EP18:検討
寒太の兄の部屋に集まった頃には、辺りはすっかり暗くなってしまった。いつもはクーラーをつけている部屋も、今日は必要なさそうなくらい暑さが和らいでいる。別の場所で待機している太地と千草が来るまでの間、麻衣がコップを準備して飲み物を注ぐ。
「……っていうかさぁ、私だけ仲間はずれってひどくない? 何で一週間も連絡無かったの?」
集まった時から既に麻衣は不機嫌だったが、準備が済んだところで急に不満をぶちまけた。
「あ、いや、えっと、こういうのはあんまり女の子が関わらない方がいいっていうか……」
「沙羅ちゃんや知美ちゃんも見張り行ってたのに?」
「あ、いや、その……」
真玄が言葉に詰まっていると、寒太が「やれやれ」とため息をついた。
「そういえば十条、この前貸した魔法少女ルナティック、面白かったか?」
寒太が尋ねると、麻衣は「うんうん、あれ、とっても面白かった」と返す。
「そうか、電話に出ないからどうしているのかと思ったが、ずっとあれ見てたのか。それなら一週間ほど連絡が無いのも頷ける」
寒太が一人で納得する中、麻衣は「あっ」と声をあげる。
「……麻衣、寒太が連絡取ってたんじゃないか。誰が連絡くれないって?」
「え、いや、その、だってマクロンから連絡なかったし……」
「人の電話に出ないでよく言うよ」
結局麻衣は、寒太から借りたDVDをずっと見ていたらしい。そして、その間、電話にも出ないほど夢中になっていたのだとか。
そんなことを言っているうちに、太地と千草もやってきた。麻衣は慌てて追加の飲み物を準備する。寒太だけは、自分でインスタントのホットコーヒーを入れていた。
「寒太君、暑いのによくホットコーヒーなんて飲めるね」
「眠気覚ましだ。話し合いの途中に睡魔が襲ってきたらたまらんからな」
そう言うと、寒太は席について手に持っていたホットコーヒーに口をつける。
「ところでクオン、犯人の居場所が分かるって言ってたけどあれは……」
「ああ、ちょうど説明しようと思っていたところさ。沙羅ちゃん、地図、持ってる?」
クオンに言われると、沙羅は不機嫌そうに地図を取り出す。クオンに指示されるのが気に食わない様子だ。
テーブルの真ん中に地図を広げ、ボールペンで一か所、丸をつける。
「……今日爆破された建物、ここ。やっぱり、直線状に並んでる」
最初に爆破された建物から丸が三つ、等間隔に並んでいる。そして、それを結んだ先にあるのが病院という点も同じだ。
「うーん、やっぱりこことなると、犯人がいる場所は絞られてくるね」
「というと?」
「考えてみなよ。犯人は時限式の爆弾で爆破させているんだよ? ということは、近くで爆発しているところを見るんじゃなく、遠くで見てるんじゃないかい?」
「あ……」
「そして、建物が崩れているところがよく見える場所を、何か所も探すのは結構面倒。意外と視界が開けた場所って無いからね。だから爆破した建物と、これから爆破しようとしている建物が全部見渡せる場所で、爆破しているところを見ているんじゃないかな?」
高い建物が少ない一方で、遠くを見渡せる場所もそれほど多くない。地図を見ながら、真玄たちは「なるほど」と声を上げた。
「私、この辺の地理は詳しくないけど、隣の駅のデパートならもしかすると……」
珠子と千草は、高い場所と聞いて真っ先にデパートを思いついた。地図上でも、建物が十分すべて見渡せる範囲にある。
「たしかに、珠子さんと出会ったあのレストランなら見えそうだけれど……ちょっと遠すぎるかしら。最初の建物が見えないと思うわ」
「だぅ……それもそうですね」
地図上では見えそうでも、やはり距離が離れすぎている。もう少し近い場所でなければ見渡せないだろう。
「ねえねえ、高い場所じゃなくてもいいんじゃないの? 例えば公園とか、川の近くとかさ」
麻衣が地図上をあちこち指差す。ここならどうか、こっちならどうだろう、と。しかし、太地と寒太が首を振る。
「さすがに、障害物が多くてよく見えないだろう。特に今日爆破されたところは、建物が割と多かったからな」
「やっぱり、こういうのは見晴らしのいいところじゃないと、難しいと思うよ」
低地でよく見える場所を探そうとしても、どうしても建物の影になったり、きちんと見えなかったりして、ちょうどよい場所が見つからない。あれこれ考えているうちに、真玄はふと思い当たる場所があることに気が付いた。
「見晴らしのいい場所……あっ!」
「ん、白崎、どうした?」
「神社! 一か所だけ、街が全体的に見渡せる神社がある!」
真玄は慌てて地図の上に覆いかぶさり、その場所を探す。
「えっと、確かこの道を通って……あった、ここだ!」
名前は大鳥神社となっている。クオンはその場所を見て、「なるほどね」と納得する。
「ここなら、全部の場所を見渡せるね。他に適当な場所はなさそうだし……そこを張ってみるのもおもしろそうだ」
「でも、いつここに来るか分からないでしょ? 第一ここだと決まったわけじゃ……」
いつもなら賛成する真玄だが、今は慎重にことを進めようと考えた。また全員に、何日かかるか分からない監視をさせることになるかもしれないからだ。
「たしかに、ここかは分からないね。でも、次の爆破まではそんなに期間は空かないと思うよ」
クオンの考えに、全員が「えっ」と驚く。
「どうしてそんなことが言えるのさ?」
「食料の問題。僕とこの爆弾魔は、同じ立場だからねぇ」
そこまで言われて、太地が「あっ」と声をあげた。
「プリペイドカード! そうか。この世界じゃ、プリペイドカードがないと、買い物できないもんね」
「その通り。僕も最初は、家にあったインスタント麺とか、残っていたお金でなんとかしたけど、後からお金を稼ぐ手段がないことに気が付いてね。しばらくは困ったものだよ」
「なるほどねぇ、さすがに一週間以上も経っていれば、食料もお金も尽きてくる頃……だと」
「もっとも、そんな状況で爆弾なんか仕掛けている奴の気が知れないけどね」
クオンはふぅ、と息を吐くと、そのまま椅子に座り込んだ。
「食料……ということは、相手はお腹が減っている可能性がある……ってことよね。じゃあ、こういう作戦はどうかしら?」
「作戦? 千草さん、何かアイデアでも?」
「ええ、そうね。作戦、と言うほどでもないけれど……」
千草はそう言うと、自分が考えた作戦を全員に伝えた。




