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EP7:捜索理由

 その日の夜、真玄は全員をファミレスに集め、知美の父親の話と今後の方針について話し合うことにした。

 時刻は午後七時。あたりはまだ明るいが、外は既に街灯がポツリポツリと灯り始めていた。

 集まったのは真玄の他には芹井寒太、桜宮太地、十条麻衣、本頭沙羅、そして風野知美の六人だった。猫丸千草は、仕事の関係で集まれないとのことだ。

 適当にメニューを注文し、ドリンクバーからそれぞれジュースを取って席に着くと、寒太が話を切り出した。


「それで白崎、今後についてとのことだが?」


 真玄はドリンクバーで取ってきたウーロン茶で口を潤すと、寒太の質問に答える。


「珠子さんや知美からいろいろ話を聞いて、まずは知美のお父さんを探そうと思うんだ」


「風野の父親を? どうしてだ?」


「珠子さんから聞いたんだけど」


 真玄が言いかけると、メニューボックスから出来上がりを示す通知音が聞こえてきた。その中に入っていたセットメニューのミニサラダ三つを、近くにいた太地がテーブルに運ぶ。


「知美のお父さん、知宏さんは、『リゲルズ・サーバー』っていうシステムを作っているらしいんだ。知美の話だと、患者の病状や個人情報を管理するシステムらしいんだけど、それを多くの企業が狙ってるらしい」


「ほう。それで?」


「もしかしたら、そのシステムが、試験世界やリア充が爆発することと何か関係しているんじゃないかと思ったんだ。だから、まずは知美のお父さんを探さないか?」


 真玄の話を聞き、隣で寒太はため息をついた。


「僕には理解できないな。どうしてその、風野の父親が作ったシステムが、今回の件と関係あると考えたんだ?」


「それは……」


 真玄が言葉を詰まらせていると、さらに寒太は続ける。


「それに、風野の父親はどこにいるのか、見当ついているのか? そもそも、この世界に来ているというのは分かっていることなのか?」


「……」


 寒太は一通り言い終わると、コーヒーカップを手に取りホットコーヒーを口にした。ちょうどメニューボックスにフライドポテトが運ばれてきたので、太地がそれをテーブルに移動させる。


「マクロ君、この世界から早く出たいって言うのはわかるし、女の子の助けになりたいって言うのもわかるよ。でも、もっと現実的なことやはっきりとした目的がないと、僕たち動けないよ?」


「そうそう、マクロンは焦りすぎだよ。でも、私もトモミちゃんの力になりたいって言うのはあるかな」


 フライドポテトをつまみながら、太地と麻衣が続けざまに言う。すると、ミニサラダを食べながらその会話のやりとりを聞いていた沙羅が、真ん中の席に座っている知美に声を掛けた。


「知美は、どうしたい? お父さん、探しに行きたくはない?」


 知美は黙ったまま、静かに頷く。


「確かに、この世界に父がいるなら、私は会いに行きたい。二カ月も前から行方不明だから」


「え、行方不明?」


 知美の言葉に、真玄は思わずウーロン茶を飲む手を止めた。


「あれ、真玄先輩には言ってませんでしたっけ。私、大学に入学してからはアパートを借りて、父とは別居しているんです。でも、二カ月前から父と連絡が取れないんです。実家に戻っても鍵がかかっていて、誰もいなくって。父が働く病院にも連絡して、警察にも届け出は出してるんですけれど、一向に見つからなくて……」


 思わぬ発言に、全員が食事の手を止め、知美の方を見る。


「え、と、トモミちゃん、それ、大事件じゃないの?」


「誘拐、あるいは拉致の可能性、ある」


 麻衣と沙羅が、立て続けに声を掛ける。特に麻衣の表情は、怖いものを見た時のように青ざめていた。


「でもさ、そんなに長い間行方不明なら、警察から何か言ってくるんじゃないの?」


 太地がそう言うと、再びメニューボックスにメニューが運ばれてきた。太地はそれぞれテーブルに運ぶと、最後に自分が頼んだオムライスをテーブルに置く。


「ええ。一週間ほど経っても何も連絡がなかったので、病院にも警察にも問い合わせをしてみました。でも、病院も警察も調査中だって言うばかりで……」


 徐々に弱々しくなる知美の声を聞きながら、寒太はふむ、と腕を組んで口を開いた。


「なるほど。病院がらみだけならまだしも、警察まで絡んでいるとなると、その新システムとやらに何かありそうだな。他の企業も狙っているくらいなのだから、よほど重要なものなのだろう」


「はい。父の話によると、使い方次第では莫大な利益を生むものだと」


「つまり、風野の父親は、そのシステムを狙っている企業の誰かに連れ去られた可能性が高い、と言うことだな。それも、父親が働いていた病院もグルなのだろう」


「え、どういうことですか?」


 ピンとこないのか、知美が寒太に尋ねる。


「病院だって、何日も無断欠勤が続けば何かしら連絡があるはずだし、娘の依頼があったのなら細かい状況の報告があってもいいはずだ。それが、こちらが聞くまで何も連絡がないとなるとますます怪しい。ならばシステムを狙う企業が病院側にいくらか報酬を払い、風野の父親のことを口封じしている、とは考えられないだろうか」


「そんな……」


 寒太の信じがたい仮定の話を聞き、知美の表情が青ざめる。

 少しの間沈黙が続いたが、「じゃあさ」と太地が口を開いた。


「知美ちゃんのお父さんの家を調べたらどうかな? その、なんたらサーバーっていうのがどういうのかわかるかもしれないじゃない?」


「リゲルズサーバー、ね。タイチにしてはいいこと言うじゃない?」


 太地の向かい側で、麻衣が茶化すように言った。


「僕だってたまにはね。それに、知美ちゃんのお父さんの書斎とか調べれば、居場所の手がかりも見つかるんじゃない?」


「そうだね。珠子さんとの関係も、何かつかめるかもしれない」


 真玄が「珠子」の名前を出すと、知美の表情が一段と暗くなる。それを見て、真玄は続ける。


「知美、珠子さんと知宏さん……君の父さんの関係をよく思っていないのはわかる。でも、今はこの世界から抜け出すこと、そしてもしかしたらこの世界にいるかもしれない、知宏さんを探すことが先だ。落ち込んでいる暇はないよ」


「……わかってますよ」


「よし、じゃあ決まりだ。明日の朝、集まれる人は知美のお父さんの家を捜索しよう。集合場所は、ここでいいかな」


 真玄がまとめようとすると、寒太がふぅ、とため息をつきながら組んでいた腕をほどき、両手を机についた。


「やれやれ。まあ、この世界から抜け出すための手がかりもないことだし、調べてみるだけ調べてみよう」


 寒太がそう言うと、太地が「よし」と声を挙げる。


「それじゃ、今日はしっかり体力つけておかないと。料理も冷めちゃうし、早く食べよう」


「……ごめん、私、もう食べあげた」


 沙羅は使い捨てのおしぼりで手を拭きながら言った。目の前にあったハンバーグの皿には、何も残っていない。


「え、いつの間に?」


「食べながら、みんなの話聴いてたら、いつの間にか」

 

「そ、そうなんだ……じゃあ、サラちゃんはデザートでも食べたら?」


「……そうする」


 そう言って麻衣にマークシートを渡されると、沙羅はチョコレートパフェにマークし、麻衣にプリペイドカードと共に手渡した。

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