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EP12:パーティー

 アマミヤが立ち去って十分ほど経った頃、連絡を受けた寒太がやってきた。

 真玄が千草に、寒太のことをを軽く紹介すると、寒太はすぐさま社員食堂の様子を見に行った。

 沙羅も一緒に社員食堂についていくと、真玄は外で千草と一緒に二人を待つことにした。


 寒太と沙羅が社員食堂を調べ始めて十五分ほどが経っただろうか。二人が社員食堂から、真玄たちのいる通路に戻ってきた。


「ほとんど、前回と変わらないな。場所と爆発した原因が違うくらいか」


 結局、寒太が調べた結果は沙羅が調べたことと変わりなく、あまり収穫はなかったようだ。


「真玄、アマミヤが言ってたこと、寒太に言わなくて、大丈夫?」


 沙羅の言葉を聞き、寒太が「ん?」と反応した。


「またあいつか。よくわからん奴だな」


「しかし、今回は重要なことを言っていたよ」


「そうか。ひとまず、一旦場所を移そう。ここにいない連中にも聞かせてやりたいしな」


 そういうと、寒太はエレベーターのボタンを押した。事務棟の三階にある社員食堂から、エレベーターを使って一階まで降りることができる。


「しかし、さすがに七人集まったらファミレスはもう狭いんじゃないか? テーブルをくっつければなんとかなるだろうけど……」


「そうだな……じゃあ、僕の兄の部屋を使おう」


「へ、お兄さん?」


 寒太の思わぬ言葉に、真玄は妙に高い声を出した。


「ああ。あのファミレスからさほど遠くないところに、僕の兄が住んでいるアパートがある。どうせ今は誰もいないだろうし、鍵ならいつでも行けるように僕も一本預かっている。それに、あそこはダイニングが無駄に広いから、これ以上人数が増えても大丈夫だろう」


「へぇ……でも、食べ物どうしよう。ファミレスと違って、何もないでしょ? 行く途中で買っていくしかないかな」


 真玄が考えていると、千草が「食べ物ならあるわよ」と後ろから声を掛けた。


「ほら、あなたたちにあげようと思った、アルバイト代。倉庫からいくつか見繕っておくから、それで十分じゃないかしら?」


「あ、そういえば、いい物をあげるとかなんとか」


「そういうことだから、食べ物に関しては心配しなくていいわ。あ、飲み物はなかったわね」


「飲み物ねぇ。じゃあ、太地達に集まる時に買ってくるように言おうかな」


 そう言っていると、エレベーターが昇ってきて、扉が開いた。



 事務棟を出ると、先ほどまでの温調が効いていた部屋からの寒暖差で、一気に汗が噴き出る。

 千草は途中で工場の方へと向かい、真玄、寒太、沙羅の三人はそのままバス停へと向かった。

 真玄たち三人がバス停に到着して数分後、ナイロン袋いっぱいに食品を詰めた千草がやってきた。


「え、そんなに貰っても大丈夫なんですか?」


「大丈夫よ。どうせ原価安いし、商品にならない不良品も混ざってるから、問題ないわ」


「不良品……大丈夫なんですか?」


「形が悪いとか、袋が破れてるとか、そういうのだから、味には問題ないわよ」


「そ、そうですか」


 真玄と千草が話していると、無人のバスがやってきた。全員が乗り込むと、バスの自動ドアはゆっくりと閉じてバスが発車した。



 国道を通るバスは、しばらくするといつものファミレスの少し手前にあるバス停で停車した。

 ファミレス前には、あらかじめ寒太が呼んでおいた桜宮太地、十条麻衣、風野知美が待っていた。太地の両手には、ペットボトルのジュースを入れた袋があり、少し辛そうである。

 三人と合流した真玄たちは、寒太の案内にそって、ファミレスの奥の道を歩いていく。五分ほど歩いていると、アパートがいくつも建っている団地に到着した。それらアパートの内の一つに入り階段を昇ると、三階に寒太の兄の部屋がある。


 寒太が部屋の鍵を開けると、中はまるで入居者募集中の部屋のようにがらんとしている。ただ、家具だけは置かれていた。

 1DKという間取りだが、ダイニングの広さは一人暮らしにするには不釣り合いなほど広い。寒太が言うには、「こういう部屋は人気がなくて家賃が安い」のだそうだ。

 ダイニングのど真ん中には、一人暮らしするにしては大きすぎる、八人ほどはゆうに座れるほどのテーブルと、椅子が十個並べらえれていた。「兄はよく友達を連れてきてパーティーをするから、大きいテーブルを買った」のだそうだ。


