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EP4:調査

 翌日、真玄と太地、そして麻衣と沙羅は病院へ向かうことになった。一応麻衣が体調不良で診察を受けるという体で向かったが、そこまでする必要があるのかは分からない。意味は無いかもしれないが、そういう設定は作っておいた。

 ちょうどファミレスの前からバスが出ていたので、病院へはバスで向かう。呼び出した時に来てくれるバスはまるでタクシーのように使い勝手がよいが、今の世界で実用性があるかと言われると怪しい。

 バスに揺られること十数分、病院の入口に到着した。一応麻衣は気分が悪いようにふるまったが、不自然すぎてあまり意味が無いように思える。

 病院では、入口のタッチパネルで保険証を提示し、来院の理由やいくつかの質問事項を記入し、最後に体温を測って待合室で待つ、という流れになっている。しばらくすると番号で呼び出され、診察室で診察を行う。

 付添人は待合室で待っているのが基本だが、一階には喫茶店や購買もあり、自由に移動することができる。別の階に行っても特に問題はない。

 麻衣が診察を受ける間、真玄たちは病院を調べることにした。

 まずはエレベーターで六階に向かう。六階はほとんどが個室の病室だ。


「うーん、病室も全部空室だし、他に目だった部屋も無いなぁ」


「病院、そんなもの。建物のほとんどが、病室」


 病室以外にあるものと言えば、リネン室に自動販売機コーナー、それとテーブルと椅子がある、みんなが集まって談笑する空間くらいだ。


「一応中に入ってみたけど……特に手がかりになりそうなものは無いね」


「そもそも病室に勝手に入るのはどうかと思うんだけど……」


 誰もいないのが分かっているとはいえ、見た目は普通の病室と同じ。許可を取らず入るのは、少々心苦しい。

 すべての病室を回ったが、手がかりになりそうなものは見つからなかった。


「この階には何もないみたいだし、次に行こうか」


 他に部屋が無いことを確認すると、真玄たちは階段を降りた。


 五階、四階、三階と調べてみたが、やはり他の病室にも手がかりは無い。関係者以外立入禁止の部屋には鍵が掛かっていて入れず、まともに調べることが出来たのは病室くらいだ。


「やっぱり、そう簡単には見つからないね」


「一応本命だし、もし何かあっても簡単には見つからないだろうな」


 三階の部屋を調べ終わり、二階へ降りるために階段に向かっている時だった。階段の下から、足音が聞こえてくる。階段に着くと、診察を終えた麻衣が昇ってくるところだった。


「あ、いた。もう、待ちくたびれたから探してたんだよ」


「麻衣、思ったより早かったな」


「だってタッチパネルで問診やって、CTスキャナ? みたいな機械に入って終わりだったんだもん。で、結局『異常なし 栄養不足の可能性あり』だって」


「偏った食事してるからだろ?」


「そんなことないもん」


 少し不機嫌な麻衣を見て、太地は「まあ、何も無くてよかった」と肩を叩く。それに反応して、麻衣は「勝手に触らんで!」と太地の腹に肘鉄を食らわせた。


「……麻衣ちゃん、僕が入院する羽目になっちゃうよ……」


「勝手に触ってくるからでしょ? まったく、タイチはスケベなんだから」


 太地と麻衣の痴話げんかをよそに、真玄は「置いて行くぞ」と階段を降りる。それに気付いた太地は「ちょっとまってよ」と後を追いかけた。


 二階も三階までとほとんど変わらない。しかし、関係者の部屋が多くなり、病室は少なく感じる。

 相変わらず病室はすべて空室で、鍵が掛かっている部屋が多い。


「やっぱり駄目か。最後に一階を調べて……」


 真玄が階段を降りようとすると、別の部屋を探していた沙羅が真玄のシャツの袖を引っ張る。


「真玄、あっちの部屋、開いてる」


 沙羅の後をついていくと、奥の方にいくつか部屋があった。職員用の部屋がほとんどで鍵が閉まっている部屋が多かったが、一か所だけ鍵が掛かっていない部屋があった。


「……資料室? なんでここだけ鍵が掛かってないんだろう?」


「分からない。でも、資料室なら、何か手がかり、見つかるかも」


 早速真玄は、太地と沙羅を呼んで中を調べることにした。 

 ゆっくりと扉を開くと、薄暗い部屋にいくつもの本棚のような物が見える。今にも何か出てきそうな雰囲気を漂わせているが、電気をつけるとまるで一転して綺麗に並べられた棚が、どうにも無機質に感じる。

