表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/96

EP20:病院

 逃げた犯罪者予備軍に用はない。

 コノルーの一言を聞いて、クロミナは唖然としていた。


「……はぁ? じゃあ何のためにこいつらの邪魔したのよ? お茶の時間がもったいないじゃない!」


 クロミナはため息をつきながら、コノルーの尻を思いっきり蹴る。


「い、痛い! や、止めてくれよ」


「うるさい! あんたがドジ踏むからでしょ! そもそも用がないなら邪魔する必要も……」


 クロミナがガシガシとコノルーを踏みつけていると、突然ボン、とかすかに何かが爆発するような音が遠くから聞こえた。


「……! まさか!?」


 嫌な予感がする。真玄は慌てて爆発音が聞こえた方へ向かった。


「え、ちょっと、マクロ君!」


 太地と寒太も、慌てて追いかける。三人はひとまず、爆弾魔が逃げた進路をたどっていく。コノルーに邪魔された場所まで来ると、そこから左に向かう。しばらく走っていると、誰かが倒れているのが見えた。


「……手遅れか……」


 街灯に照らされたその人物は既に頭が無く、周辺に血が飛び散っていた。背格好や着用している衣服から、先ほどの爆弾魔であることが明らかだった。

 何度も見慣れているとはいえ、グロテスクな死体は思わず吐き気を催してしまう。そんな真玄と太地が戸惑っている中でも、寒太は冷静に死体を観察して状況を確認する。


「……犯罪者が爆発した時と同じだ。逃げている途中で爆発したに違いない」


 寒太の話を聞き、落ち着きを取り戻した真玄が地団駄を踏む。


「またかよ……一体どうして……」


「ああ、そいつはもう用が無くなったから消したんだって」


 突然、反対方向の暗闇から、声が聞こえた。聞き覚えのある声に、思わずそちらの方を向く。


「アマミヤ、一体どういうことだ?」


「マスターだよ。事情はコノルーから聞いた。そいつはもう、実験には必要ないんだってさ」


「必要ないって、そんなことで……」


「そりゃそうでしょ。実験のために呼んだんだ。必要なくなったら消す、それが何の問題があるんだい?」


 アマミヤははぁ、と息をつくと、「大体さ」と続ける。


「君達、そいつを捕まえて、そのあとどうするつもりだったんだい?」


「それは……」


「説得して仲間にする? 多分無理だと思うよ。彼ら犯罪者予備軍は、根っからの犯罪者。仮に話を聞いて仲間になったとしても、そのうち裏切るに決まっているよ」


「……」


 アマミヤの言い分はもっともだった。真玄に反論の余地はない。


「そういうことさ。ま、これ以上爆発の被害も無くなるから、君達にとってもよかったんじゃない?」


「そんな……そんな言い方は……」


「あれ、それともこれ以上被害があった方がよかった? いいかい? どんなにいいことを言おうが、相手は犯罪者。逃がせばそれだけ被害が広がる。捕まえても説得は不可能。じゃあどうするの? 納得できるいいアイデアでもあるの?」


「それは……」


 何か言い返そうにも、そんなアイデアなど出てくるはずがない。真玄は拳を握りしめて唇をかんだ。


「アマミヤ、別にマクロ君はそういうことを言いたいんじゃないんだよ。それは、君も分かってるよね?」


 言い返せない太地が代弁する。アマミヤは「分かってるさ」と言いながら、真玄たちに背を向ける。


「でも、世の中きれいごとばかりじゃどうにもならないことだってあるんだよ。今の状況をきちんと考えて行動することだ」


 アマミヤはそう言い残し、夜の闇に消えていった。



 公園に戻ると、クロミナとコノルーは既にいなかった。残されたカレーを片付け、真玄たちは寒太の兄の部屋に向かう。「大量に作らなくてよかったね」などと太地が茶化すが、真玄も寒太も話すどころではないようだ。

 部屋には、何かあった時のために千草とクオンが待っている。部屋に戻ると、二人が夕食の準備を済ませていた。いつもの冷凍食品に加え、サラダも準備していた。真玄たちが持って帰ったカレーも温め、盛り付ける。


