬間、俺は一気に間合いを詰め、上に振りかぶった。
魔物と同じだ。一発で弱点を突く。
一発で勝負を決めてやる。
その女は木剣の刃先を片手で持ち、もう片方の手で柄を持って上からの攻撃に対処しようとした。
その瞬間俺は笑った。こいつはど素人だ。
上に振りかぶったから上から攻撃が来るとか思い込みやがって。
胴ががら空きだぜ。
これで終わりだ。
レオンは素早く上に振りかぶった木剣を横に倒し、水平切りの構えに入った。
だが、レオンにとって予想外のことが起きた。
木剣を両手で支え上段からの攻撃に備えていたはずのシャルルが消えたのだ。
シャルルは一瞬のうちに匍匐前進の体制になり、来るだろうと予期していた水平切りを躱す。寝そべった状態から、手を使い体を持ち上げ、足だけ回転させて、レオンの足を薙ぎ、レオンが転んだところでシャルルは素早く立ち上がり首に木剣をあてる。
「勝者、シャルル。」
レオンは信じられないような顔をしていた。
「あなたは油断したわ。上段切りからの攻撃に両手を使って対処するなんて素人に違いない。とか思ったでしょ。大間違いね。あなたは自分の剣技に絶対の自信を持っていた。女になんか負けるはずないって。それが油断よ。いつ殺し屋や盗賊に命を狙われるかわからないのよ。一人で生きるなんてまず無理ね。約束通り、私の家に来なさい。」
「わかったよ・・・」
レオンは落ち込んでいた。
確かに、女の言うとおりだ。油断していた。完全に。これでは絶対に一人では生きていけない。まさか、貴族の女に負けるとは・・・
屈辱的だった。やっぱり俺では偽善者にさえ勝てないのだ。
調子に乗っていた。
どうせ、養子にするとか言いながら、奴隷のような扱いを受けるのだろう。
考えていると、その貴族の家にたどり着いた。
立派な屋敷だった。
メイドもいれば、料理人もいる。
なんて恵まれた環境なのだ。
そして、俺は応接室なる部屋に招かれた。
座ったことのないような、ふかふかな椅子。
座り心地はすごくいい。
レオンが椅子に興奮していると、シャルル、ベルタ、ナノア、アルバートが入ってきた。
シャルルは椅子に座ると、切り出してきた。
「ねぇレオン。あなた一人で生きていくなんてことを言ったらダメ。あなたのような子供を一人でも無くすために母様と父様は働いているの。あなたはこれから養子になるんだから何でも言ってちょうだい。それと・・・私から質問させてもらうわ。あなたはどうして貴族が嫌いなの?」
「・・・・・・・・俺は・・」
レオンは自分の今までの話をした。
「昨年の疫病?薬はすべての村人に配布したはずだが?」
「えっ、どういうことなんだよ!俺の家はもらってねぇぞ!貴族が買い占めたせいで俺達には薬が回ってこなかったんだ。それで父ちゃんも母ちゃんも・・・」
「確かに薬を買い占めたのは私だが、あれは薬を売っていた行商人が、この村が疫病で困っているという情報を聞きつけ、その弱みに付け込んで、暴利な値段をふっかけたんだ。私はその苦情を聞きつけ、全てを買い取った後、村の広場で無料配布した。そのあと、重病で取りに来られない家の一軒一軒を回ったんだ。それで君の家も回ったはずだが?」
アルバートは説明した。
レオンは状況を理解した。貴族は俺の家に薬を配布しようとしたんだ。それを俺は勘違いして追っ払っちまった。家族を殺したのは貴族じゃなくて俺なんじゃねぇか。父ちゃんも母ちゃんも妹も俺のせいで・・・
レオンは事情を説明した。
「それは私も悪かった。すぐ近くに薬を買いに来た人は何人かいたし、その場で買った薬を配ればよかったな。お前に誤解を与えてしまった。すまない。」
アルバートは頭を下げた。
「いや、俺のせいだ。それを貴族に八つ当たりしてたんだ。その八つ当たりのせいで家族を死なせてしまった。悪いのは俺なんだ。頭を下げるのはやめてくれ。」
「あぁ、もう。あなたは何をしているの。これから家族になろうとしてる子に頭を下げさせて、変な空気にして。レオン、あなたは間違ってないわ。これから私たちはあなたの家族になるわ。気になることがあったら何でも言ってね?ベルタもシャルルもあなたの力になるわ。一緒に頑張っていきましょう。」
「はい・・・・・ありがとうございます・・・・お母様。」
レオンは泣いていた。
シャルルを残し、他の家族は部屋を出た。
「なぁ、悪かったな。八つ当たりして・・・」
「そんなことはもういいのよ。あなたは私の家族になったんだから。家族の責任は家族全員で負うものよ。だからあなたの家族を死なせたことは家族みんなの責任なの。もう気にしないでいいわ。」
「それで、よう、お前のことは何て呼べばいいんだ?」
シャルルは少し考えると、
「そうね、シャルルでいいわ。これからよろしく、レオン。」
レオンはその日初めて、本当の笑顔をシャルルに向けた。