 太地たちがテーブルに買ってきたジュースと紙コップを並べる。同時に、真玄たちは電子レンジやコンロで、千草から貰ったレトルト食品や冷凍食品を温めた。

 棚にあった食器にそれらを盛り付けると、簡単なパーティーのごちそうが、テーブルに並んだ。


「さて、遅くなったけど、みんなに紹介しておくよ。喫茶店で会った猫丸千草さん。大手の食品メーカーで働いているんだ」


「初めまして、猫丸千草よ。千草って呼んでね。それにしてもみんな若いわね。この中だと……真玄君が最年長かしら」


 千草は座っているメンバーを一通り見ると、ふぅん、とつぶやいた。


「私は十条麻衣。よろしくね、チグサさん」


「私、風野知美と言います。千草さん、よろしくお願いします」


 千草の自己紹介の後、麻衣と知美が続く。


「僕は桜宮太地です。千草さんみたいな美人と知り合えてうれしいなぁ」


 最後に、太地が頭を掻きながら自己紹介をした。


「あら、お世辞がうまいのね。でも、目は胸元ばかり見てるわよ? そんなんだと、女の子にモテないわよ」


「え、いや、そんなつもりは」


 焦る太地に、「まあタイチはそんなんだからなぁ」と麻衣が突っ込んだ。



「まあみんな、お昼食べてないらしいから、お腹空いているだろ。食べながら、今後の話をしたいんだけど」


 真玄が声を掛けると、騒がしかった室内が一気に静かになった。


「まずは、今日起こったこと、そしてアマミヤが言っていたことを整理したいんだけど……」


 真玄はそう言うと、今日食品加工会社サイジョウ・ウイングで起こったことを話した。今回は、食欲を満たしたときに爆発したということくらいで、沙羅が襲われたときと大きな差異はないこと、そしてプリペイドカードを持っていないことが伝えられた。


「犯罪者予備軍がプリペイドカードを持たされなかった、か」


 真玄の話を聞いて、太地はピザを食べながら言った。


「それと、リア充が爆発する基準も、ある程度わかった。今のところ、強い欲求を満たした状態が長く続いた状態、ということらしい。だから、犯罪者予備軍に犯罪をさせて、実験させていたんだそうだ」


「強い欲求? ってことは、普段の生活じゃああまり関係ないってことですか?」


 知美がそういうと、寒太は「そうとも限らない」と割り込んだ。


「全員が爆発する可能性がある以上、今まで通りおとなしくしていたほうがよさそうだ。それに、「強い欲求」がどの程度なのか、よくわかっていないし、それで何故爆発が起こるかもよくわかっていない」


 そう言うと、寒太は冷凍食品のコロッケを一つ取って口に入れた。


「それに、呼び出された人間の役割も関係あるしね」


「呼び出された人間って、あれか? 非リア充とか、近リア充とか、そういうの?」


 麻衣がむしゃむしゃと冷凍焼きおにぎりをむさぼりながら言うと、真玄は「そう」と答えた。


「俺のような非リア充組は、しばらくこの世界に慣れさせるために早い段階で呼び出された。知美たちのような近リア充組は、犯罪者予備軍が爆発するところを見せる為。そして、犯罪者予備軍は、実際に爆発させる対象として呼び出された。そういう役割があるんだ」


「あれ、でも僕たち非リア充だけど、爆発するところを見てるよね。だったら近リア充って……」


「本来は、非リア充たちは全員引きこもるはずだったんだ。なにせ、何もしなくても一日五千円支給されるし、家から一歩も出ずに好きなことができるからね。俺たちは例外なのさ」


「あ、確かに。何もしなくていいなら一日中引きこもって出会いを求め……って、誰もSNSいないから!」


 太地が自分で乗り突っ込みをしているのを、真玄はスルーする。


「とにかく、犯罪者予備軍の実験が終わったら、次は近リア充の実験が始まるだろう。それを防ぐためにも、俺たち非リア充が守らないと」


「もっとも、守るっと言っても、そんな手段はないがな。しいて言うなら、出来るだけ目につくところに集めておくくらいだ。そういうわけだから、猫丸さん、あなたも僕たちと一緒にいたほうがいい」


 寒太がそういうと、千草は「そうね」と声を出した。


「まだよくわかっていないけれども、あなたたちと一緒に動いた方がよさそうね。それに、私より若い子が動いているのを、放ってはおけないし」


「そう言ってもらえると、非常に助かる。とにかく、人は多い方がいいからな」


「そうね。みんな、これからもよろしくね」


 千草がそう言うと、「こちらこそ」という声があちこちから聞こえた。


 そんな中、真玄は別のことを考えていた。


 ――自分たちがやっていることが正しいというのなら、それを証明する必要がある。


「アマミヤは、一体何が言いたかったのだろう」


 そう思いながら、真玄は残り一切れとなっていたピザを手にした。

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