表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/96

EP2:出会い厨

 真玄がアパートの部屋に戻った時には、既に十八時を回っていた。

 コンビニから持って帰った弁当をテーブルに置くと、汗を流すためにシャワーを浴びる。着替え終わると、パソコンの電源を入れる。いつものパターンだ。


 ただ、インターネットをつないで見た画面は、昨日とほとんど同じ光景だった。

 個人サイトや動画サイトは更新されていない。いつも行っているSNSも、発言が止まったままだった。

 大手の検索サイトは、若干デザインやニュースの内容が変わっている気がする。ただ、これが人の手によって更新された物なのか、自動的に更新された物なのかはわからない。

 真玄は仕方なく、動画サイトで見ていない動画を探した。

 

「こうしてみてみると、結構の数見てるよなぁ……」


 動画の更新が無いせいか、興味があるものはほとんど見たことがあるものばかりだ。

 仕方なく、他のもので検索をかけていると、スマートフォンの着信音が鳴り響いた。

 画面を見ると、「桜宮太地」と書かれている。真玄は、すぐにスマートフォンを手に取った。


『やあ、マクロ君、アルバイトはもう終わった?』


 太地の間抜けな声が、真玄の耳に響く。


「あ、ああ。今帰ったところだけど……一体どうした?」


『いや、ネット繋いでずっと見てたんだけど、マクロ君はSNSか何かやってるのかなーって』


「やってるのはやってるけど……一体、何でそんなこと聞くんだ?」


『だって僕が行ってるところ、誰も話をしなくて止まったままだからさ、おもしろくないんだ。だから、話し相手が欲しくて』


「ああ、なるほど。確かに、誰も話さないのは寂しいよな……って、俺と一体何を話し合うというのだ?」


『今後の話とか、好きなアニメの話とか、動画の話とか、女の子との出会い方とか』


「最後はいらないな」


 真玄ははぁ、とため息をつきながら頭を抱えた。


「確かに、電話じゃなくてパソコンで話が出来るって言うのは便利かもな。文字の方が都合がいいことも多いし」


『そうそう、で、どこのSNS使ってるの? アカウントは? いつだったら話せる?』


「本気で出会い厨かよ! ……まあいいや。今使ってるのは、『フレンドシーカー』っていうところ」


『あ、僕もやってるよ。リンク登録したいからアカウント教えてよ』


 真玄はため息をつきながら、SNSサイト「フレンドシーカー」を開いた。そして、太地に自分のアカウント名を告げる。

 すると、スマートフォンの奥からカタカタとキーボードを叩く音がした。


『おっけー、見つかった。じゃあリンク登録しておくね』


 SNSサイト「フレンドシーカー」では、気になる人と繋がるための「リンク登録」というものがあり、登録した人の「会話」を、リアルタイムに覗くことができる。

 その「会話」に合わせて自分も会話することで、チャットのようにリアルタイムで話が出来るのだ。


「ところで、今日は何か変わったことあった?」


「切り替え速いな、お前」


 そうは言ったものの、真玄はちょうど良いタイミングだと思い、今日あったことを話すことにした。

 コンビニのシステム、そこで出会った女性のこと。太地は女性の話になると、急に鼻息が荒くなったような気がした。


『それで、連絡先は?』


「聞きそびれた」


 真玄がそういうと、受話器の向こうから、本当に残念そうな深いため息が聞こえてきた。


『何で真っ先に聞かないのさ。いいかい? こういうのは一期一会、いつ同じ出会いがあるかわからないものなんだ。連絡先は、聞けるときに聞く。これ、出会いの鉄則だから』


「何で俺が出会いのレクチャーされなきゃなんないんだ」


『とにかく。現実ならまだしも、この世界では出会える人は少ないんだ。出会った人は、すぐに連絡が取れるようにしておかないと』


 太地の意見が、初めてまともに聞こえた。

 確かに、ここで出会える人間はおそらく少ない。その少ない人で協力していくことが、ここを抜けるための近道となるはずだ。


「もしかしたら、またコンビニのバイトしてたら来るかもしれないから、その時に聞いてみるよ」


『どうだろうねぇ。まあ、同じ大学なら、チャンスはあるんじゃないかな』


「多分、大丈夫。また話を聞かせてって言われたし」


『なんだこのリア充死ねよ』


「リア充ならとっくに死んでるよ」


 真黒がそういうと、奥から「ああ、そうだった」と暗い声が聞こえてきた。


『で、その、知美ちゃんだっけ? かわいい? 髪型はどうだった? 身長は? おっぱい大きい? 声かわいい?』


「お前やっぱり出会い厨だわ」


 真玄がそういうと、「今から見たいアニメがあるから」と、太地は電話を切った。


 

 パソコンの画面を見るが、「フレンドシーカー」のリンク通知は来ていなかった。

 太地のアカウントを聞いておけばよかったと思いながら、真玄は一応動きをチェックする。だが、案の定特に動きは見られない。

 太地のアカウントを探すために検索を掛けてみたが、ハンドルネームが分からない以上はどうすることもできない。

 しばらくはいろいろと試していたが、結局気が付けば動画サイトで動画を漁っていた。


 コンビニ弁当を食べながら動画を眺めていると、MAD動画で使われていた映画の爆発シーンを見て、真玄はふと今の世界について考えた。

 リア充になると爆発する。

 本当なのかもしれないが、実際に爆発しているところを見ていない。それが、イマイチ実感がわかない一因だ。

 それに、今日出会った、風野知美という女性。

 彼女は、リア充になると爆発する、ということを知らなかった。

 本当に、リア充になると爆発するのだろうか。 

 そんなことを考えていると、いつのまにかすっかり暗くなっているのに気が付いた。電気をつける気力もなく、クーラーにより快適に調整された室温により、心地よい眠気に襲われる。


「考えてても……しょうが……ない……か……」


 パソコンの電源を入れたまま、真玄は眠りについてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