EP1:お願いごと
カーテンで光を遮った暗い自室で、芹井寒太は一人パソコンに向かっていた。薄暗い室内には、カタカタというキーボードを叩く音だけが響き渡る。
整然と片付けられた部屋の壁にはアニメのポスターが貼られ、本棚には多くの漫画が並べられている。
しかし、フィギュアや人形のような立体的なものは置いていない。寒太は、「二次元は二次元上にいるからすばらしい」という理由で、そういうものは買わないのだ。
「あぁ……やっぱりルナちゃんはこの角度がいいわ……」
パソコンで見ていたのは、寒太が好きなアニメのファンサイトだ。ここで時々掲示板に書き込んだり、情報を集めたりしている。
しばらくそのページを眺めていたが、静寂を切り裂くかのように寒太の携帯の着信音が鳴り響いた。
「ん……誰だ、こんな時に」
画面を見ると、そこには「本頭沙羅」の文字が見えた。それを確認すると、寒太は携帯を手に取る。
「本頭か。どうした?」
『カンタ、ちょっと二人で話がある。いつものファミレスに来て』
「話? 一体何の……」
寒太が言い終わるのを待たず、通話が切れてしまった。
「……一体何の話があるというのだ?」
仕方なく寒太はパソコンの電源を落とすと、出かける準備をした。
噴き出る汗をハンカチでぬぐいながら入ると、店の中では既に本頭沙羅がいつもの席に座っていた。待っている間暇だったのか、フライドポテトをつまみながらジュースを飲んでいる。
「本頭、話って何だ?」
マークシートに注文するメニューを書きこみながら、寒太は沙羅に問いかける。
「ちょっと、考えていることがあって」
「考えていること?」
「実は……」
寒太が注文を終えると、沙羅は寒太に自分の計画を話し始めた。二人しかいない店内には静かにクラシックが流れる。注文したメニューが来たのも構わず、寒太は沙羅の話に耳を傾け続けた。
「……それは、本当に一人で大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫、一人で平気。それに、本当にまずくなったら、すぐに連絡入れる」
「本当にまずいときは連絡なんてしていられないと思うがな」
「……とにかく、このことはマクロたちには秘密にしておいて欲しい。でないと、マクロ、私を止めようとする」
「まあ、確かに、こんなことを聞いたら、白崎なら止めにかかるだろうな。しかし、無理はするんじゃない」
「わかってる。私を信じて」
「信じるも何もな……やりたければやればいい。どうせ何もしなければ、あいつらの思うつぼだからな」
「カンタは話が早くて助かる」
そう言うと、沙羅は席を立った。
「……? なんだ、もう行くのか? まだ残ってるぞ?」
「残りは、カンタが食べて」
沙羅は最後に残ったジュースを飲み干すと、店を後にした。
「……大丈夫なのか?」
寒太は沙羅の出ていった後を見ながらつぶやく。そして、やってきたパンケーキを手に取ると、コーヒーと共に食べ始めた。




