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EP8:捜索

 急がないと、最初の被害が出る。真玄はそう思いながら自転車をこいだ。検討はつかないが、とにかく目立つ場所へ向かう。

 大きな建物は数少ない。五階建て程度のビルやアパート、住宅街のマンションなどをしらみつぶしに調べる。しかし、爆弾魔らしき人物はどこにもいなかった。


「くっ……一体どこに行ったんだ……」


 工場の周辺は調べた。もう少し遠くを調べてみよう。真玄は徐々に工場から離れたところへと足をのばしていく。

 しかし、さすがに一人でこの範囲を調べるのは厳しい。曇り空の下、あふれる汗が風に飛ばされていく。


「や、やっぱり一人じゃ無理か……誰か、応援を……」


 自転車をこぎ続けてくたくたになり、木陰がある近くの公園に自転車を止める。そして、スマホを取り出してアドレス帳を開いた。


「こういうときは……ひとまず寒太かな」


 真玄は「芹井寒太」と書かれたところの通話ボタンを押した。しばらくすると、「どうした?」と寒太の声が聞こえてきた。


「寒太、新しい犯罪者予備軍が現れた。ついさっき、花火の廃工場から火薬を盗んでいったらしい。多分、爆弾魔だろう」


「爆弾魔……か。確かに、建物を爆破されたら厄介だな。で、そいつは今どこにいる?」


「分からない、今探しているところ。だから寒太にも手伝ってほしいと思って」


 どうしても早口になってしまう。息を切らしながら一気にしゃべると、少し間を空けて寒太が話し始めた。


「そうか……なら、一旦情報を集めることにしよう。とりあえず、桜宮も呼んでいつものファミレスへ……」


「ちょ、ちょっと待てよ。そんな悠長なこと言ってていいのか? 早くしないと被害が……」


「白崎、落ち着け。状況をよく考えろ」


 寒太の怒鳴り声で、真玄はハッと我に返る。そして、寒太の話に耳を傾ける。


「その人物、火薬を盗んだのだろう? もし爆弾魔だとすると、そこから爆弾を作る時間が必要なはずだ。すぐさまどこかに爆弾を仕掛けるとは考えにくい」


「あっ……確かに」


「何度も言っていると思うが、お前は先を急ぎすぎる。そのせいで、周りが見えていない」


「……」


 寒太の言うことはもっともだ。思い返せば、少し考えれば分かることを、ここ数日何度も指摘されている。

 真玄は一度大きく深呼吸をし、息を整えてから続けた。


「……じゃあ、ひとまずファミレスに向かうよ」


「こちらも準備をしておく。もし向かう途中で見つけても、深追いはするな。ひとまず連絡をしてくれ」


「分かった」


 電話を切ると、真玄は方向を変え、いつものファミレスへと向かった。


「落ち着け……か。沙羅ちゃんにも、そんなこと言われたな」


 自転車をこぎながら、今までのことを振り返る。誰かを助けたいと思いながらも、実際のところきちんと助けられてはいない。結局、怖い思いをさせて残酷な場面を見せてしまうだけだった。


「落ち着け。時間はあるはず。クロミナもアマミヤも言っていたじゃないか。そのまま過ごしても元の世界に戻れる。無理に動く必要はない。無理に動く必要は……」


 必死に自分を押さえながら、しかしペダルをこぐ足には力が入る。気が付けば、見慣れたファミレスが目の前にあった。

 自転車を停めて中に入るが、さすがに誰もいない。適当につまめるものを注文し、ウーロン茶をコップ一杯のどに流し込む。涼しい店内とも相まって、熱が一気に冷めていく気がした。


「……少しは落ち着いたかな」


 四人席に座ると、真玄は寒太達が来るのを静かに待った。


 ****


「そのまま探し回らなくてよかったね。今一人で走り回ってたら大変なことになってたよ」


 太地はジュースを飲みながら、窓の外を見る。なんとか降らずに持っていた曇り空も、とうとう我慢しきれなかったように土砂降りとなった。ザーザーという音が、締め切った店内にも聞こえてくる。


