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EP4:太地の見解

 アルバイトから戻った真玄は、これからどうするかを自分の部屋で考えることにした。

 クーラーを効かせ、パソコンの電源を入れると、とりあえず「フレンドシーカー」を見てみる。目新しい情報は無く、それどころか活動している人もほとんどいないようだ。


「さて……これからどうするかな」


 太地と寒太は家で調査、知美はクオンを追ってどこかに行ってしまった。沙羅はあの様子では協力してくれないだろうし、麻衣はあまり頼りにならない。


「……千草さんなら大丈夫かな」


 ふと猫丸千草のことが思い浮かんだ真玄は、早速電話を掛けてみることにした。数コールの後、『もしもし』と電話がつながる。


「あ、千草さん、今いいですか?」


『あら、どうしたのかしら?』


「珠子さんのことで相談なんでけど」


 真玄がそう言うと、千草は黙ったまま返事を返さない。


「……千草さん?」


『放っておけばいいんじゃないかしら? 珠子さんだって、何か考えがあるかもしれないわけだし』


「でも、絶対クオンに騙されてますって! 早く助けなきゃ」


『どうしてかしら? そもそも、本当にクオンっていう人は、珠子さんを騙そうとしているのかしら?』


「え?」


 千草の思わぬ言葉に、真玄は思わず聞き返す。


『私は真玄君のことを信頼しているからいいけれど、真玄君のやっていることは本当に正しいのかしら? 逆に、クオンっていう人の方が正しくて、真玄君のやっていることが間違っているっていう可能性は無いかしら?』


「そんなわけないじゃないですか。俺はこの世界からみんなを助けたくて……」


『それよ。全員が全員、元の世界に戻りたいと思っているか分からないでしょ? 自分しか見えていない人間は、どうしても自分の考えを押し付けてしまう。違うかしら?』


「うぅ……」


 千草の指摘に、真玄は言葉が出ない。


『真玄君、人には人それぞれの考えや正義があるの。そういう考えを押し付けられるのは、気分がいいものではないわ。だから、少し落ち着いた方がいいと思うのだけれど』


「……」


『じゃあ、私は仕事があるから、この辺で切るわね。私にできることがあれば協力するけれど、焦りは禁物よ』


 ツー、ツーという音が鳴り響く中、真玄はただ唖然とするだけだった。


「人それぞれの正義、か。確かにそうかもしれないな」


 仰向けになりながら、真玄はもう一度この世界について考え直すことにした。

 たしかに、この世界……「試験世界」は、非リア充にとっては天国のような場所だ。

 何もしなくてもお金は支給されるし、ネット注文で外に出歩かなくても何でも手に入る。インターネットもつなぎ放題だし、食べ物だって好きなものを食べられる。


「……もしかしたら、この世界から元の世界に戻ろうっていうのが間違っているのかもな」


 現実世界こそが、自分たちの生きる世界。この世界は、リア充になれば爆発するから危ない。

 そうじゃない。要するに、「リア充にならなければ楽園」なのだ。何故わざわざ現実世界に戻る必要があるのだろう?

 もう何が正しいのか分からない。涼しい室内で天井を見ながら、真玄はうとうとし始めた。


 どれくらい時間が経ったのか分からないが、ふとスマホの着信音で真玄は目が覚めた。画面を見ると、太地からのようだ。


「もしもし、どうした?」


『あ、マクロ君? 今フレンドシーカー見てたら、妙なことに気が付いたんだけど』


「妙なこと?」


 真玄は体を起こすと、パソコンでフレンドシーカーのマイページを開く。


『前、プリペイドカードがいくらでも使えるっていう話をしたよね。それで、二十万ほどオーバーして使った人がいるっていうことも』


「それがどうかしたか?」


『実は、ここ数日、その人がログインしていないみたいなんだ。それまでは毎日のようにログインして日記を書いたり、掲示板に書き込みをしてたのに』


「しばらく休もうと思っただけじゃないの?」


『果たしてそうなのかな?』


 真玄はフレンドシーカーのページを見ながら、「どうして?」と尋ねる。


『ここにいる人たちって、もはやネット中毒と言っても過言ではないほどのめり込んでる人ばかりでしょ? なのにSNSをしないで一体何をやるっていうのさ?』


「ゲームか何かにはまってるんじゃないのか?


『それだったらゲームの実況を書いてるはずだよ。それも無いってことは……』


「……あまり考えたくないな」


 プリペイドカードは「前払い」により使えるようになるカードだ。普通は入金した額以上は使えない。

 にもかかわらず、入金した額以上の買い物ができるということは、それによるペナルティがあっても不思議ではない。


『単なる可能性の話だけどね』


「とにかく、プリペイドカードは残高以上に使わないほうがよさそうだ」


『僕は大丈夫だよ。マクロ君も、アルバイトしているから大丈夫だよね』


「まあ……」


 太地は『お互い気をつけておこうね』と言うと、そのまま電話を切ってしまった。

 よくよく考えると、プリペイドカードの残高なんて考えたこともなかった。電話を切ると、真玄は早速残高を調べることにした。プリペイドカードの裏側を見ると、残高照会のやり方が書いてある。


「えっと……このサイトにつないで、プリペイドカードをかざして……」


 残高照会は意外にもパソコンで簡単にできた。元々無駄遣いはしない性格であり、アルバイトの甲斐もあって随分と残高が残っている。


「へぇ……一日五千円って、バカにならないな」


 そう考えると随分と気前がいいものだ、と思いながら、真玄はパソコンを閉じて仰向けになった。


「このままこの世界にいるのもいいかもな……もしかしたら、その方が……」


 静かに目を閉じると、真玄はそのまま眠りについた。心地よいクーラーの風が真玄のシャツを揺らした。

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