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EP10:交錯

 爆弾騒ぎから一日経った。今のところは特に何も起きていない。

 太地が爆弾を持って帰って調べたが、「少し詳しい人ならすぐに作れる」程度しか分からなかった。フレンドシーカーでは爆発音を聞いた人が多数いたが、音と煙だけだと分かるとそこまでの騒ぎにはならなかった。

 その日は爆発音を聞いた多くの人が、窓を開けて外の様子を見ていたとのことだ。しかし、わざわざ様子を見に行った人はいなかったらしい。


「あれだけの爆発音なのに、みんな興味が無かったのかな……」


 当然のことながら、爆弾魔を見たという情報もなかった。やはり、捕まえるためにはまた爆発が起こるのを待つしかないようだ。

 パソコンを切ると、真玄は着替えてバイトに行く準備をした。最近は外に干してある洗濯物から着る服を選ぶようになり、取り込むのも面倒になっているようだ。最近は自炊もしておらず、ひたすらコンビニ弁当や宅配ピザに頼っている。


「……この世界はダメ人間生産工場だな」


 もしも自分が世界を征服するとしたら、こんな世界を作るかもしれない。それくらい、自分がどんどんだらけているという自覚があった。そうならないために、行かなくてもいいバイトだけは行くようにしている。

 今日も気持ちのいいくらいの青空だ。この前の雨雲は一体どこに行ったのだろうか。いつもの道を自転車をこぎながら、真玄はそんなことを思った。

 コンビニに着くと、いつものように着替えて作業を始める。あまりやる意味も無いのだが、何かをしていないと退屈してしまう。それに、どうやらタイムカードを押しても、何もしなければバイト代が入らない仕組みになっているようだ。誰がどうやってチェックしているのかは、さっぱり分からない。


「ふぅ、ちょっと休憩……」


 店の掃除を終えると、真玄はバックヤードに戻って缶コーヒーを開けた。ほんのり甘いミルク味のコーヒーが、渇いたのどを潤す。監視カメラのモニターを見るが、相変わらず客が来ない店内はまるで静止画のようだ。

 しばらく画面を眺めていると、入店音が鳴った。飲み干した缶コーヒーの空き缶を捨てると、すぐさまレジに向かう。


「いらっしゃい。今日もお弁当?」


 入ってきたのは、いつものワンピースを着た風野知美だった。ちょうどレジ前を通って、弁当コーナーに向かおうとしている。しかし、通りすがるときに見た知美の顔色は、あまりよくない。