「毎回そうだが、一人で動こうとするな。何か起きた時には手遅れになる。一度僕らに相談することだ」


 ホットコーヒーを飲みながら、寒太は不機嫌そうに真玄を諭した。真玄はその言葉が胸に響いたのか、少しうつむき加減でつぶやく。


「ごめん……少し先走った」


「……? 今日はやけに聞き訳がいいな。何かあったのか?」


 思わずコーヒーを飲む手が止まり、寒太は真玄に尋ねた。真玄は首を横に振る。


「いや……今までのことを考えてみたら、いつもそうだったから。何度も言われたのにね。ははは」


「……分かってくれればそれでいいが……その行動力だけは、少し見習いたいところではある」


 寒太は語尾を濁らせながらつぶやくと、カップを置いて腕を組んだ。


「さて……電話での話だが、今はどういう状況だ?」


「どういう状況、と言われても電話で話した通りだよ」


 偶然通りかかった廃工場の中に入り、コノルーに出会った。そして、別の人影を追ったものの、どこかに消えてしまう。その後クロミナに出会い、逃げた相手が犯罪者予備軍だと知る。真玄はおおよそ起こった出来事を、事情の知らない太地にも分かるように説明した。


「ふぅん、なるほどね。ってことは、そいつは何かを盗んだってだけで、爆弾魔とは限らないってことだよね?」


「え、いや、犯罪者予備軍なのは分かっているし、それに……」


「マクロ君、それはあくまで推測でしょ? 確かに花火工場だったら、火薬は残っているだろうし、犯罪者が火薬を使うとすれば、爆弾を作るためだと想像できる。でも、実際にそうなのかは分からないよね?」


「ま、まあ、確かに……」


 太地の話を聞いて、真玄は考え直すことにした。確定していることは、犯罪者予備軍が工場にいたことくらいしかない。


「白崎の話から察するに、クロミナ達に聞いても話してくれなさそうだな。それに、クロミナの言う通り、爆破されたからといって人的被害があるとは限らない。そもそもこの世界がどうなろうが、僕達には関係ないことだ。何か起こった後に動いても問題ないだろう」


「で、でもさ……」


「万が一……か? 確かにそいつが動き出す前に捕まえられればそれでいいが……何か案があるのか?」


「うっ、そ、それは……」


 手がかりは何もない。真玄は犯罪者予備軍の場所を突き止める方法を考えるものの、名案は浮かばなかった。


「……特に爆弾魔についての情報もないね。一応、爆弾魔がいるかもしれないってことは流したけど、いい反応は得られそうにないね」


 スマホをいじりながら、太地は「フレンドシーカー」の情報を確認する。非リア充たちの書き込みはあるものの、動きはないようだ。


「桜宮、事前に連絡が取れる人間に避難を促すことは可能か?」


「難しいだろうね。そんなのがうろついているなら外に出たくないだろうし、そもそも僕の言うことを信じてくれるかどうか」


「それはそうか……やはり、何か起こるまで待つしかなさそうだ」


 太地も「そうだね」と言って寒太の意見に賛成した。真玄だけは、納得がいかない表情を見せる。


「……別に探してもいいのだが、さすがに手がかりがない以上効率が悪い。それに、今回は今までみたいに偶然現場に居合わせなくとも、爆発が起これば目立つからな」


「もっとも、こんな土砂降りの日に爆弾を仕掛けるかは疑問だけどね。今のうちに、体を休めておいた方がよさそうだね」


「ずっと体を休めているのにか? まあ、何も起こらないならそれが一番だ。僕も、ルナちゃんの活躍をじっくり鑑賞することができる」


「あ、寒太君、魔法少女ルナティック、見てるんだ。なんだかイメージ湧かないね」


「二次元は芸術だ。それが分からない人間がどうもかわいそうに思えてね」


 キュッと眼鏡を上げながら、寒太は得意げに語る。恰好をつけても、言っていることはオタクっぽい。


「……それにしても、今回は妙だな。案内人がコノルーだからか……それにしても……」


「……? 寒太、何か気になることでも?」


 険しい表情をする寒太に、思わず真玄が尋ねる。


「いや、大したことではない。理由を追及するまでもなさそうだ」


 そう言うと、寒太はコーヒーを飲み干し、立ち上がった。


「さて、雨も小降りになったことだし、僕は帰らせてもらう。まだまだあっちの世界に浸り足りないのでね」


「いいなぁ、寒太君、今度DVD貸してよ」


「……あんまり見せたくないのだが……そのうち持って来るとしよう」


 そう言うと、寒太は店の出口へ向かった。窓の外を見ると、いつの間にか雨が小降りになっていた。

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