僕はあなただ。
初短編作品です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あなたが見るものを僕も見る。
あなたが聞くものを僕も聞く。
あなたが触れるものを僕も触れる。
あなたが匂いを嗅ぐものを僕も嗅ぐ。
あなたは僕だ。僕はあなただ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あなたに初めて会ったのはいつだっただろうか。
あなたが生まれたときにはあなたのそばにいた。
僕はいつだってあなたのことを見ていた。
けれどあなたは僕のことを見なくなったね。
初めはあんなに僕と遊んでくれたのに。
あんなに見ていたのに、あんなに側にいたのに。
あなたがいる場所には僕がいる。
あなたが行く所に僕も行き、あなたが帰る所に僕も帰る。
あなたが起きるときに僕も起き、あなたが眠るときに僕も眠る。
あなたと僕はともに過ごしている。
ほら、こうしてる今だって僕はあなたをこんなに近くから見つめている。
あなたが喜んだ時。
あなたが怒った時。
あなたが哀しんだ時。
あなたが楽しんだ時。
あなたの喜怒哀楽全て僕も感じている。
だって僕はあなたと心が通じてるのだから。
僕はあなたのことなら何だって知っている。
初めてあなたが手をつないだ時を、キスをした時を、体を交わらせた時を。
けれどあなたは知らないんだ。
僕が知っていることを。僕が見ていたことを。
あなたは僕に隠し事はできない。
いつかあなたは誰かと結婚し子供を授かった。
その子はあなたにそっくりだ。
僕に気づくとその小さな足で僕を踏みにくる。
あなたも小さい頃よく僕にそうしたよね。懐かしいよ。
あなたの家族は幸せそうであった。それを見る僕も幸せだった。
同じ気持ちでいるのだから、僕もあなたの‘家族’なんだよね。
これが家族というものか。何だかむず痒いよ。
けれど、あなたの幸せな生活は長くは続かなかった。
あなたの夫は昼も家にいるようになった。
そして酒を飲んではあなたを殴るようになった。
ある日、あなたは子供を連れて朝早く東へ去った。
僕はあなたについていった。あなたの後ろに隠れて。
それからあなたは年をとった。
あなたの腰が曲がったから、僕のこしも曲がった。
あなたが杖をついたから、僕も杖をついた。
あなたの背が縮んだから、僕の背も縮んだ。
僕はいつだってあなたと一緒だ。
あなたが死ぬ時になってあなたは僕の存在に気がついた。。
「あなたはいつだって私の側にいてくれたんだね。いつもあなたを振り回してしまった私をあなたは憎んでるかしら。ねぇ、私の“影法師さん”?」
僕は声が出なかった。
あなたはどうして今になって……。
声が出せないことをこんなに呪ったのは初めてだった。
僕はあなたの影だ。いつだって側にいて、いつだってあなたを見守っている。
でも、今だけは後ろを向いてもいいだろうか。この涙は別れにふさわしくなさそうだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あなたが見るものを僕も見る。
あなたが聞くものを僕も聞く。
あなたが触れるものを僕も触れる。
あなたが匂いを嗅ぐものを僕も嗅ぐ。
あなたは僕だ。僕はあなただ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
評価・感想お待ちしております。
2014/12/23 全体的に加筆修正