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EP3:散歩タイム

 翌日、真玄はいつものようにコンビニに行き、アルバイトを始めた。

 午前中、公園に顔を出してみたが、茶髪の少女、本頭沙羅はいなかった。

 昼からのアルバイトはいつも通り、特に意味のない商品の消費期限切れ確認と現金チェック、そして店内の清掃だ。

 現金チェックをしていると、真玄がいない間にも、わずかながら売上があるのが確認できる。つまり何人かの客がここに来ていることになる。

 それが気になって防犯カメラのチェックをしてみるが、かなりとぎれとぎれになっており、客が入ってくる様子は映っていなかった。


「そういえば、あの日も防犯カメラが途中で切れてたよな。無人で営業できるコンビニの秘密でもあるんだろうか?」


 そんな疑問を持ちながらモニターをチェックしていると、入店音が鳴り響いた。真玄は慌てて、カウンターに出る。


「いらっしゃいませ。今日もお弁当?」


 やってきたのは、青地のワンピースを着た、風野知美だった。


「はい。今日は天気がいいので、外で食べようと思って。真玄先輩も、休みの日があったら一緒に公園にお弁当持って行きましょうよ」


 知美はそういうと、弁当のコーナーからから揚げ弁当を一つ手に取った。


「あ、公園といえば、おとといも昨日も、女の子を見かけて」


「え、私たちの他にも、まだ人がいるんですか?」


「いや、まあいるのはたくさんいるだろうけど、ちょっと変わった子で」


「へぇ……あ、飲み物」


 から揚げ弁当を真玄がいるレジの前に置くと、知美は店の奥のペットボトル飲料のところまで走っていった。途中こけそうになったので、真玄が遠くから「気を付けて」と声を掛けた。


「変わった子って、どんな子なんですか?」


 知美がペットボトルのお茶をレジに置くと、真玄がバーコードを読み取って清算を始めた。


「何て言うか、静かな子なんだけど、話しかけると一応は話をしてくれるし、でも人をあんまり信じてないみたいで」


「要するに、コミュニケーション能力が欠けてるのかしら」


「やっぱりそうなのかな。麻衣もそう言ってたけど」


 清算が終わると、知美はプリペイドカードを真玄に手渡した。レジに通すと、残高が表示される。


「そういう子って、人とあまり関わりたくないんだけど、特に異性だと警戒しやすいと思うんです。大体、小さい時に何かあって、それでうまくコミュニケーションが取れないんじゃないんですか?」


「うーん、難しい問題だなぁ」


 真玄は首をひねりながら、知美がお茶を取りに行っている間に温めていた弁当を袋詰めして知美に手渡した。

 それを受け取ると、知美は「じゃあ」と声を掛けた。


「真玄先輩、バイトが終わったら暇ありますか? よかったら、私も一緒に行きますよ?」


「え?」


「女の子同士の方が、警戒されなくて済むかもしれないじゃないですか。だから、一緒に行きましょうよ」


「確かにそうかもね。じゃあ、二時間後くらいにもう一度ここに来てくれる?」


「わかりました、じゃあお昼が済んでしばらくしたらまたこちらに来ますね」


 そういうと、知美は手を振って店から出ていった。



 十七時過ぎ、間黒はアルバイトが終わると、着替えて店の外に出た。

 店の入口に向かうと、ちょうど同じタイミングで知美がやってきた。


「それじゃあ、行きましょうか」


 知美がそういうと、真玄はうん、と言って、自転車を押して公園のある住宅街へ向かった。


 コンビニのクーラーが効いていたせいで、体感温度がやけに暑く感じる。真玄は時折首に掛けていたタオルで汗を拭きとるが、知美がその様子を見て「汗っかきなんですね」と笑っていた。


「それにしても、最近はずっといい天気ですね。こんな日には、やっぱりお弁当を持ってピクニックですよ」


「うーん、俺はこういう暑い日よりは、曇ってたり雨降ってたりしたほうが好きかな。それで、家に引きこもっていたい」


「ええ、それは損ですよ。夏には夏にしかできないことがあるんですから」


 妙にご機嫌な知美を見て、真玄は大丈夫だろうかと心配していた。

 不機嫌にはさせたくないのだが、どこかでリア充にならないようにコントロールしないといけないだろう。そう思いながら、国道を横切り、住宅街へと入っていった。


 相変わらず静かな住宅街を、淡々と進んでいく。影が多いおかげで、太陽の熱は伝わってこない。しかし、それでも汗がじんわりとにじみ出てくる。

 寄り道をせず、公園に向かっていくと、案外と早く到着した。意外と国道からは離れたところではなかったらしい。


「えっと、ここですか?」


 植木の壁を見て、知美が公園を指さした。


「うん。入り口はこっちだよ」


 そういうと、真玄は自転車を入口の近くに停めると、公園の中に入った。

 相変わらず、公園には誰もいない。ブランコにも誰も座っておらず、風が吹き抜けるだけだった。


「……今日は来てないのかな」


「もしかしたら、どこかに行っているのかもしれないですね。少しベンチで待ってみましょう」


 そういうと、知美は「こっちですよ」とすべり台の近くにあるベンチに向かった。


 木製のベンチは、つい最近置かれたのか、雨ざらしにもかかわらずかなりきれいな状態だった。

 知美がベンチに座ると、真玄はショルダーバッグからペットボトルの冷たいお茶を取り出し、知美に手渡した。近くに自動販売機がないのは知っていたので、あらかじめコンビニで買っておいたのだ。


「あ、ありがとうございます」


 それを受け取ると、知美はキャップを開けてお茶を一口飲んだ。真玄も隣に座り、ペットボトルのスポーツドリンクを口にする。

 西側と東側に高いアパートが立っており、ちょうど日影ができているおかげで、あまり暑さを感じない。

 スポーツドリンクを飲みながら空を見上げると、澄み切った青空に少しだけ雲が流れているのが見えた。


「……こうしていると、なんだか恋人同士みたいですね」


「え?」


 思わず、真玄はドリンクを飲む手を止めた。


「ほら、よくカップルが公園のベンチに座って、自動販売機でジュース買って来て、ほっぺたにぴちゃっ、とかやるでしょ? 私、そういうのを一度やってみたかったんです」


「ああ、そういえば俺も、元カノとよくやってたかな」


「ええ、そうなんですか? じゃあ今度私とやりましょうよ」


「え、ああ、うん」


 真玄は言葉を濁らせながら、笑ってごまかした。

 おそらく彼女は分かっていないのだろう。この世界でリア充になるということが、どういうことなのか。

 しかし、単純に断ることもできない。真玄はどうしたものか、と頭の中で考えていた。


「あ、あの子じゃない?」


 ふと、知美の声が、ぼうっとしていた真玄の意識を戻した。

 知美が指さす先を見ると、公園の入口に本を抱えた少女が立っていた。


 間違いなく、本頭沙羅だった。

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