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EP1:推理過程

 翌日、真玄と寒太は再びクオンの元に向かった。太地は家でやることがあると言ってついてきていない。

 クオンの要求通り、弁当やお菓子といった食料をそろえ、事務所に向かう。ドアを開けると、ひんやりとした空気がほてった体を冷やしていく。


「待ってたよ……あれ、今日は一人足りないようだけど?」


「桜宮は用事があるとかで来ていない」


 寒太が「ほら」と食糧が入ったビニール袋をクオンに手渡すと、クオンは「どうも」と言って受け取り、テーブルに並べた。

 そのまま奥の部屋に引っ込むと、「お茶でいいよね」と声が聞こえてきたが、真玄たちは特に返事をしない。

 ソファに座ったものの、真玄は落ち着かない様子で周りを見渡す。不意に「どうぞ」という声が聞こえ、真玄は思わずクオンの方を見た。


「さて、協力する、とは言ったものの、どんな情報をくれるんだい?」


 クオンが足を組んでソファに座ると、寒太が持ってきたカバンから資料を取りだした。


「ひとまず僕たちが知っている情報をまとめてある。話すよりこれを読んだ方が早いだろう」


 そう言って、寒太は資料をクオンに手渡す。クオンが資料を読む間、寒太は出されたお茶をすすりながらクオンの様子を見ていた。

 クオンは資料を読みながら、「なるほど」や「ほうほう」といったことを口にする。


「……つまり、この世界は僕が知っている世界とそっくりな場所で、リア充を爆発させる実験をしている。そのために、三種類の人間が呼び出されている、と」


「簡単に言えばそうだな」


「で、犯罪者予備軍と呼ばれている奴らは、何かしら罪を犯した後に爆発している……なんだか、信じられないことだねぇ」


「なんなら、爆発した人間の写真でも見るか?」


「いや、遠慮しておくよ」


 寒太がスマホを取りだそうとすると、クオンは右手を出して止めた。


「それにしても、何でこんなことしてるんだろうね。わざわざこんな大がかりな場所まで準備してさ」


 クオンは資料をテーブルに投げ出し、袋菓子を一つ開ける。


「目的は分からないが、実験というからには何かの結果を求めているはずだ。一体それが何なのか……」


「リア充になったら爆発する、っていう?」


「そうだ。リア充に恨みでもあるのだろうか?」


「それもあるだろうけど、多分ゆがんだ正義感とか、そういうのじゃない?」


「ゆがんだ正義感?」


 クオンはお菓子をつまみながら「そう」と答える。


「人間って、自分の考えの下で物事を動かしたいっていう思いがあるんだよ。思い通りにならないとストレスになる。普通は周りとの協調性や空気、そのあとのことなんかを考えて行動するわけだけど、そんなこと考えずに自分の考えを押し通そうって思うのがゆがんだ正義感」


「なんとなく分かる。自分の考えこそ正義、という人間は多いからな」


「多分そういうことなんでしょ」


 不意に、エアコンの起動音が小さくなった気がした。半袖だと少し肌寒いと感じるほど、室温が低くなったからだろうか。


「えっと……この世界を作った人が、リア充が全滅すれば平和になれる、とか思ってるってこと?」


「うーん、真玄君、大体合ってるけど少し違うかなぁ」


 お菓子を食べるクオンにそう言われ、真玄は思わず「え?」と口にしてしまう。


「だってさ、こんな大掛かりな街って、人間ができるとは思わないでしょ? 人間だったら化け物か何かだよ」


「た、確かに……」


「僕はこの世界を作ったのが、人間の能力を超えた何者か、だと思うんだよね。そいつらが、今回の実験をやっているんだと思うよ」


 人間が現実世界とそっくりな別の世界を作ったとは考えにくい。作れるとしたら、人間の文明を超えた何者かだろう。クオンはそう主張する。


「確かにその通りだが、さてすべてがそいつらの仕業なのだろうか?」


 クオンの言い分に対し、寒太が疑問を投げかけた。


「確かに、こんな街を短期間で人間が作るとは考えにくい。それに、現実世界からこの世界に移動させるのもまず不可能だ」


「そうそう、ここに連れてくるのも容易じゃないと思うよ」


「しかし、もしもお前がいう、ゆがんだ正義感というものが動機なら、実験そのものは別の人間がやっていると思わないか?」


「なるほど、それはそうだね」


 寒太とクオンは話を続けるが、真玄はそれを聞いて首をかしげた。


「えっと……つまり、どういうこと?」


「この世界を作った者と実験をしている者が別々の可能性がある、ということだ」


 寒太が簡潔にまとめると、ようやく理解できたのか、真玄は「なるほど」と返した。


「……で、そんなことを考えたところで、この世界から脱出する方法なんて思いつかないでしょ」


 クオンは一度席を立ち、お茶を入れ直しに別室に向かった。そのクオンに向かって寒太は「さて、それはどうかな」と反論する。


「寒太、何か方法を思いついたのか?」


「いや、そういうわけじゃない。しかし、こういう考えを積み重ねていけば、いつか脱出方法が分かるはずだ」


「考えを積み重ねれば……ね」


 クオンが戻ってくると、残りが少なくなった寒太の湯のみにお茶を注ぐ。そして、ソファに座り直して自分の湯のみにもお茶を注いだ。


「僕の考えとしては、方法があるとすれば、街を作った側に鍵があると思うんだよね」


「そうだな。これだけの街を作れる能力があるなら、人をこの世界に呼ぶ能力もありそうだ」


 寒太の話を聞き、真玄ははっととある考えがよぎった。


「じゃ、じゃあ、もし元の世界に戻れるとすれば……」


「白崎の考えは、恐らく当たっている」


 そう言うと、寒太はお茶を口にして間を取る。


「……元の世界に戻れるかどうか、それは恐らくアマミヤやクロミナ……案内人に鍵がある。そう考えていいだろう」

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