「……もしかして、まだ気にしてるの?」


「……」


 知美は黙って弁当を一つ取る。そして、レジにいる真玄に渡した。最近は毎回温めているので、真玄は受け取った弁当をレンジに入れる。


「みんなはどう考えているかわからない。でも、仮に知美がアマミヤたちの仲間だったとしても、知美は知美だ。俺たちと一緒にいればいい」


「……私も、出来ればそうしたい。でも、もしもお父さんが案内人で、私も案内人だったら、真玄先輩たちの世界にはもう……」


「……」


 ピーッ、とレンジの音が鳴り、真玄は扉を開いて弁当を袋に詰める。

 知美は同じ世界で一緒に過ごすことができなくなるかもしれない。そんなことは、考えたことがなかった。


「……きっと、大丈夫だよ。知美も、元の世界に戻れる。そしたら、向こうの世界で一緒に遊ぼうよ。それに、考えていても暗くなるばっかりでしょうがないしね」


 袋に箸を入れると、真玄は「はい」と知美に渡す。知美はそれを力なく受け取った。


「……そう、ですよね。ちょっと考え過ぎですよね。それに、まだ案内人だと決まったわけじゃないし」


「そうそう、もしかしたら、知宏さんの養子だった、ということもあるし」


「それはそれで寂しいですけど……」


「あっ……」


 失言だった、と真玄は思わず口を紡いだ。気まずい空気を払拭するように、知美が慌てて切りだす。


「と、ところで真玄先輩、昨日外で大きな音がしたみたいですけど、何かありました?」


「え、あ、うん、まあ……」


 真玄も知美に合わせる。


「大したことなかったけど、爆弾騒ぎがね。どうやら、犯罪者予備軍がこの街に現れたようで」


「え、そうなんですか? じゃあ、私の住んでいるアパートも危ないですね」


「うーん、どうかな。今回のは音と煙だけだったし、大体こういう爆弾魔は大きな建物を爆発したがるものだし」


 これは寒太や太地から聞いた話の受け売りだ。目的が何か、ということによるが、こういう犯罪は大きなものや街の象徴を壊すことに快感を覚えるパターンが多いらしい。


「そうですか……でも、不安ですよね、こういうの。ほら、女の子一人の場合なんか特に」


「確かに、こういう話を聞くとね」


「だからえっと、一人でいるより誰かと一緒にいたほうが安心ですよね」


「うーん、でもそこに爆弾しかけられたら同じだしなぁ」


 真玄は腕を組んで考える。知美はそんな真玄の姿を見て、ため息をついた。


「……真玄先輩、そろそろ女の子の言いたいこと、察してくださいよ」


「……ん、何か言った?」


「何でもありません!」


 弁当の入った袋を振り乱し、知美はそのまま店を出ていった。


「……知美、どうしたんだろう?」


 知美が不機嫌な理由が分からず、真玄は首をひねる。何か悪いことでも言ってしまったのだろうか、と思いながら、真玄はバックヤードに戻った。


 ****


 退屈でやることが少ないバイト時間を終え、真玄はまた街の中を見回ることにした。今日は絶好のサイクリング日和だ。自転車をこぐ足も、なんとなく軽く感じる。

 今日はどこに行こうか、と思いながらなんとなくよく通る住宅街に入っていった。爆弾魔が目標にしそうな高い建物はないが、いくつかアパートはある。もしかすると、この中にターゲットがあるかも……などと考えながら、一応怪しい人影がないか確認する。

 気が付くと、よく行く公園に着いた。少し休憩しよう、そう思い、真玄は自転車を停めて中に入る。すると、一人の少女がブランコで本を読んでいるのが見えた。


「沙羅ちゃん、今日は外なんだね」


 真玄が声を掛けると、本頭沙羅は本を開いたま顔を上げた。


「最近、雨続きだった。外、久しぶり。昨日も来たけど、ブランコ、乾いてなかった」


「この前の雨は酷かったからね」


 真玄は沙羅の隣のブランコに座り、足をぶらつかせる。ギイ、という鈍い音が、公園中に響いた。


「この世界の雨、珍しい。雨の音、聞きながら本を読むの、悪くない。でも、やっぱり、晴れた方がいい」


「外で読むの好きだよね。でもさ、今の時期暑くない?」


 気温は下がってきたといえども、まだ外にじっとしているには暑い時期だ。日陰であれば幾分マシだが、それでも長時間いるのはまだ厳しい。


「暑さは、気にならない。汗、かいたら、シャワー浴びるだけ」


「汗が本にかかったりしない?」


「私、そんなに汗っかきじゃないから」


 沙羅の顔を見ると、ほとんど汗をかいていない。真玄が額に汗をにじませているのとは対照的だ。


「そういえば、昨日の爆発、何だったんだろう。行ってみたけど、よくわからなかった」


「沙羅ちゃんも行ったの?」


「本読んでて、気になったから。歩いて行くの、ちょっと遠かった。屋上、焦げた痕があったけど、他に何もなかった。あれなんだったんだろう?」


「太地が爆発した後の爆弾を持って帰っちゃったからね。それに、音と煙だけみたいだったし」


「そう、それならいいんだけど」


 沙羅はそう言うと、読みかけていた本の続きを読み始めた。パラパラとページをめくる音が、


「……でも、一人で行っちゃ危ないよ。誰かと一緒に行かないと」


「……」


「途中で爆弾魔に出会っちゃったら、危ないでしょ? だから……」


 真玄が途中まで言いかけた時、沙羅は読んでいた本をバタンと閉じた。


「子ども扱い、嫌い。私だって、もう大人になる。自分で自分のこと、決められる。自分で考えたこと。責任も、取れる」


「だ、だけどさ、女の子一人じゃやっぱり……」


「真玄、私のこと、心配しているの? それとも、信頼していないの?」


「心配だよ。だから……」


「寒太だったら、そうは言わない。寒太の方が、私のこと、分かってる。違い、分かる?」


「……」


 真玄は言葉が出ない。沙羅は持っていた本を手提げかばんにしまい、真玄の方を見つめた。


「真玄、ずっと言いたかったことがある。話しても、いい?」


 沙羅がそう言うと、真玄は首をゆっくりと縦に振った。

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