「……ということで、カレー作戦は失敗したわけだが……」


 カレーを口にしながら、寒太がこれまでのいきさつを説明する。爆弾魔はクロミナたち案内人に邪魔され、取り逃がしたどころか爆発して死んでしまった。そして、爆発させたのはマスターだということ。


「話を聞いている限りでは、厄介なことが一つ分かったね。まあ、薄々は感じていたけれど」


 経緯を聞いていたクオンが、サラダを食べながら話す。いつものにやけた表情とは違い、この時ばかりは真剣な顔つきだ。


「マスターは、リア充にならなくても人間を爆発させることが出来る……」


「そういうこと。あんまりマスターの目につくことはしない方がいい、とも言えるね」


 リア充にならなければ爆発しない、その前提が覆ってしまえば、真玄たちの行動も制限されることになる。今後は、今まで以上に慎重な行動が必要になるだろう。


「とはいえ、今までの僕たちの行動は案内人を通して筒抜けじゃないの? それで今まで爆発しなかったってことは、僕たちのことは眼中にないってことじゃないかな」


「それはそうなのだが……しかし、あまり軽率に行動するのは褒められたものではなさそうだ。慎重になるに越したことはないだろう」


 今までは大きな動きをしたとしても、特に何もされなかった。しかし、爆発する可能性が出てきた以上は、相手の機嫌を損ねるべきではない、と寒太は続けた。既に慎重な行動を考えてきた寒太にとってはそう難しくないことだろうが、この世界から早く脱出したいと考えている真玄はあまり納得していないようだ。


「……ところでさ、マスターは何であんな中途半端なところで爆弾魔を爆発させちゃったんだろうね」


 沈黙が続きそうだったからか、クオンが話題を切り替える。千草も「そういえばそうね」と頷く。


「犯罪者予備軍って、放っておいても爆発するはずでしょ? だったら、この変なタイミングで爆発させたっていうのは、何か意味があるのではないかしら?」


「コノルーやアマミヤは『用が無くなった』と言っていたが……あんな中途半端な状態で『用が無くなった』となるとは考えにくいな。どうせなら最後まで目的を達成させればいいだけの話だし、そうすれば自らの手を下すこともなくなる」


 クオンも千草も、その点は気になっていたようだ。寒太の説明にうんうんと頷く。


「こうは考えられない? そいつに用が無くなったんじゃなくて、『このタイミングで処分しておかないとマズイ』とか」


「ん、どういうことだ?」


「そうだね、具体的に……爆弾魔の目的って、最終的にはどこを爆破させると僕たちは考えたんだっけ?」


 クオンに尋ねられ、太地は首をひねる。しかし、カレーを食べる手は止めない。


「えっと、確か病院だったよね。あの大きな」


「そう。で、今回爆破されたのはその手前のビル。つまり……」


 そこまで言われ、太地は「あっ」と声をあげた。


「そうか、もしかしたら、病院を爆破されたら困るっていうことかな」


「その可能性は高いと思うよ。もしも病院が何か関係しているのなら、リゲルズ・サーバーも十分何か関連がある可能性が高いし」


「なるほど、ということは、今度調べるべきなのは病院だね」


 そうとなれば、と太地はすぐさま病院について調べようとするが、寒太が待ったを掛ける。


「もしも病院が重要な拠点だとすると、今度こそ僕らの命が危ないかもしれない。それこそ、慎重な行動が必要だろう」


「確かに、寒太の言う通りだ。派手に動くのはまずい。まずはしっかり計画を立てよう」


 真玄がそう言うと、全員がうんうんと首を縦に振った。


「今の話は、早く全員に伝えた方がいいわね。特に珠子さん、焦って病院に行きかねないから」


「そうですね、また明日にでも全員で話し合いをしよう」


 その日は具体的な行動は話し合わず、解散となった。片づけが終わり、一人帰路に着くと、真玄は空を見上げて呟いた。


「……病院がマスターにとって重要な場所だとすると、もうすぐ……」


 今日はいつも以上に星がきれいに見える。目の前にアパートが見えた時、ようやく長い時間星空を見ていたことに気が付いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