EP1:進展
爆弾魔が爆発した翌日、現在の状況を整理するために、真玄たちは一度全員寒太の兄の部屋に集まることにした。いくら広い部屋とはいえ、全員が集まるとやはり狭く感じる。
まずは寒太が昨日の出来事や、昨日までに分かったことについて説明をした。爆弾魔が爆発したこと、マスターはリア充にならずとも爆発させることができること、そして病院が拠点である可能性が高いこと、といった感じだ。
「自由に爆発させることができる、つまり、あまり派手な動きはできない、ってこと?」
沙羅が少しがっかりしたように言うと、寒太が「そうだな」と返す。
「今日は全員を集めたが、動くとしても少人数の方がいいだろう。何かあった時に、少しでも被害を減らしたいからな」
「でも、それはどうかしら? たとえ動いているのが少人数だとしても、恐らく向こうは協力している人間全員を把握しているのじゃないかしら? だとするとあまり意味がない気がするわよ」
空になったカップに紅茶を注ぎながら、千草は言った。その意見には寒太も「確かに」と頷く。
「まあでもさ、派手なことはできないっていうのは一緒でしょ? 少人数にしろ大人数にしろ、計画はしっかり立てないとね」
「そういうことだ。次の目標は決まっているとはいえ、少しでも慎重に行くべきだろう」
病院を調べる、ということはおおよそ全員賛成している。しかし、もしも重要な拠点であるとすれば、やはり向こうも黙ってはいないだろう。
「しっかしさぁ、マスター……アサートだっけ? 結局この世界を使って何をしたいんだろうね? それに協力しているアマミヤたちも。よく分からないね」
「ん、マスターの名前なんか誰か言ってたっけ?」
「あれ、マクロ君、聞いてなかった? コノルーが言ってたじゃない」
太地に言われ、真玄は「あれ、そうだっけ?」と首をかしげる。真玄は爆弾魔のことが気になっていてそれどころではなかったらしい。
ふと、腕を組んで考え事をしていたクオンが、「ちょっとまて」と話を切る。
「アサート……マスターの名前はアサートと言うのか?」
「え、あ、うん、コノルーが言うことが間違っていなければね」
「……まさか、僕が追っている結婚詐欺師じゃないだろうな?」
「え?」
クオンに視線が集まる。しんと静まり返った部屋に、かすかに鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「僕が追っている女の名前が朝戸夜子。もしもこっちの世界の……案内人としての名前がアサートという名前だとしたら……」
「しかし、それは考えが飛躍しすぎではないだろうか? 確かに名前は似ているが……」
「それだけじゃない。もしもマスターがそいつなら、病院が関係するのも納得がいく。何しろ、調べたところによるとあの病院によく出入りしていたようだからな」
クオンの説明に、寒太はうむ、と頷く。
「なるほど、リゲルズ・サーバーも病院に関係しているし、結婚詐欺師ならターゲットを見つけるために使おうと考えてもおかしくないね」
真玄もクオンの考えに同調する。すると、今度は珠子が声を上げた。
「そう言えば知宏さん、最近同僚の女看護師がしつこいって漏らしてたわ。もしかすると、その朝戸っていう女かも」
「本当ですか? だとすると……やっぱりあそこが……」
どう考えても病院が怪しい、という考えにまとまりそうになったが、寒太が「とりあえず」とその場を収める。
「今のところは、すべてが推測の域に過ぎない。まずは病院を調べてみないとな。さて、どうやって調べるか……」
「あ、じゃあさ、前みたいにわざと入院するっていうのは? そしたら、堂々と病院に入れるんじゃない?」
麻衣が手を挙げて提案する。確かに、病人になれば堂々と病院に入ることも出来るし、警戒はされないだろう。
「じゃあさ、麻衣ちゃんまた前みたいに熱射病になってよ」
