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EP4:ハイテクファミレス

 体育館には残っている四人以外は誰も居ない。薄暗い照明が、散乱したパイプ椅子と残っている人間を照らし出している。

 しゃべりだす時に反響するエコー音は、まるでマイクを持って話しているようだ。


「非リア充同盟、ねえ。まあいいか。それで、今後のことなのだが……」


「ちょっと待って」


 寒太が言いかけるが、真玄が制止した。


「こんなところじゃ何だし、どこか別のところにでも行こうよ」


「それもそうね。見たところ誰もいないけど、もしかしたら誰かが聞いているかもしれないし」


 麻衣が真玄に賛成すると、「さあさあ、早く行こうよ」と荷物を持って外に出ようとした。



 四人が玄関に向かうと、青色のジャケットを着た少年が、壁に寄り掛かって静かに出口の前に立っていた。


「あ、お前はアマミヤ!」


 真玄が声を掛けると、青色のジャケットを着た少年、アマミヤは大きく背伸びをした。


「えっと、君たちで最後かな? 待ちくたびれたんだけど」


 アマミヤはあくびをしながら、後ろ頭に手を組んで真玄たち迎えた。


「ん、こいつは?」


「なんだ、寒太たちは、こいつに連れてこられたんじゃないのか?」


「ああ、僕を案内したのはこいつじゃなかった。多分、何人か案内役がいるのだろう」


 寒太が指を差すのも構わず、アマミヤは真玄たちにあくびをしながら近づいてくる。


「案内人は、僕以外にもいるよ。さすがに、一人じゃあ全員を案内するのは厳しいから。それはどうでもいいんだけど」


 そういうと、アマミヤはジャケットの中をごそごそと探り、カードのようなものを取り出した。


「はい、これ。この世界で生活するためのプリペイドカード。一応、持っている紙幣や硬貨、商品券なんかも使えるけど、場所が限られてるし、銀行や郵便局なんかの口座は使えないから。一日五千円しかチャージされないから、計画的に使ってね。サインすれば他の人は使えないし、失くしたり使用できなくなったら、使用記録を確かめて新しいのを発行するから、心配しないで」


 アマミヤは四人にそれぞれ一枚ずつ、プリペイドカードを手渡しながら言った。


「じゃあ、また困ったことがあったら、僕たち案内人に聞きにおいで。この世界の生活のことなら、大抵は教えてあげるから」


 全員に手渡し終わると、アマミヤは後ろに振り返り、出口に向かった。


「お、おい、ちょっと待て、アマミヤ! リア充を爆発させるってどういうことだ? 目的は? どうやって爆発させるんだ?」


 真玄が次々と疑問を投げかけるが、アマミヤの足は止まらない。


「おい、待てよ!」


 真玄はアマミヤの後を追いかけたが、体育館から出ると、そこにアマミヤの姿はなかった。


 ****


 真玄たちは、体育館があった小学校から歩いて十分ほどのところにある、大通りのそばのファミレスに向かうことにした。

 途中にある公園の時計を見ると、時刻はどうやら午後六時過ぎのようだ。この時計がどのくらい正確なのかは不明だが、空が赤くなり始めたことから、大きくは狂っていないと思われる。

 太地と麻衣が「おなかすいた」と言っており、夕食の時間にちょうどいいので、話し合いの場所をファミレスに選択したのだ。


 元の世界と同じように、暗くなると街灯が一つ、また一つとつき始める。

 同じように、大通りのいくつかの飲食店やスーパーにも、ぽつぽつと明かりがつき始めた。

 ただ、普通の家やアパートの明かりはまったくついていない。そのせいで、街はいつもより暗く感じる。


 ファミレスに入ると、自動扉が開くと同時に、入店を示すチャイムが店内に鳴り響いた。この時間なら平日でもかなりの客がいるはずだが、今日は客一人いない。それどころか、普段なら店員が出てくるはずが、誰も出てこなかった。


「おかしいな……誰も出てこない」


「僕たちのほかに誰もいない、ということは、店員もいないってことじゃないか?」


 そういうと、寒太は店内を見渡し、一つの席に向かった。


「ここでいいだろう。窓から外の様子も見えるし」


「えー? 誰も居ないってことは、注文どうするのさぁ」


 麻衣が席につかずにブーブーと文句を言っていると、寒太が席に着いて、テーブルの上に重ねてある紙を一枚取り出した。

 

「これに注文を書くんだろ。ほら、マークシートになっていて、メニューと数量が書いてある。欲しいメニューと数量をマークして、そこにある読み取り機に入れれば、注文完了ってことだろう」


 寒太はそういうと、紙が置いてあった場所の近くにある、紙の差込口らしき穴を指さした。これが、注文用マークシートの読み取り機のようだ。


「へぇ、なんか、ハイテクねぇ」


 麻衣は寒太の向かい側の席に座ると、マークシートと差込口をまじまじと見つめた。


「マークシートって、ハイテクなのか?」


「さあ。でもこういうの、見たことないよな」


 寒太と麻衣に続き、真玄が寒太の隣に、太地が麻衣の隣に座った。


「あれ、でもドリンクメニューがないね。お酒はあるけど」


「ドリンクバーはタダじゃないの? ほら、あそこ」


 麻衣がレジの隣を指さすと、そこにはドリンクバーコーナーが設置されていた。「ドリンクバー」の看板の下には、「ドリンクはセルフサービス(無料)です」と書かれている。


「ふぅん、なるほど。じゃあ、とりあえず注文しようか」


 真玄たちはメニューを見ながら、マークシートの注文票に、それぞれ自分の食べたいものをマークしていった。



 ドリンクバーでジュースを取りに行き、しばらくこのファミレスの仕組みについて話していると、そう時間がかからずに最初のメニューがやってきた。

 このファミレスでは、注文時にプリペイドカードを差し込むことで、支払いまで完了させて注文する。一定の時間ならキャンセルも可能で、注文したシートの「キャンセル」にマークすれば、そのメニューの注文はキャンセルされる。

 座席の近くには料理運搬用の箱があり、出来た料理はそこから出てくる仕組みだ。客は、それを自分で取って机に運ぶ。


「これ、他の人のを取ったらどうなるんだろう?」


「その時は、何か警告があるんじゃないかな? よくわからないけど」


 それぞれ注文した料理を運ぶと、全員分がそろったところで全員が食べ始めた。

 太地と麻衣はよほどお腹が空いていたのか、全員で「いただきます」と言った直後にすごい勢いで箸やフォークとナイフを動かしていた。


「あ、焦らなくても、ごはんは逃げないから……」


 真玄が二人をなだめながらゆっくり箸を進める一方、寒太は静かにフォークでステーキを食べながら、「ファミレスのステーキも悪くない」などとつぶやいていた。



 結局、太地と麻衣は真玄と寒太が食べるのが遅いという理由で追加注文し、それもすべて平らげた頃に全員が食べ終わった。

 食べ終わった食器類は、料理が出てきた箱に入れ、「返却」のボタンを押すと扉が閉まる。これで片づけが終わりのようだ。

 テーブルの上にあった布巾でテーブルを拭き終わると、寒太が「さて」と声を上げた。


「これからのことだが、まずはわからないことが多すぎる」


「そうだね、まずはそれを整理しよう」


 真玄がそういうと、寒太は持っていた手提げかばんから、A4のノートとボールペンを取り出した。

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