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EP3:手がかり

 千草との食事を終え、真玄は自分の部屋へと戻った。バイトは無いので、いつも通りパソコンを立ち上げ、ネットで動画を楽しむ。

 しばらく遊んでいると、スマホの着信音が鳴った。真玄はテーブルの上に置いてあったスマホを取り、誰からの着信かを確認する。画面を見ると、「本頭沙羅」の名前があった。


「沙羅ちゃん? どうしたんだろう」


 そう言って真玄は通話ボタンを押す。


「もしもし、沙羅ちゃん、どうし……」


『こらマクロン、私たちに内緒で何やってるんだ!』


 真玄は思わず受話器から耳を離す。声の主は沙羅ではなく、十条麻衣のものであった。


「ま、麻衣かよ。何で沙羅ちゃんの携帯で話してるんだよ」


『マクロンが一人でおいしい物食べてるって話聞いて、悔しいからみんなで集まってるところなの』


「はい?」


 真玄は訳も分からず、麻衣に聞き返す。すると、「もしもし、私」と沙羅の声が聞こえてきた。


『千草から聞いた。真玄、千草と二人きりでごちそう食べてる。ずるい』


「え、千草さんから聞いたの?」


『うん。私、千草とあの喫茶店で、お茶しようと電話した。でも、今日は真玄とごはん食べるって、言ってた。あそこのレストラン、結構高い。真玄、ずるい』


「いや、ずるいって言われても……」


 真玄が言いかけると、「ちょっと、代わる」と沙羅の声がした。その後、「真玄先輩ですか?」と風野知美の声が聞こえてきた。


『真玄先輩、私とはデートも渋るくせに、猫丸さんとはそういうところに平気で行くんですか? ずるいです! 真玄先輩は、もっと私をいろんなところに連れていくべきなんです!』


「え、な、なんでそうなるんだよ。別に今日のはそういうのじゃなくて……」

 

 真玄が途中まで言うと、「代わります!」と言って知美から麻衣に代わった。


『まあそういうわけだから、マクロン早くこっちに来てな。場所はいつものファミレスね』


「え、ちょっと、麻衣?」


 真玄が何か言おうとしている間に、麻衣は電話を切ってしまった。


「ったく、何なんだよあいつら……」


 仕方なく、真玄はパソコンを切って出かける準備をした。


 ****


 時刻は午後六時半。まだ空は明るく、昼間と同じような青空が広がっている。

 しかし、この日は風がよく吹いているからか、いつもより少しだけ涼しく感じた。

 日中なら道路に逃げ水が見えそうなものだが、今はそんな地面の揺らぎもなく、夏にしては過ごしやすい気温だ。

 それでも、ファミレスの中に入ると、入店音と同時に流れ出ていく涼しい店内の空気に触れて心地よい。あたりを見回すと、麻衣が「こっちこっち」とばかりに真玄を手招きしていた。

 ため息をついて、真玄は麻衣たちの座っている席に向かう。ちょうど麻衣の隣が空いていたので、真玄はそこに座った。


「で、今日は何で俺、呼び出されたんだ?」


 マークシートにマークをしながら、真玄は麻衣に尋ねる。


「電話でも言った通り、怒れる女子たちによる女子会をやっていたの」


「何で俺が千草さんとごはん行ったくらいで怒られなきゃなんないのさ。それに、俺が入ったら女子会じゃなくなるだろ」


「まあまあ、細かいことは気にしなくていいんじゃない?」


 そう言うと、麻衣は真玄のマークシートとプリペイドカードを取り上げ、読み取り機に差し込んだ。


「真玄、さっき調べたけど、千草と行ったレストラン。ランチ、五千円もする。これ、プリペイドカード一日分の金額」


「そうですよ、真玄先輩。アルバイトで稼いで余裕があるなら、私たちにもおごるべきなんです!」


 沙羅と知美が、立て続けに真玄を責める。


「今日は千草さんに呼ばれたんだよ。この前のお礼がしたいからって」


「お礼? まさかマクロン、やらしいこととかしてないよなぁ?」


「なんだよやらしいことって」


 麻衣がニヤニヤして真玄を見ながら言った。メニューボックスの通知音が鳴り、注文したフライドポテトが出来たので、真玄はテーブルに並べる。即座に麻衣が「いただきっ」とポテトを食べ始めた。