「いや、それは私じゃなくてタイチの役割じゃない?」
「僕は外に出ることなんてあまりないし、外に出るにしてもちゃんと水分摂ってるから」
「じゃあ、水分摂らずに外に出ようよ」
「そんな無茶な……」
麻衣と太地がお互いに押し付け合い、結局仮病案は保留となりそうだ。
「他には健康診断とかいいんじゃないかな。病院なんだし、入る手段はいろいろあると思うからゆっくり考えよう」
この日は「病院に入る手段を考える」ことを宿題とし、解散することにした。
真玄が片づけをしていると、知美も一緒に食器を洗うのを手伝った。知美は真玄が洗ったカップを受け取ると、それを拭いていく。
「真玄先輩、そういえば、時々父に弁当を渡しに病院に行くことがあるんですけど、その時近くに女の人がいることがあるんですよ。それも、同じ人が。もしかしたらその人が……」
「うーん、可能性は高いけど、他の看護師さんかもしれないし、それは分からないね」
「そうですか……写真があれば、分かると思ったのですが……」
知美は協力できなかったためか、肩を落としてため息をつく。
「大丈夫だよ、病院を調べれば、何か分かるかもしれない」
「あ、そうですね。もしかしたら、お医者さんや看護師さんの資料も見つかるかも」
「うん、そしたら、その情報もきっと役に立つよ」
真玄がそう言うと、知美は「てへへ」と嬉しそうに口元を緩めた。
「そう考えると、病院の調査が楽しみになりました。ところで、いつ行くんですか?」
「どうなるかな。それはまた今度話し合わないと……」
「もし行く日が決まったら、絶対呼んでくださいね!」
「……知美、気合入ってるなぁ……」
カップを洗い終わり、知美はてきぱきと食器棚へと収納していく。今日の片付けの担当は真玄で、知美と寒太以外の他のメンバーは既に帰っている。
戸締りを確認し外に出て、寒太が鍵を閉める。時々寒太はここに泊まることもあるそうだが、基本的には自分のアパートの部屋に戻るとのことだ。理由は、「ここにはテレビもパソコンもないから」らしい。
真玄たちと寒太は、途中で帰る方向が変わる。その交差点で寒太が「気をつけてな」と別れると、真玄と知美は二人で住宅街を歩いていった。
「それにしても暑いですねぇ。今度川かプールにでも行きません?」
日陰はそうでもなくなったが、やはり日が当たる道路はまだまだ暑さを感じる。知美は手をパタパタさせながら、太陽を恨めしそうに眺めた。
「プールかぁ。どうせなら、海がいいな。ちょっと遠いけど」
「海、ですか。やっぱり、波があるほうがいいんですか?」
「そうだね。サーフィンとか、やってみたいね」
「サーフィン、いいですね。私、バランス感覚には自信がありますから」
暑さの残る時期ではあるが、夏の終わりは近い。少し時間が経てば、この暑さもぬるくなっていく。そんな季節の変わり目に、二人はまるで夏休みの計画を立てるかのように話し込んだ。
「あーでも、そういえば履修届も出さないといけないんですよね。私、何を取ろうか迷っているところで……あれ、あそこにいるのって……」
二人が歩いていると、前から誰かがふらふらと歩いてくるのが見えた。人間の形はしているが、猫耳のようなものをつけている、見覚えのあるシルエット。
「……コノルー? こんなところで一体何を……」
真玄が不思議に思っていると、コノルーと思われる人間は、突然ばたりと倒れ込んだ。
「……!? どど、どうしちゃったんでしょう? 日射病?」
「とにかく、行ってみよう」
真玄と知美は、慌てて走りだす。やはり倒れているのはコノルーで、ぴくぴくと体を震わせていた。
「うぅ……助けて……オイラ……捨てられた……」
「事情は分からないが、とにかくこのままじゃまずそうだ。一旦、そこのコンビニに連れていこう」
そう言うと、真玄と知美はコノルーに肩を貸し、そのまま近くにあった店に連れて行った。




