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EP15:監視

 翌日から、爆破されそうな建物の監視を始めることにした。

 まずは地図上から爆破されそうな建物をピックアップし、二人一組でその建物の近くに隠れて監視する。入れない建物がいくつかあったが、廃墟や売り物件などは鍵がかかっておらず、そういう場所を選んで拠点とする。

 いろいろと考えた結果、真玄と知美、寒太と珠子、クオンと沙羅という組み合わせで、あらかじめ目星をつけた三か所の建物を見張ることにした。それぞれ一人は今回の作戦を立てたメンバーが入る形となる。

 太地と千草は、情報を集めるために寒太の兄の部屋で待機をする。トイレは近くにあるし、食料は千草から支給された冷凍食品を温めた物やスーパーで買い出ししたものがある。今までの傾向から夜は爆破がないと考え、日が暮れたら監視終了、と取り決めた。十分休憩するスペースはあるし、スマホの充電もすぐにできる。

 真玄と知美は、ちょうどいい場所に二階建ての売り物件があったため、そこを見張りの拠点とすることにした。


「……それにしても、売り物件なのに電気や水道が通っているって、変ですよね」


 知美はスマホの充電をしながら、真玄に尋ねた。通常であれば、使わない建物の電気や水道、ガスは止まっているはずだ。使えるようにしても、料金を支払う人がいるわけがない。


「気にしたら負けだろう。元々、案内人が作ったものだし」


 元の世界とそっくりに作られているが、細部では異なる点がある。使われていない施設で電気や水道が通っているというのも、その一つだろう。何故そういうふうに作ったのかは、まだ分かっていない。


「とにかく、使える物は使わないと損だ。知美は無理しなくていいから、ゆっくり休んでて」


「いえ、そういうわけにはいきませんよ。私もやる時はやるんですから」


 何故か知美はやる気満々だ。もちろん止める理由は無いのだが、真玄は少し心配になった。


「……もしかして、まだ気にしているのか?」


 知美が、アマミヤと同じ案内人である可能性。人間でない可能性。自分が周りと違うというのは、少なからず不安になるものだ。


「……私が何者だろうと、真玄先輩はいつも通り接してくれるんでしょ?」


「え、う、うん、まあ……」


「じゃあ、問題ありません。真玄先輩、もし私が案内人でも、真玄先輩を八つ裂きにしたりしないので安心してください!」


「いや、別に案内人は人間に危害を加える存在じゃないと思うんだけど……」


 知美には、案内人にそんなイメージがあるのだろうか。アマミヤやクロミナを見ていると、別にそんなことは無いと思うのだが。

 真玄は太地が買ってくれた双眼鏡を手に少し離れたビルを観察する知美を見ながら、真玄はそう思った。


「……ところで真玄先輩、案内人って、何か特殊な技とか使えないんですかね? 私が使えるのは空手くらいですけど」


 知美に言われ、真玄はアマミヤのことを思い浮かべた。特殊な技、と言われ、真っ先に「ダミードール」のことを思い出す。


「アマミヤは使っていたみたいだね。なんか、人間の分身みたいなのを生み出す能力」


「そ、そうなんですか? じゃあ、もし私が案内人なら……」


 ビルではなく、双眼鏡を降ろして真玄を見つめる知美の目は、何故か輝いていた。


「へ、変なことを言わないでくれよ。それに、アマミヤみたいなことはできないだろう」


「分かりませんよ? もしかしたら、毎日真玄先輩の人形を作って、一緒に添い寝しているかもしれませんよ?」


「……それはそれでなんだか不気味だな……」


「えぇ……真玄先輩、うれしくないんですか?」


「いや、えっと……」


 よくわからない知美の威圧感に、真玄は言葉に詰まる。こういう時は、「うれしい」とでも言えばいいのだろうか?