「とにかく、今日は千草さんに呼ばれてレストランに行ったの。それで、食事をしただけ。それでいいだろ?」


「でも、真玄だけ、ずるい。今度みんなで、レストラン、行こう。もちろん、真玄のおごりで」


 沙羅は真玄を真正面で睨みつけながら、ストローでオレンジジュースをすすった。


「そうしようそうしよう。ついでに今日の支払いは、全部マクロンおごりね」


「だから何でそうなるんだよ。大体ここの支払いって言ったって、前払いだろ」


「あ、そうだった。てへっ」


「かわいくないぞ」


 舌を出して頭に手をやる麻衣に、真玄はため息をついた。



 女性陣がひとしきり落ち着いたところで、真玄は今日出会った女性、姫束珠子のことを話した。

 しかし、何故か話を進めるたびに、全員の顔が不機嫌になっていく。


「ほぅ、するとマクロンは、両手に華状態で、豪華なランチタイムを過ごしていたわけね」


「だからランチの話はやめろって。とにかく、珠子さんの彼氏さんを見つければ、もしかしたら俺たちの仲間になってくれるかもしれない」


「とは言ってもねぇ、いるかどうかもわからない人を探せと言われても……」


「手がかりはあるよ。珠子さんの連絡先は、千草さんがくすねた名刺からわかるし」


 真玄が話していると、話を聞いていた沙羅がぼそりと「千草、思ったより悪い人」とつぶやいた。


「それで先輩、手がかりっていうのは何ですか? どんな人かわからないと、私たち探しようがないじゃないですか」


「それなんだけど」


 知美にせかされ、真玄はかばんからロケットを取り出した。珠子が落としたものだ。


「この人らしいんだけど」


 ロケットの中身を開け、テーブルの真ん中に置いて写真を女性陣に見せる。すると、三人は身を乗り出して写真を見た。


「あら、歳はくってるけど、結構男前じゃん。私の好みかも」


「……なんか、近所の人に似てる」


 麻衣と沙羅がそれぞれ見た目の印象を口走る中、知美だけは何故か驚いたような顔をした。

 そしてロケットを手に取り、顔に近づけてよく見ると、目を見開いて震えはじめた。


「知美、どうした? もしかして、知っている人?」


 真玄が知美に尋ねると、知美は震えた口調でつぶやいた。


「お父さん……どうして……」


「え、父さんって?」


 真玄が聞くのが早いか、知美はロケットをテーブルに置くと、そのまま席を立って出口へ走っていった。


「ちょっと、知美!」


 真玄が止めようとするが、知美はそれを聞かず、ファミレスから出て行ってしまった。


「一体どういうことだ? 知美の父さんって……」


「……つまり、トモミちゃんの父さんは、珠子さんっていう人と不倫関係にあったってこと……になるの?」


 真玄と麻衣が自分の見解を述べようとするが、沙羅は首を振って止めた。


「事情は、わからない。でも、知美の様子、普通じゃなかった。今は一人にしておいた方がいい」


 それを聞いて、真玄と麻衣は「そうだね」とうなずいた。


「それに、人探しなら、寒太もいる。全員で探せば、何とかなるかもしれない。それと、珠子に話を聞いた方がいい。そっちの方が、多分早く見つかる」


「そうしよう。太地にも手伝わせないとな。どうせゲームばっかりやってるんだろうし」


「今から動くのは、遅い。寒太には連絡しておく。真玄は明日、珠子に話を聞きに行くといい」


 沙羅を中心に、今後の活動について話を進める。気が付くと、外は既に真っ暗になっていた。

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