 ほとんどが過去の患者のカルテで、他には医療関係の本がずらりと並んでいる。


「カルテって、資料室にあるもんなの?」


「さぁ……分からないけど、病院によるんじゃないかな?」


 いくつか手に取ってみたものの、参考にはならなさそうだ。書籍にしても、真玄たちの分からない分野の物や外国語のものばかりで、手に取る気すら起きない。


「真玄、こっち」


 奥の方から、沙羅の声が聞こえた。棚の間を通り抜けて声の方に向かうと、沙羅が手招きをしている。


「何か見つかった?」


「ここ。研究室の論文。あと、レポートもある。ここの病院、大学と連携して、いろんな研究、しているみたい」


 沙羅が指差す棚には、「論文」や「研究レポート」の文字が見える。沙羅はそのうちのいくつかを手に取り、読んでいるようだ。


「例えば、これ。新薬の研究。成分や効能が書いている。日付から考えると、もうこの病院では採用されているみたい」


「うわぁ、私にはなにがなんだかさっぱり。沙羅ちゃん、よく分かるなぁ」


「本、いっぱい読んでたら、時々こういうの、出てくる」


 沙羅は「これは関係なかった」と言いながら読んでいたレポートを戻す。


「もし、リゲルズ・サーバーに関することがあるとしたら、多分最近。ここら辺のレポート、結構前のもの」


「……っていうことは、最新のを探せば……」


「いくつか読んでみたけど、大体日付順になっているみたい。多分、あるとしたらあそこの棚あたり」


「よし、じゃああの棚のレポートを、手分けして探してみよう」


 沙羅が指差したのは、入口から一番遠い棚だった。真玄たちは、その棚にある資料やレポートを引っ張りだし、片っ端から読み始める。しかし、ほとんどが新薬や治療方法の研究に関することばかりで、リゲルズ・サーバーに関係しそうなものは見つからない。


「僕が医療関係に詳しかったら、宝の山だったのになぁ」


「うーんでも、ここにあるレポートって、既に発表されたものばかりでしょ? だったら、あまり意味が無いんじゃあ……」


「マクロ君、知識というものは頭に入れてこそだよ。こういうレポートが、いつも目に触れるところにあるとは限らないじゃないか」


「そんなものなのかねぇ……あっ」


 パラパラとレポートをめくっていると、真玄の目に「リゲルズ・サーバー」の文字が飛び込んできた。


「やっと見つけた。もしかしたら、ここに手がかりが……」


 真玄は慌てて全員にそのレポートを見せる。少しずつページをめくっていくが、どれも知っていることばかりだ。


「……新しい手がかりはなさそうだね。知宏さんがここで働いていたなら、このレポートがここにあっても不思議じゃないし」


「せっかく見つけたと思ったのに……」


 また一から集めなおしか、と真玄が落胆していたときだった。


「ねえねえ、これって関係ないかな?」


 麻衣が一つのレポートを手にし、真玄に見せた。そのレポートの表紙には、気になるタイトルが付けられている。


「ホルモンを栄養源とするウィルスの有用性と爆発物生成の危険性……?」


 真玄はレポートを手に持って、肩を震わせている。麻衣は少しびっくりしながら、真玄に声を掛ける。


「ほ、ほら、リア充になると爆発するっていのと、何か関係あるのかなーって」


「こ、これだ! 麻衣、でかした! きっとこれは凄い手がかりになる!」


 真玄は麻衣の肩をつかみ、強く揺らす。麻衣は「い、痛い」と言いながら肩から真玄の手を離させようとした。


「とにかく読んでみよう。俺の予想が正しければ……」


 真玄はそう言いながら、レポートを床に置いてページをめくった。

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