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EP-EX2:十条麻衣の日本地図

 今回の話は本文とは関係ない、いわゆる外伝とか、サイドストーリーとかいうものです。

 ちょうど十条麻衣のモデルとなった十帖さんが誕生日だったので書いてみました。

 真玄がアルバイトを終えると、太地から電話がかかってきた。


「今からファミレスで一緒にごはん食べない? カンタとマイちゃんもいるから」


「うん、わかった。今終わったところだから、これから向かうよ」


 電話を切ると、真玄は片付けと戸締りをして、バイト先のコンビニから出た。

 幾分涼しくはなったものの、自転車をこいでいるとどんどんと暑くなってくる。夕方に吹く風はぬるいが、それでも汗に濡れた身体には心地よい。

 ファミレスに着いて中に入ると、入店音とともに寒いと思えるほど涼しい風が吹き抜けていく。


「あ、マクロンこっちこっち!」


 麻衣の声が、店内中に響き渡る。その声の方を向くと、既に寒太と太地、そして麻衣が席を取っていた。

 真玄は寒太の隣に座ると、マークシートとメニューを取りだし、注文をする。そしてドリンクバーからジュースを持ってきた。

 既にテーブルには、それぞれが注文していたメニューが並んでいる。真玄は自分のメニューが来るまでの間、みんなで食べていたフライドポテトとサラダをつまむことにした。


「そういえば、この世界って台風とか来ないのかな。ずっといい天気みたいだけど」


 太地がハンバーグを食べながら、ポツリと漏らす。真玄は窓から外を見ながら、「そういえばそうだね」と返した。


「あまり雨が降った記憶が無いな……一回だけ降ったかな。もっとも、この世界は元の世界を模倣して作られたものだ。天気なんて考えていないのだろう」


「でも、雨降らないと水不足になっちゃうよ? 今年は結構暑かったから、心配だよね」


「そんなことか。ファミレスの片付けすら勝手にやってくれるのだから、水不足くらい自動でどうにかしてくれるのだろう」


「それもなんか味気ないなぁ。カンタはいろんなことに興味を持たないと、いざ出会ったときに苦労するよ?」


「僕は三次元の出会いに興味はない。あるのは二次元の女だけだ」


 そう言うと、寒太はコーヒーを口に流し込んだ。


「まあでも、台風なんかが来たら来たで大変だよね。特に沖縄や九州なんて被害がすごいってよく聞くし」


「去年は土砂崩れがあちこちで起こったらしいからね。結構死者も多いし」


「そうそう、なんでもかんでも飛んできて危ないし、家にいても窓ガラスに瓦が飛んできて割れることもあるからね」


 いつの間にか台風会話になったテーブルで、麻衣は真玄と太地の顔を交互に見ていた。


「えっと、九州って沖縄の下にあるんだっけ?」


 麻衣の言葉を聞いて、三人は思わずあっけにとられた。真玄は手にしていたポテトを落とし、太地はフォークを皿の上に落とし、寒太はコーヒーでむせた。


「え、え、私、今おかしいこと言った?」


 ぽかんとしている三人に、麻衣はのんきに尋ねる。


「もしかして、マイちゃん、地理が苦手?」


 太地は麻衣の顔色をうかがいながら尋ねた。


「そ、そんなことないわよ! ただ、い、いまさら都道府県四十八個が言えないかもって心配になってきたけど……」


 それを聞いて寒太が、落ち着くために飲んでいた水を噴き出しそうになった。


「……十条、とりあえず、行ったことある所を言ってみろ」


「えっと、私実家が兵庫県だから、兵庫には行ったことあるよ」


「なるほど。じゃあ、兵庫県の隣の都道府県は何がある?」


「え……兵庫の隣は大阪と京都じゃないの? 他にあるの?」


「いや、反対側はどうした」


「は、反対側……? 逆サイドはたしか、全部三重県だったはず……」


 寒太が真顔になる反対側で、太地と真玄は笑いをこらえるのに必死だ。


「マイちゃん、三重県は近畿地方だよ?」


「え、あれ? おかしいな。この前覚えたはずなのにおっとさんの三重が移動してる」


「おっとさんって誰よ?」


「あ、おっとさんっていうのは、私の知り合いの女子大生なの。いや、それはいいんだけどさぁ、三重ってどこらへんよ?」


「三重県は愛知県の隣だよ」


「え、愛知の隣? 愛知欲張りすぎじゃない? 前にどっかも隣って言ってたじゃん」


「そ、そりゃ隣接してる県は多いから、愛知県は」


 太地が頭を抱えていると、隣で真玄がカバンからノートを取りだした。


「とりあえずさ、麻衣が思っている日本地図、描いてみようよ」


「あ、それいいね。やってみようやってみよう!」