 そんなことを考えていると、知美はベランダに寄りかかって外の風景を眺めはじめた。


「……私、まだそんな特殊な……能力っていうものは無いですけど、空手だったら自信がありますよ。そこらへんの男子には負けません。真玄先輩を、変質者から守る自信だってあります。力が全てっていうわけではないですけれど、自分の身は自分で守ることができるんです。そりゃ、私より強い相手だったら無理ですけど、普通の女の子よりは平気だと思いますよ」


 そう言って、知美はベランダの淵を持ちながらのけぞり、真玄の姿を覗く。


「これって、りっぱな能力じゃないですか?」


「……そうだね。知美には、立派な力がある」


 自分の身が自分で守れる。それは、きっと誰にでも出来ることではないだろう。アマミヤのような、人間にはできないようなことではない。でも、誰にでもできることでないことができるなら、それは立派な能力だ。


「……真玄先輩、別に私は、自分の力を誰にでも使おうとは思っていませんよ。真玄先輩のため、それに、みんなのためなら、出来ることは惜しみませんから」


 そう言って、知美は再び監視を続けた。

 自分が、周りの人間とは違うかもしれないと言われたこと。きっと、ものすごくショックなことだろう。

 でも、知美はそれを受け止め、自分に出来ることを探している。ここまで付いてきてくれた知美のためにも、父親にきちんと会わせてあげたい。真玄はその思いが、思わず言葉に出てしまった。


「……知美、ありがとう」


「え、真玄先輩、なんですか?」


「何でもないよ。さあ、監視を続けよう」


 真玄はベランダから身を乗り出し、道路へと注意を向けた。



 結局この日は爆弾魔らしき人物は現れず、日が暮れたので一旦家に戻ることにした。

 翌日も、監視は空振りに終わる。一度結果を報告するためにファミレスに集まったが、有用な情報は集められなかった。

 太地から爆弾の情報についての説明があったが、要するに「建物を崩すくらいの爆弾は作れる」程度のもので有用な情報はない。

 寒太チームや沙羅チームからも、有用な情報は得られなかった。


「……爆弾魔も、警戒しているのかもしれない。あるいは、見当違いな場所を監視していたのか……」


「まあまあ、予想が外れるなんてよくあることだよ、芹井寒太君。僕だって、爆弾魔に詳しいわけじゃないし、パターンが違うということも考えられるから」


 クオンが暗い空気を払拭しようとするが、なかなか結果が出ないことに対して全員に焦りが見える。


「と、とにかく、いつ仕掛けるか分からない相手だし、休みながらでいいから、焦らないで監視を続けよう」


 真玄がそう言うと、何故かその場の雰囲気が明るくなった気がする。クオンとは違う空気だ。


「白崎がそう言うなら仕方ないな。そもそも爆弾魔が次の爆破をするとも限らないんだ。時間はたっぷりある。焦らずにいこう。疲れたら、適度に休憩をすればいい」


「まあ、そういうことだね。こっちでも、頑張って情報を集めるよ」


 寒太も太地も、少し疲れているようだ。何とか笑顔を見せているが、あまり覇気が感じられない。


「私も、知宏さんに会うためなら頑張りますから、みなさんも、頑張りましょう」


「あら、珠子さんも随分協力的になったわね。私も頑張らなきゃ」


 珠子と千草も、爆弾魔を見つけるのに前向きだ。少し疲れているようにも見えるが、それを顔に出そうとはしない。


「多分、爆弾魔、捕まえるの、時間がかかる。みんな、無理しないで」


 そういう沙羅も、あまりしっかり休んでいないようだ。まだ二日しか監視していないが、半日近く監視を続けるのはそんなに楽ではない。


「うーん、確かに、あんまり張り切りすぎるのは良くないみたいだねぇ。ひとまず今日はゆっくり休んで、明日は少し遅めに始めようか。なに、慌てることはないさ。向こうだって、そのうち動かざるを得なくなるはずだからね」


 そう言って、クオンはファミレスから出て行った。それを皮切りに、他のメンバーも席を立ち始める。


「成果は出ていない。でも、焦らないようにしないと……」


 上を見上げると、綺麗な星空が広がっている。冷たい風で頭を冷やしながら、真玄は帰路に着いた。

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