記憶のない世界
あの日私は何も無い世界に放り込まれた。何も無い記憶もない世界に。自分の名前さえも覚えていなかった、頼りようのない世界だった。
※ ※ ※
あの日私は、親友の男の子と一緒に公園に来ていたはずだった。そこで私達は公園の隅に忘れ去られたようにあるベンチの下に白い花を見つけた。『綺麗な花だね。』そう彼と話していた。『母さんに摘んで帰ろ。』親友は言うが早いか花に手を伸ばした、その時だった。花から強い匂いが溢れ出し、私達を包んだ。『何だ…この匂い…?』二人で咳き込む。決していい香りではない。むしろ息が詰まるような、ツンとした少しスパイシーな匂いも混じっている。とにかく濃い。『すぐここから離れよう。なんだか意識が朦朧としてきた。』私は彼の腕を引っ張った。でも彼は動かない。『…?どうしたの?』『なんか分かんねえけど、ここを離れたくねえ。』彼が囁くように言った。でもいつもの喋り方と違う…?『どうしたの?何かわからないけど、変だよ。』『俺は正気だし、何も変わってねえ。』やっぱりおかしい。彼はいつも…彼は…あれ?『思い出せない…!?』そう思った時にはもう手遅れだった。私はまるでブラックホールに呑み込まれるように暗く、深い穴に落ちていった。最後に聞こえた声、それは『フレイア』
※ ※ ※
そして今は訳がわからないままただ広い大地の上に立っている。親友の名前も、自分の名前も思い出せない。もちろんここが何処かもわからない。ただボーっと突っ立っていると、不意に後ろから衝撃を受けた。
このお話はなんだか少し怖い要素があります。もしかしたらそういう印象をうけたかもしれません。でもこれからは所々、面白いエピソードや恋心、また感動するエピソードも入れたいので、少々お付き合いをお願いします。