EP2:出会い厨
真玄がアパートの部屋に戻った時には、既に十八時を回っていた。
コンビニから持って帰った弁当をテーブルに置くと、汗を流すためにシャワーを浴びる。着替え終わると、パソコンの電源を入れる。いつものパターンだ。
ただ、インターネットをつないで見た画面は、昨日とほとんど同じ光景だった。
個人サイトや動画サイトは更新されていない。いつも行っているSNSも、発言が止まったままだった。
大手の検索サイトは、若干デザインやニュースの内容が変わっている気がする。ただ、これが人の手によって更新された物なのか、自動的に更新された物なのかはわからない。
真玄は仕方なく、動画サイトで見ていない動画を探した。
「こうしてみてみると、結構の数見てるよなぁ……」
動画の更新が無いせいか、興味があるものはほとんど見たことがあるものばかりだ。
仕方なく、他のもので検索をかけていると、スマートフォンの着信音が鳴り響いた。
画面を見ると、「桜宮太地」と書かれている。真玄は、すぐにスマートフォンを手に取った。
『やあ、マクロ君、アルバイトはもう終わった?』
太地の間抜けな声が、真玄の耳に響く。
「あ、ああ。今帰ったところだけど……一体どうした?」
『いや、ネット繋いでずっと見てたんだけど、マクロ君はSNSか何かやってるのかなーって』
「やってるのはやってるけど……一体、何でそんなこと聞くんだ?」
『だって僕が行ってるところ、誰も話をしなくて止まったままだからさ、おもしろくないんだ。だから、話し相手が欲しくて』
「ああ、なるほど。確かに、誰も話さないのは寂しいよな……って、俺と一体何を話し合うというのだ?」
『今後の話とか、好きなアニメの話とか、動画の話とか、女の子との出会い方とか』
「最後はいらないな」
真玄ははぁ、とため息をつきながら頭を抱えた。
「確かに、電話じゃなくてパソコンで話が出来るって言うのは便利かもな。文字の方が都合がいいことも多いし」
『そうそう、で、どこのSNS使ってるの? アカウントは? いつだったら話せる?』
「本気で出会い厨かよ! ……まあいいや。今使ってるのは、『フレンドシーカー』っていうところ」
『あ、僕もやってるよ。リンク登録したいからアカウント教えてよ』
真玄はため息をつきながら、SNSサイト「フレンドシーカー」を開いた。そして、太地に自分のアカウント名を告げる。
すると、スマートフォンの奥からカタカタとキーボードを叩く音がした。
『おっけー、見つかった。じゃあリンク登録しておくね』
SNSサイト「フレンドシーカー」では、気になる人と繋がるための「リンク登録」というものがあり、登録した人の「会話」を、リアルタイムに覗くことができる。
その「会話」に合わせて自分も会話することで、チャットのようにリアルタイムで話が出来るのだ。
「ところで、今日は何か変わったことあった?」
「切り替え速いな、お前」
そうは言ったものの、真玄はちょうど良いタイミングだと思い、今日あったことを話すことにした。
コンビニのシステム、そこで出会った女性のこと。太地は女性の話になると、急に鼻息が荒くなったような気がした。
『それで、連絡先は?』
「聞きそびれた」
真玄がそういうと、受話器の向こうから、本当に残念そうな深いため息が聞こえてきた。
『何で真っ先に聞かないのさ。いいかい? こういうのは一期一会、いつ同じ出会いがあるかわからないものなんだ。連絡先は、聞けるときに聞く。これ、出会いの鉄則だから』
「何で俺が出会いのレクチャーされなきゃなんないんだ」
『とにかく。現実ならまだしも、この世界では出会える人は少ないんだ。出会った人は、すぐに連絡が取れるようにしておかないと』
太地の意見が、初めてまともに聞こえた。
確かに、ここで出会える人間はおそらく少ない。その少ない人で協力していくことが、ここを抜けるための近道となるはずだ。
「もしかしたら、またコンビニのバイトしてたら来るかもしれないから、その時に聞いてみるよ」
『どうだろうねぇ。まあ、同じ大学なら、チャンスはあるんじゃないかな』
「多分、大丈夫。また話を聞かせてって言われたし」
『なんだこのリア充死ねよ』
「リア充ならとっくに死んでるよ」
真黒がそういうと、奥から「ああ、そうだった」と暗い声が聞こえてきた。
『で、その、知美ちゃんだっけ? かわいい? 髪型はどうだった? 身長は? おっぱい大きい? 声かわいい?』
「お前やっぱり出会い厨だわ」
真玄がそういうと、「今から見たいアニメがあるから」と、太地は電話を切った。
パソコンの画面を見るが、「フレンドシーカー」のリンク通知は来ていなかった。
太地のアカウントを聞いておけばよかったと思いながら、真玄は一応動きをチェックする。だが、案の定特に動きは見られない。
太地のアカウントを探すために検索を掛けてみたが、ハンドルネームが分からない以上はどうすることもできない。
しばらくはいろいろと試していたが、結局気が付けば動画サイトで動画を漁っていた。
コンビニ弁当を食べながら動画を眺めていると、MAD動画で使われていた映画の爆発シーンを見て、真玄はふと今の世界について考えた。
リア充になると爆発する。
本当なのかもしれないが、実際に爆発しているところを見ていない。それが、イマイチ実感がわかない一因だ。
それに、今日出会った、風野知美という女性。
彼女は、リア充になると爆発する、ということを知らなかった。
本当に、リア充になると爆発するのだろうか。
そんなことを考えていると、いつのまにかすっかり暗くなっているのに気が付いた。電気をつける気力もなく、クーラーにより快適に調整された室温により、心地よい眠気に襲われる。
「考えてても……しょうが……ない……か……」
パソコンの電源を入れたまま、真玄は眠りについてしまった。