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EP9:追放

 入ってきた姫束珠子は、真玄たちの姿を見て唖然としていた。一方の真玄たちも、珠子の姿を見て驚きの表情を見せる。


「えっと、初めまして、白崎から聞いています。僕は芹井寒太。僕たちは今日、風野のお父さんの手がかりを探すために、ここに来たのです」


 全員が立ち止っている中、寒太が珠子の対応をする。丁寧な口調に、誰もが意外だと感じた。


「風野……って、知美ちゃん?」


 珠子がそう言うと、知美が険しい顔で歩いて珠子のそばまで寄ってきた。


「あんたね、お父さんの邪魔をしている女は! あんたのせいで、お父さんは……」


 知美は胸ぐらをつかむ勢いで、珠子につっかかる。慌てて、近くにいた寒太が止めに入った。


「やめないか。今はこんなことをしている場合じゃ……」


 寒太がそう言うと、知美は下を向いて書斎から出て行ってしまった。


「知美!」


「待て、白崎」


 慌てて追いかけようとする真玄を、寒太が止める。しばらくして、玄関の方から、ガチャン、と乱暴にドアが閉まる音がした。


「知美ちゃん……」


「今はそっとしておきましょう。風野も、いろいろあって混乱気味ですから。それに、どうせこの世界には、僕たち以外誰もいない」


 珠子は出口を見ながら知美を心配するが、寒太は「風野なら心配いらない」と珠子を止めた。


「そういえば、珠子さんも知宏さんの手がかりを探しにここへ?」


 寒太に抑えられ、興奮気味だった真玄は、しばらくして落ち着くと珠子に尋ねた。


「え、ええ。そんなところよ」


 落ち着かない様子で、珠子が答える。しかし、寒太は「いや、そうではないでしょ」と否定した。


「もし、姫束さんが風野の父……あなたの彼氏の手がかりを探すとしたら、この世界に最初に来た時真っ先にここに来るはずです。おそらく、もう既にめぼしいところは探し終わり、見つからなかったからここに戻ってきたのでしょう。あるいは、彼が戻ってくることを期待して、ここを拠点としているか……」


 寒太が自分の推理を言い終わると、珠子は深いため息をついた。


「鋭い子ね。私は彼が戻ってこないか、時々ここに来て泊まっているの。一応、合い鍵は預かっているし、出入りも自由にしていいって言われているし」


 なるほど、と寒太は頷く。それを見て、珠子はふと思い出したように言った。


「それよりも、あなたたちはここで一体何をしているの? 知宏さんのことは、あなたたちに関係ないでしょ?」


 力強い珠子の声が、部屋の中にいた全員を震え上がらせる。そんな中、十条麻衣が、資料を片手に珠子の前まで近づき、その資料を差し出しながら言った。


「あなたの彼氏を探しているんじゃないの。トモミちゃんのお父さんの手がかりを探しているの。今トモミちゃんに協力してもらって、やっと手がかりになりそうなものを見つけたの」


「これは……」


 珠子は資料を手に取ると、表紙のページをめくった。最初のページで少し手が止まった後、徐々にめくるスピードが速くなって行く。

 最後までめくると、パタンと閉じて自分のハンドバッグにしまいこんだ。


「これは、知宏さんの仕事の資料ね。私にとっては手がかりになるけど、あなたたちには関係ないわ」


「え、ちょ、ちょっと、何してるのよ! 私たちにも関係が……」


「この資料を読んでも、あなたたちには分からないわ。とにかく、これは私が預かっておくから、あなたたちはここから出ていって」


「そんな、だってそれは私たちが……」


 必死に食い下がる麻衣だが、珠子は聞く耳を持ちそうにない。


「まあまあ、そんなこと言わないで。せっかくここで出会えたんだから仲良くしましょうよ。出会いは大切にしないと」


 後ろから太地が声を掛けるが、それを聞いて珠子は突然地団太を踏み始めた。


「きぃぃぃぃ! 私はあんたみたいな出会い厨が嫌いなのよ! 早く出ていって! 今すぐ!」


「で、出会い厨って、そんなぁ……」


 何故か落ち込む太地をよそに、珠子の怒りは収まりそうにない。


「……みんな、今日はひとまず帰ろう。片付けは、しておいた」


 その様子を見て、沙羅は全員に向かって言った。


「で、でも……」


「今のタマコ、話が通じない。一旦、出直した方がいい」


 そう言うと、沙羅は真玄の服の袖をクイッと引っ張った。寒太は沙羅の言葉を聞き、「仕方ない」と一足に外に出る。太地と麻衣も、やや不服そうな顔をしながら寒太の後について出ていった。最後に、沙羅と真玄が、珠子に一礼して書斎の外に出ていった。



「どうして急に出ていこうとしたのさ?」


 照り返す強い日差しの中、真玄は沙羅に尋ねた。


「ああなってしまった人、何を言っても無駄。大体、経験してるからわかる。それに、あの資料が手がかりになる保証もない。無理して取り返す必要もない」


「でも、せっかく見つけた手がかりだったのに……」


 真玄は、ようやく手に入れた資料を手放さざるを得なかった状況に、がっくりと肩を落とした。目の前を歩いている太地は、別のことで落ち込んでいるようで、麻衣が肩をたたきながら声を掛けている。


「この世界、結局のところ私たちしか人がいない。頼る人がいなければ、最終的に私たちを頼ることになる。その時に、取り戻せばいい。この世界に、制限時間はない。焦る必要はない」


「確かにそうだけど……」


「もう一つ、あの資料よりも、手がかりになりそうなもの、見つけた」


 沙羅はそう言うと、突然胸元からレターセットによくある封筒を取りだした。


「これは……手紙?」


「裏、見て」


 沙羅から封筒を渡されると、真玄はそれをひっくり返した。右下の角に、「知美へ」と書かれてある。


「これ……知美の父さんから知美にあてた手紙だ!」


 それを聞き、歩いていた寒太や太地、麻衣の足が止まる。そして、慌てて真玄の元へ駆け寄ってきた。


「え、トモミちゃんへの手紙? 何が書いてあるの?」


 麻衣が真玄から手紙を奪う。レターセットに入っていたものらしいシールで封がされているが、開けた跡は見られない。


「十条、それは風野の父さんから風野にあてたものだろう。まずは風野に渡すのが筋じゃないのか?」


「あ、それもそうか。じゃあ、トモミちゃんにみんなで渡しに行こうよ」


 そう言うと、麻衣はさっさと走っていってしまった。


「ま、待ってよ麻衣ちゃん。知美ちゃんがどこにいるのか、わかってるの?」


 慌てて太地が追いかける。麻衣は「大体予想できる」と、足を止める様子を見せない。


「こういう時は、一人になれる場所に行くと思うんだ。といっても、どこに行っても一人にはなれると思うけど。トモミちゃんの家は少し遠いし、ここからだと……多分あそこ」


 十字路に差し掛かったところで、麻衣は左方向を指さしながら言った。


「あの公園。多分、ブランコかすべり台に座って、今日のことでも思い出してるんじゃない?」


 麻衣は全員の返信を待たず、公園の方へと走っていった。


「たしかに、トモミ、公園にいる可能性、高い。とりあえず、行ってみよう」


「よーし、じゃあ知美ちゃんを見つけたら、みんなで昼ごはんだね!」


 太地に言われ、真玄と寒太、それに沙羅は空腹であることに気が付いた。

 空を見ると、太陽がかなり高い位置まで昇っている。スマホを見ると、午後十二時になろうとしているところだった。

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