「……大丈夫かな」


 乗り気な麻衣を不安に思いながら、真玄はノートを開いてボールペンを手にした。


「ふむ、なら僕から質問させてもらおう。日本で一番広い市である高山市がある岐阜県はどこだ?」


 寒太が麻衣に尋ねると、麻衣は「うーん」と言いながら腕を組んだ。


「えっと、たしか……ちゅうごくちほう?」


「違うぞ。岐阜県は近畿地方だ」


「えー? 岐阜県は広島の横だって、太地が前からずっと言ってんじゃん!」


「おい桜宮、お前は一体何を間違ったことを教えているんだ」


 のんびりハンバーグを食べている太地に対し、寒太が厳しい口調で言う。太地は思わずのどに肉を詰まらせそうになった。


「げほっ、げほっ、そ、そんなこと教えてないよ! マイちゃんもいい加減なことを言わないでよ」


「えー? おかしいなぁ。誰に教えてもらったんだろう」


 腕を組んで「うーん」と言いながら目をつぶっている麻衣だが、特に何も考えていなさそうだ。


「やれやれ、続けようか。さっきの問題は少し難しかったか。では、鳥取砂丘で有名な鳥取県はどこにある?」


「えっと……鳥取は前まで四国あたりだと思ってたんだよなぁ……」


「ほぉ……」


 言葉では感心しているように言うが、寒太は手が震えてコーヒーが飲めない。


「マイちゃん、四国は高知とか、そういう県があるところだよ。あとうどんが有名な……」


 太地が言いかけた時、麻衣は「あっ」と声を上げた。


「高知! 高知出身の友だちが四国って言ってた!」


「あ、高知は知ってるんだ。じゃあ他の県は?」


「え、えっと、高知と鳥取と……あとわかんない」


 四国なら知っているだろうという思惑が外れた太地は、思わずテーブルの上に上半身が倒れそうになった。


「ピンポイントに都道府県名言ってもわからないかもね。地方ごとに知っている都道府県名を言ってもらおうよ」


 そう言うと、真玄は適当に日本地図を書きだした。


「とりあえず、九州地方から行こうか」


「九州は福岡と大分しかわかんない……」


 真玄はとりあえず、日本地図の九州の所に、福岡と大分の文字を入れる。


「うーん、じゃあ東北地方は?」


「青森!」


「それから?」


「福井と秋田!」


「ほうほう、それから?」


 順当に東北地方の地図が埋まっていく。これは期待できそうだと真玄が思っていた時だった。


「山口!」


 真玄の手が止まった。


「どう? 結構知ってるでしょ? 東北と関西は自信ありますから!」


 あまりに自信ありげな顔に、真玄はどう反応すればいいのかわからない。


「え、えっと、じゃあ自信がある近畿地方行こうか」


「兵庫! 大阪! 京都! 奈良!!」


 麻衣の怒涛のラッシュに、真玄は慌てて地図に書き始める。


「うんうん、それから?」


「え?まだあるの? 淡路島は兵庫に含まれるでしょ?」


「え、うん、そうだね」


「あと何個あるの?」


「あと三県」


 真玄からヒントをもらうと、麻衣は再び「うーん」と考え始めた。


「じゃあ琵琶湖があるところ!」


「そこは何県?」


「えっと、しが! 滋賀県」


「おお、よく思い出したね」


 真玄が褒めると、麻衣は「ふふーん」と自慢げな顔をした。


「じゃああと二県は?」


「あとは愛知!」


「……褒めた俺がバカだった」


「困ったら愛知! 今日覚えた!」


 間違っているのに自慢げに語る麻衣と書きこんだ地図を見て、真玄は頭を抱えた。隣で太地はお腹を抱えてうずくまっている。


「えっと……とりあえず、今の所できた地図。なんかとんでもないことになってるけど」


 真玄はノートに描いた地図を、全員に見せる。太地は顔を背けて震えており、寒太は左手を額に当てて悩みこんだ。


「え……これが日本地図?」


「一応、麻衣の中での日本地図」


「え、ちょっと違うよ。奈良の位置が違うし、兵庫はもっと真ん中だと思ってたの」


「え?」


 間違っている地図に対して、真玄が正しく書き込んだ場所まで麻衣は指摘する。


「奈良はもっと遠くなの。あと岐阜はもっと横に長いの」


「え、いや、そもそもそこは岐阜じゃ……」


 かくしてとんでもない日本地図が出来上がったのだった。

 とりあえず、十帖さんごめんなさい(


 実はこの話は、ツイッターで実際にあったやりとりをもとにしています。ちなみに十条麻衣のセリフはほぼ十帖さんのつぶやきそのままです。


 ということでもう一度、十帖さんごめんなさい(汁

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